写真:邱党(木下グループ)/撮影:伊藤圭

世間の注目が来年の東京五輪に集まる中、虎視眈々と24年パリ五輪を見据える卓球アスリートがいる。

その名も、邱党(キュウダン)。23歳ながら今年ドイツ代表として世界選手権ブタペスト大会に出場した。

邱党は、ドイツ・ブンデスリーガで年間最優秀コーチ、リオ五輪時に水谷隼(木下グループ/Tリーグ・木下マイスター東京)のプライベートコーチを務めるなど名指導者として知られる邱建新氏(キュウジェンシン・木下グループ総監督)の愛息だ。

今年は、4月の世界選手権シングルスに初出場。6月のワールドツアーでも、香港オープンで台湾のレジェンド・荘智淵(チュアンチーユエン)を破り、日本の水谷隼にも肉薄。続くジャパンオープンではダブルス準優勝を果たすなどメキメキと力をつけている。

シェークハンド全盛の卓球界で、数少ないペンホルダーとしても注目を集める邱党に今の胸のうちを聞いた。

真の強さを手に入れる中長期プラン




写真:2019オーストラリアOPでの邱党(キュウダン)/提供:ittfworld

――ドイツ代表として今年の世界選手権に初出場、おめでとうございます。
邱党選手(以下:邱):ありがとうございます。

日本もレベルが高いですが、ドイツもティモ・ボル、オフチャロフら世界の頂点を経験している選手が多く、簡単にはシングルスの代表になれません。そんな中、世界選手権代表として出場できたことは自信になり、メンタル面での充実につながっています。

――その後のワールドツアーでも結果を残されています。
邱:今年の試合結果は、ここ3~4年の練習の成果です。

ずっと努力してきて、そのプロセスは間違っていなかったです。沢山練習して、そのおかげで結果が出て、自信がつきました。これが最近の状況です。

――環境やルーティーンなど最近何か変えたことはありますか?
邱:2017年12月が転機でした。デュッセルドルフに練習拠点を移し、ナショナルチームメンバーとして卓球中心の生活をするようになりました。

ここから本当に卓球だけに集中でき、ここ1年半は1日24時間すべての時間を卓球のために使えている実感があります。

ナショナルチームのコーチのもとで練習し、練習以外の時間もジムに行き、ルームメイトとゲームをする時間ですら、卓球でいい成績を残すための気分転換だと自信を持って言えます。

実家にいる時は、食事や洗濯は母がやってくれていましたが、今は食事管理や家事も自分。全てを自分でコントロールしている実感があり、プロフェッショナルに、そして大人になったと思います。




写真:邱党(木下グループ)/撮影:伊藤圭

――直近の目標は?
邱:今年の目標はブダペストの世界選手権に出ることでした。他のドイツ選手も強くて世界ランキングも高かったのですが、達成できました。

次の目標は、ドイツナショナルチーム内で5位以内に入ることです。今は実力的には7番目、8番目ぐらいかなと客観的には見ています。

しかし、あまり物事を短期では考えていません。長いキャリアの中、中長期で実力がつけばよいと思っています。

オリンピックもいずれは出たいですが2020年の東京は現実的ではない。その先の2024年パリ大会をターゲットにしています。いずれはボルやオフチャロフのように世界の頂点に立てる選手を目指しています。




写真:2019香港OPでのティモ・ボル。ドイツ代表として長年トップで戦っている/撮影:ラリーズ編集部

世界ランキングが高いから勝てるのではなく、強いから勝てる

――卓球をはじめたきっかけは?
邱:父の影響で6歳から卓球をはじめました。ヨーロッパはみんなシェークハンドですが、僕は父の影響でペンホルダーです。卓球は父から全てを教わりました。




写真:邱党(写真左・木下グループ)と邱建新氏(写真右・木下グループ総監督)/撮影:伊藤圭

――今後のキャリアプランは?
邱:僕は若いうちは試合経験よりも、とにかく練習量を増やして、中長期で実力をつけることが大事と考えています。なので今の恵まれた環境で練習をやりこみ、フィジカルとテクニックを強化するつもりです。

