9月25日、マジョルカの本拠地ソン・モッシュで行なわれたアトレティコ・マドリード戦。久保建英はマジョルカ入り後、初めてスタメンを飾った。アトレティコ・マドリード戦に先発フル出場した久保建英(マジョルカ) 結果は0-2。アトレティコ期待…

 9月25日、マジョルカの本拠地ソン・モッシュで行なわれたアトレティコ・マドリード戦。久保建英はマジョルカ入り後、初めてスタメンを飾った。



アトレティコ・マドリード戦に先発フル出場した久保建英(マジョルカ)

 結果は0-2。アトレティコ期待の19歳、ジョアン・フェリックスがゴールを決めたのに対し、久保は2度シュートチャンスに遭遇したものの、ゴールを決めることができなかった。

 マジョルカ所属ながら、レンタル元はレアル・マドリードだ。アトレティコはそのライバルであり、ジョアン・フェリックスも、久保個人としては負けられない相手になる。アトレティコ戦はゴールがほしい試合だった。

 久保のプレーについての良し悪しを語る時、難しいのは話の前提だ。どのレベルで語るのが適切か。この試合、採点の平均点を6とするならば、久保のプレーは「6.5」はいけそうな出来映えだった。並の選手なら6.5という採点は一応、高評価だ。しかし、久保がマジョルカに在籍するまでの経緯を踏まえると、それでは少々、物足りなく感じる。他のマジョルカの選手と同レベルで久保を見るわけにはいかないのだ。

 実際、この試合を見た一番の印象はマジョルカのレベルの低さだった。開幕戦に勝利したものの、その後の5試合は1分4敗。降格候補であることは、試合の中身を見れば一目瞭然だった。

 なにより選手のクオリティーが低い。久保に迫る選手はいない。アトレティコとは10回試合をして1回も勝てそうもない強者と弱者の関係にあった。しかし、その中にあって断トツにうまい久保に、最初からパスがよく集まったわけではなかった。マジョルカの選手のパスを意図的につなぐ能力が低いこともあるが、そもそも久保に依存しようとする姿勢が見られなかった。

 それはこの日、初めて抱いた感想ではない。交替で出場した過去3戦も同様な傾向が見え隠れした。仲間としてまだ正式に迎えられていないという感じだ。敷居の高さを見た気がしたが、時間の経過とともに、彼らのそうしたつまらないプライドは薄れていった。パスは次第に回ってくるようになった。

 アトレティコ戦のハイライトは、0-1で迎えた後半開始早々に訪れた。中盤で相手ボールを拾った久保は、サポートの動きを確認しながら、速からず遅からずドリブルで前進。まずサルバ・セビージャとパス交換し、続いてドリブルを交えながら右側を走るダニ・ロドリゲスにボールを預けた。

 そして久保が前方のスペースに縦に走ると、ダニ・ロドリゲスからリターンが来た。シュートチャンスが到来した瞬間だった。ゴール左を狙った右足シュートは、DFステファン・サビッチに当たりながらポストを強襲。アトレティコの名GKヤン・オブラクが慌てて掻き出したため、ゴールはならなかったが、そこに至るまでの展開は、両軍通じてこの日、最もスムーズで鮮やかだった。そのリズムを作ったのは他ならぬ久保。強者アトレティコ相手にそれを発揮できたことは、非凡な才能の持ち主であることの証しになる。

 その直後にも久保は得点のチャンスをつかんでいた。相手GKオブラクの蹴り損ないが、久保の目の前に転がってきたのだ。切れ込んでシュートに出た久保だったが、身体を開きすぎてしまったのか、シュートは枠を大きく外れた。

 このどちらかのシーンでゴールを奪っていれば、採点は「6.5」から「7.5」に跳ね上がっていただろう。後半19分、アトレティコに2点目のゴールをもたらしたジョアン・フェリックスの評価がまさにそれだ。この「7.5」と「6.5」には大きな差がある。

 一流選手になれるか、超一流選手になれるか、それとも単なる好選手で終わるのか。チャンピオンズリーグに100試合出場する選手になるか。日本人最高の32回(香川真司)を超えたくらいで終わるか。どのレベルの選手に収まるのか。18歳の久保はいまその分かれ目にいる。選手としての評価が確定している28歳の選手ではない。1年で急成長するかもしれないし、このまま伸びずに終わる可能性もある。その幅は大きいのだ。

 久保がこの試合で最も可能性を感じさせたシーンは、対峙する相手との1対1だ。ほぼすべて逃げずに向かっていた。顔を上げ、相手を見据えるように威嚇していた。物怖じしていない様子がそのシルエットに現れていた。アトレティコの選手に対し、一切、恐れを抱いていない様子だった。アトレティコの一員になっても十分やっていけそうだとの可能性をそこに垣間見ることができた。

 久保は先発フル出場。これでようやくスタートラインに立ったという印象だ。チームメートの見る目も変わってきている。乗っていきたいところだが、スケジュールに目をやれば、10月10日、15日には日本代表戦が控えている。ホームのモンゴル戦とアウェーのタジキスタン戦だ。

 久保は今回も招集されることになるのか。筆者は、それは久保の成長の妨げになると考える。前回はマジョルカで1試合、交代出場するや、早くもチームを離れて帰国。日本代表合宿に合流した。結局、10日以上もチームを離れることになった。チームに馴染むのに時間がかかった原因と言っていい。

 今回は19日にレアル・マドリード戦が控えている。アピールする絶好の機会である。いまはチームから離れるべきではないタイミングだ。森保監督はそれでも久保を招集するつもりなのか。

 繰り返すがまだ18歳だ。何よりまだ身体ができていない。このアトレティコ戦でも久保は終盤、くたくただった。その身体にエネルギーは残っていなかった。見ていて痛々しいぐらい疲れ切っていた。交代枠を使い切ってしまったために、そのような姿をさらけ出すことになったわけだが、のるかそるか、微妙な時期を迎えている18歳には、細心の注意が必要なのだ。変にフル稼働させてはいけない。

 怪我の心配もある。かつて19歳の小野伸二が、シドニー五輪予選で、フィリピン相手に猛タックルを受けた過去を忘れてはいけない。休ませることも必要なのだ。19日のレアル・マドリード戦に久保が準備万端の態勢で臨むことは、日本代表がモンゴルやタジキスタンに大勝することよりはるかに重要なのである。

 日本代表のメンバー発表は10月3日だ。そこに久保の名前はあるのか。森保一監督の決断が注目される。