F1第15戦・シンガポールの表彰台に立ったマックス・フェルスタッペンの顔には、明らかに落胆の色がにじんでいた。それは、レッドブル・ホンダがこのシンガポールGPに勝つことだけを考えて臨んでいたからだ。

「僕らは勝つためにここに来た。でも、それができなかった。パフォーマンスという意味では、オーストリアGP(第9戦)以降で最低のレースだったと思う。僕らはここではかなり速いと思っていた。これはある種のウェイクアップコール(警鐘)のようなものだ」



勝ちを狙ったシンガポールGPで完敗を喫したレッドブル・ホンダ

 中低速サーキットのマリーナベイ市街地サーキットでは自分たちが速いはずだ――という慢心が、チームのどこかにあったのかもしれない。

 金曜フリー走行では、トップのルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)と0.184秒差の2位。それもトラフィックに引っかかって満足なアタックでなかったことを考えれば、実質的に自分たちがトップにいるという手応えがあった。

 そのせいか、フェルスタッペンも上機嫌だった。

「最終セクターで3、4台に引っかかったから、そういう意味であまりいいラップではなかった。そのせいでハードタイヤのタイムに比べて0.2秒しか短縮できなかったからね。その点を考えれば、かなり僕らは強力だと思う。クルマはとてもよく機能しているよ。シンガポールはとてもバンピーだし、きちんと理解するのが難しいサーキットだけど、コンペティティブなクルマでなら走っていてもすごく楽しい」

 しかし、土曜日になって状況は一変した。

 フェラーリが急に速さを見せたのに対し、レッドブルやメルセデスAMGはグリップの安定感を欠き、狙っていたポールポジションにも0.596秒差の4位と、遠く及ばない結果となってしまった。

 レッドブルも、メルセデスAMGも、コーナーによってグリップしたりしなかったりと安定感を欠き、マシン本来の速さをフルに引き出し切れなかったという点で共通していた。

「マシンバランスは悪くないんだ。でも、いくつかのコーナーでグリップが十分じゃなかった。なぜそうなるのか、説明ができない。ドライビングしていてこのクルマにはもっとポテンシャルがあると感じられるのに、それを使うことができないという状況だ。とにかく、4つのタイヤにしっかりとグリップを感じることができていない」(フェルスタッペン)

 チームメイトのアレクサンダー・アルボンも、「マシンが少し自分自身から離れていってしまうような感じだった」と説明した。アルボンの場合は、金曜のクラッシュでフロントウイングを壊し、オーストリアGPから使ってきた新型ではなく旧型での走行を強いられたことも、またさらにタイムに影響を及ぼしてしまった。

 決勝では予想以上にタイヤの性能低下が早く、フェルスタッペンは他車に先駆けて19周目にピットイン。結果的にこれが功を奏し、メルセデスAMGのルイス・ハミルトンを逆転して3位でフィニッシュすることに成功した。

 しかし、レース終盤はハミルトンから厳しいプレッシャーを受け、マシンパッケージとして負けていたことは明らかだった。

「彼はかなり激しくプッシュしてきたよ。残り7周の段階ではまだ何も問題はなかったけど、残り4周を切ったあたりから彼が一気にギャップを縮めてきて、いくつかある決定的なコーナー、つまり彼のほうが速いと思われるコーナーの出口ではミスをしないよう、細心の注意を払って走らなければならなかった。ピットで見ているチームのみんなもドキドキしたと思うけど、僕はとにかくコーナーの出口を綺麗に立ち上がることだけに全精力を注いでいたんだ」

 好バトルの末に実力で上回る相手を抑え切って表彰台を手にしたのだから、本来ならば笑顔に包まれてもおかしくない結果だ。しかし、レッドブル・ホンダは勝つべくしてここにやって来ていただけに、完敗と言えるこの結果に、落胆のほうが大きかった。

 テクニカルディレクターのピエール・ヴァシェは、金曜から土曜にかけてのセットアップ方法にミスがあった可能性を指摘した。レッドブルが本来速さを発揮するはずの中速コーナー、つまりシンガポールの半数以上のコーナーで、十分な速さが発揮できなかったからだ。

「原因はわかっていないが、タイヤのグリップを引き出せなかったのは、空力面とメカニカル面の両方に原因があったとしか言いようがない。今週末の我々は、中速域のコーナリング性能が遅かった。本来の速さを発揮することができなかった。

 週末全体のなかのどこかでセットアップの方向性を誤ってしまったのかも知れないし、バーレーンGPの時のようにセットアップにミスがあったのかも知れない。何が原因でそうなってしまったのかをもう一度、しっかりと分析して理解することが重要だ」

 メルセデスAMGとレッドブルが迷走し、本来の速さを発揮できなかった一方で、フェラーリは従来から持っていたストレートでの速さに加え、苦手としてきた低速域での競争力も増してきた。それがシンガポールGPでの好走につながったのだ。

 新型ノーズをシンガポールに持ち込んで成功させた今のフェラーリは、鈴鹿のようなサーキットでも十分な速さを発揮する可能性が高いと、ヴァシェは言う。

「フェラーリはストレートだけでなく、全体的にインプルーブ(改善)してきていた。低速コーナーでも速くなっているのは間違いないし、ここで速いということは、日本GPでも速さを発揮するはずだ。

 彼らは新型ノーズを持込んできたが、我々もハンガリーGPの時に比べてさらにマシンをアップデートさせ、今回も小さな新パーツを持込んではいた。だが、十分ではなかったということだ。我々は最終戦までこのクルマの開発を継続していくつもりだし、もっと開発をプッシュする必要がある」

 自分たちがシンガポールでセットアップの方向性を見誤ってしまっただけだったのか、それともマシンそのもののパフォーマンスで逆転されてしまったのか――。



3位でもフェルスタッペンの表情には落胆の色がにじんでいた

 その明確な答えは、まだない。わずか4日後に訪れるロシアGPでその答えをしっかりと確認し、次なる一手を正しく打つことが重要だ。次に控える日本GPで最高の走りをするためには、なおさらだ。

 フェルスタッペンは言う。

「どうしてそれが間違った方向に行ってしまったのか、いくつかアイディアはあるから、それらすべてを分析して、次のソチで速さを取り戻せるかどうかトライしなければならない。ソチのサーキットは僕らにとって最高とは言えないレイアウトだけど、クルマがコーナーできちんと機能しているかどうかを見ることはできるはずだからね。

 とにかく、今週のシンガポールではクルマが僕の思ったとおりの挙動を示してくれないコーナーが多すぎた。この状況を改善するために何ができるのか、ファクトリーで対策を練ってくるよ」

 困難に直面したときにこそ、そのチームの実力が浮き彫りになる。今シーズン残りのレースでレッドブル・ホンダがさらなる勝ち星を挙げられるかどうか、その答えが次のロシアGPで見えてくるはずだ。