福田正博 フットボール原論■W杯ロシア大会から1年以上が経過し、次のカタール大会を目指すW杯予選が始まった。日本サッカー界はロシア大会で露呈したゴール前での”高さ”や”強さ”という課題を少…

福田正博 フットボール原論

■W杯ロシア大会から1年以上が経過し、次のカタール大会を目指すW杯予選が始まった。日本サッカー界はロシア大会で露呈したゴール前での”高さ”や”強さ”という課題を少しずつ改善することができているのか。今回、とくに高さが求められるGKについて、元日本代表の福田正博氏に考察してもらった。

 現在、日本代表のCB陣には188cmある20歳の冨安建洋(ボローニャ)が台頭。189cmの吉田麻也(サウサンプトン)とのコンビならば、W杯ロシア大会時に比べて高さへの不安は小さくなっていると見ていい。

 しかし、CB陣の大型化が進んでいるとはいえ、世界基準から見ればまだまだゴール前での高さは物足りない部分があるのも事実だ。さらに、世界と肩を並べるために避けては通れないのが、ゴール前の砦であるGKのサイズアップだ。



シント・トロイデンに移籍したシュミット・ダニエルら、190cm以上のGKが世界基準になりつつある

 日本代表GKは、これまで俊敏性を特長にする選手がつとめるケースが多かった。川口能活氏や中村航輔などがその典型例だろう。だが、海外に目を向ければ、世界基準のGKは、マヌエル・ノイアー(バイエルン)や、ティボー・クルトワ(レアル・マドリード)など、身長190cmを超える高さがあり、それでいて足元のボール扱いもうまく、俊敏で広いエリアをカバーする。

 日本代表クラスのGKはどうかといえば、身長190cmを超えるGKは、今夏からシント・トロイデン(ベルギー/前ベガルタ仙台)に移籍した197cmのシュミット・ダニエル、195cmの林彰洋(FC東京)がいる。そのほかは、権田修一(ポルティモネンセ)187cm、大迫敬介(広島)186cm、川島永嗣(ストラスブール)185cm、中村航輔(柏)185cm、東口順昭(G大阪)184cm、西川周作(浦和レッズ)183cmと、サイズ的には強豪国に比べてやはりまだ小さい。

 もちろん、国内に190cmを超える素材がいないわけではない。来季から横浜F・マリノス入団が内定している流通経済大のオビ・パウエル・オビンナは193cmあり、今年6月のトゥーロン国際大会ではU-22日本代表として同大会初の準優勝に貢献している。

 今年1月に柏U-18からベンフィカ(ポルトガル)へ移籍した小久保玲央ブライアンは191cm。U-16日本代表にも名を連ねた2001年生まれは、まだまだ身長が伸びる可能性は高い。ただ、彼らは高さこそ世界基準にはあるものの、ポジショニングをはじめとする技術を、さらに高めていかなければならない。

 また、骨格を含めた体格のサイズアップは容易でないという事実とともに、日本人GKを育てる場であるJリーグで、日本人GKが定位置を掴むのが困難な状況にあるという問題もある。

 J1を見ると18クラブのうち半分近くで、外国籍GKが守護神としてゴールマウスを守っており、レギュラーとして常時試合に出場している日本人GKはなかなか増えていない。これでは、日本人GKが経験を積むことも難しくなってくる。

 シュミット・ダニエルがシント・トロイデンに移籍したベガルタ仙台には、元ポーランド代表のヤクブ・スウォビィクが加入した。ほかに、カミンスキー(ジュビロ磐田/ポーランド)や、ランゲラック(名古屋グランパス/オーストラリア)もいる。また、韓国籍GKに目を向ければ、パク・イルギュ(横浜F・マリノス)、キム・ジンヒョン(セレッソ大阪)、チョン・ソンリョン(川崎フロンターレ)、ク・ソンユン(コンサドーレ札幌)、クォン・スンテ(鹿島アントラーズ)が、守護神として存在感を放っている。

 各クラブが外国人GKにゴールマウスを託すのは、GKが勝敗に直結するポジションだからだ。Jリーグのトップチームは育成組織ではない以上、それは致し方のないこととはいえ、日本人GKが国内最高峰リーグで試合経験を積めない現状をどう考えるべきか、悩ましいところだ。

 韓国人GKのJリーグでの活躍の背景を考えてみよう。2009年からキム・ジンヒョンがセレッソでプレーするようになって以来、彼の成功によって韓国代表レベルのGKがこぞってJリーグでプレーするようになった。

 現在のJリーグには先に名前を挙げた選手のほかにも、サガン鳥栖にキム・ミノ、大分トリニータにはムン・キュンゴン、松本山雅にはゴ・ドンミンという韓国籍GKがいる。さらに今夏に蔚山現代に復帰したキム・スンギュ(前ヴィッセル神戸)などもいた。これは、韓国サッカー界が長年にわたってGKの強化に乗り出してきた成果でもある。

 韓国では1999年からKリーグで外国人GKの登録や出場を原則として禁じている。これは、経験値が最も重要と言われるGKという特殊なポジションにあって、自国籍GKの育成を目的にしたルール制定だったが、これが奏功したとも言える。

 そうしたなかで、日本人GKを世界基準に近づけるためには、韓国サッカーのGK育成法のエッセンスを取り入れることも必要だろう。そのひとつとして、日本人GKの出場機会を増やすためのルールづくりを検討すべきかもしれない。

 また、体格面に関しては、国内のバレーボールやバスケットボールには、190cm以上の長身の日本人選手がいる。技術は教えることで伸ばせるが、体格は生まれ持ったものなので、そうはいかない。資質に恵まれた彼らが、幼少期や少年時代にサッカー以外の競技を選んだ背景にも、真剣に目を向けるべきだろう。

 日本サッカー界では、機敏でテクニカルな小柄な選手が脚光を浴びがちだが、一方で、体の大きさに恵まれた選手もまた、高さという利点を生かしながら、それ以外の能力を高めていることにも着目してもらいたい。

 日本代表がこの先、世界トップレベルの国々を相手にして、安定して好結果をつかむためには、高さと強さと機敏さを備えたGKの存在は不可欠だ。これからの時代は、体格に恵まれている子どもたちがGKのポジションを熱望するような環境をつくること、そしてその才能を伸ばす育成システムを構築することがより大事になってくるだろう。