ティモ・ボルのようにベテラン選手だと、練習量を落として体のケアや調整を重視していますが、僕の場合はまだまだ沢山練習しないと。

試合については、今はブンデスリーグの日程を最優先し、その合間に自分が参加したいワールドツアーを選んで出場しています。

――今年参戦した6月の香港オープンでは水谷選手をフルゲームまで追い込みました。
邱:(水谷)隼とは2~3年前、一緒に練習していた時期がありました。

まだ実力で上回っているとは思っていないので、とにかく思い切り向かって行こうとプレーしました。ゲームカウント3-2の8-5になった時は勝てるかなと思いましたが、そこからが強かったです。

自分の実力は出せましたが、7ゲームは本当に長かったです。1時間近くかかるので、集中力をずっと保つのは難しく、集中力を切らすとすぐに1,2ゲーム落とし、流れが変わります。そういう経験が出来たのが貴重でした。




写真:2019香港OPでの邱党/撮影:ラリーズ編集部

――世界ランキングについてはどのように考えていますか?
邱:正直言ってあまり気にしていません。世界ランキングを短期で上げるには沢山ワールドツアーに参加しないといけないですが、今の自分にとっては練習して強くなることの方が大事。

「実力がつけば勝てる」というのが僕のフィロソフィー。世界ランキングが高いから勝てるのではなく、強いから勝てる。中国のトップ選手はみんなそうです。

将来はワールドツアープラチナやT2ダイヤモンドのようなポイントの高い大会にだけ出て、それでも勝てるような選手を目指したいです。馬龍(マロン・中国)やボル、オフチャロフのように。




写真:T2ダイヤモンドでのオフチャロフ(ドイツ)/撮影:ラリーズ編集部

希少価値の高いペンホルダー




写真:2019香港OPでの邱党/撮影:ラリーズ編集部

――世界で活躍するペンホルダーは貴重です。
邱:確かに今はドイツも日本もシェークハンドしかいませんね。

でもアジアには許昕(シュシン・中国)や、黄鎮廷(ウォンチュンティン・中国香港、TリーグT.T彩たま)など強いペンホルダーはいます。

今のペンホルダーは、特長であるフォアハンドだけでなく、バックハンドも上手くないと勝てない。特に裏面打法が開発されてからペンもシェークと同じようにバックハンドが振れるようになりました。だからペンの弱点は無くなったと言えます。特に黄鎮廷はバックハンドがうまく、参考にしています。

――プレーに関して、お父さんである邱建新氏からのアドバイスは?
邱:ありますね。基本的には言われたら素直に取り入れてみるようにしていますよ(笑)。

例えば、フォアハンドフリックのときに、もっと柔らかく握って手首の可動域を広げろという専門的なアドバイスもあるし、フォアとバックのバランスなど大方針に関するものもあります。

――ライバルや目標としている選手はいらっしゃいますか?
邱:特に誰を倒したいというのは無いですが、馬龍のような誰にでもそして何度でも勝てる、本当に実力のある選手になりたいです。

馬龍は小手先ではなく、フィジカルが強い。そして全ての技術のフォームがコンパクトで質が高い。

彼は威力あるフォアハンドで得点している印象が強いですが、11点のうち実際にフォアで撃ち抜いているのは2点ぐらい。残りは派手なプレーではなく、質の高い返球で相手のミスを誘っています。

レシーブも精度が高いし、バックハンドもコンパクトながらコースが厳しい。気づけば馬龍にポイントがいっている。これが本当に強い選手の戦い方。僕が目指しているスタイルです。




写真:邱建新氏(写真左・木下グループ総監督)と邱党(写真右・木下グループ)/撮影:伊藤圭

※インタビュー日:2019年6月
文:川嶋弘文(ラリーズ編集長)