ACL決勝トーナメント準々決勝――。敵地での第1戦を2-2で引き分けていた浦和レッズにとって、ホームで行なわれる第…

 ACL決勝トーナメント準々決勝――。敵地での第1戦を2-2で引き分けていた浦和レッズにとって、ホームで行なわれる第2戦は、上海上港に勝てばもちろん、0-0、もしくは1-1のドローでも、勝ち上がりが決まる状況だった。

 逆に敗戦、あるいは3得点以上でのタイスコアであれば、敗退となる。その条件を踏まえれば、手堅く試合に入り、ロースコアの展開に持ち込むことが得策と思えた。



右サイドで輝きを放った20歳の橋岡大樹

 しかし、試合前に大槻毅監督が選手たちに求めたのは、「前に出ること」だった。

 受け身にならず、積極性を示し、主導権を奪い取る。守り切るのではなく、勝ち切ることこそが、この日の浦和の姿勢だった。

 その背景には、リーグ戦での低迷も起因するだろう。7試合勝ちがなく、15位に転落し、残留争いに巻き込まれている。ルヴァンカップでも鹿島アントラーズに敗れ、ベスト4進出はならなかった。その負の連鎖を断ち切るためにも、闘う姿勢を打ち出すことが何より求められていたのだ。

「国内のリーグの状況を省みても、ここでひとつ、我々が浦和レッズだというところを見せなければいけなかった」

 試合後、指揮官はそう振り返っている。

 かくして、強い危機感を備えてこの試合に臨んだ浦和は、ブラジル代表のオスカルらビッグネームを擁する上海上港に真っ向勝負で挑んだ。序盤こそ相手のハイプレスに苦しむ場面も見られたが、次第に主導権を握ると、サイドを効果的に使った攻撃で相手ゴールに迫っていく。

 そして39分、待ちわびた先制ゴールが生まれる。決めたのは、興梠慎三だ。故障を抱えてこの試合に臨んだ浦和のエースは、卓越した動きでDFの視野から外れ、フリーでヘディングシュートを叩き込んだのだ。

 この1点が、浦和の戦いを楽にした。後半に一瞬の隙を突かれて1点を返されたものの、その後は粘り強い守備で追加点を許さず、警戒していたオスカルやマルコ・アルナウトビッチにも仕事をさせなかった。

 勝ち切ることはできなかったとはいえ、2試合合計スコアは3-3。アウェーゴールの数で上回り、2度目のアジア制覇を成し遂げた2017年以来、2年ぶりのACLベスト4進出を果たした。

 勝ち抜けの立役者が興梠であることは間違いない。先制ゴールはもちろん、その後も鋭い動き出しでラインの裏を取り、幾度となく決定的なチャンスを迎えている。

 第1戦でもゴールを決めたストライカーは、敵将も「苦しめられた選手」として、その名を挙げている。足の痛みから力が入らず、「いつ代えてもらおうか」と考えていた状態だったにもかかわらず、エースとしての責任を全うし、最後までピッチに立ち続けた。その興梠の姿勢こそが、この試合にかける浦和の想いを象徴していたようだった。

 もちろん、興梠だけではない。アルナウトビッチを完封した鈴木大輔、中盤で守備に奔走しながら展開力も示したエヴェルトン、身をていしてピンチをしのいだ槙野智章も殊勲者のひとりだろう。

 そしてもうひとり、目を引いたのが、右サイドで躍動した橋岡大樹である。東京五輪世代である20歳のウイングバックは、監督が求めた「前に出る」姿勢を最も体現した人物だった。

 スペースに果敢に飛び出し、右サイドからの攻撃に厚みをもたらすと、隙を見てはカットインから強烈なショットをお見舞いする。セットプレーではその高さを生かし、あわやというシュートも放っている。西川周作のゴールキックのターゲット役としても、十分に機能していた。

 とりわけインパクトを放ったのは、同点に追いつかれた直後の61分のプレー。果敢に前に飛び出してエリア手前でボールを受けると、左足を強振。シュートは惜しくもバーに阻まれたものの、上海上港の肝を冷やす一撃だった。

 本来はCBの選手である。ジュニアユースから浦和に在籍する生え抜きで、トップ昇格後はウイングバックを主戦としているものの、その特長は対人プレーの強さを生かした守備にある。だからウイングバックであっても、より守備的なイメージを備えた選手と言えるだろう。

 しかし、この日の橋岡は違った。

「自分は攻撃が苦手と言われていますけど、ビビらずに積極的にやっていけば変わるんじゃないかなと。そこを挑戦してみた結果、シュートを打つ機会が多くなったし、いいきっかけになったと思います」

 守備だけの選手だとは思われたくはない。その反骨心が、この重要な試合での躍動を生み出したのだろう。ビビらずにやり切るというメンタルの強さも、橋岡のストロングポイントと言えるかもしれない。

 まだ橋岡がユースに所属していた頃、一度だけ話を聞いたことがある。高校1年生の冬、トップチームのキャンプに帯同した時の感想を聞くと、威勢のいい言葉が次々に返ってきた。

「まずまず、やれたと思います」
「競り合いと球際は、負ける気はしないです」
「ロングフィードも自分のよさだと思っているので、そこを見てほしいです」

 若さゆえの強がりにも聞こえたが、そのギラギラとした眼差しから、大物になる予感を感じとったのも、また事実だった。その勝気な姿勢こそが、この選手の魅力なのだろう。

 上海上港戦でも、前半に強引にシュートを放つと、味方の選手が不満げなジェスチャーを見せる場面があった。普通の若手なら、ここでひるんでしまうかもしれない。しかし、橋岡の場合はひと味違う。後半に同様のシーンが訪れると、そこでも再びシュートに持ち込んでいったのだ。

 もちろん、技術や判断の部分には課題もあるだろう。しかし、ガムシャラにやり切るという姿勢は、若さの特権であり、チームに勢いをもたらすファクターになり得る。

「もっともっと勝ちにこだわって、今はいいサッカーというよりも、勝ちにこだわってやりたい」

 そう意気込む怖いもの知らずの20歳には、底知れぬポテンシャルが秘められている。リーグで低迷するチームを救う、そしてアジアの頂を狙ううえで重要なキーマンとなるかもしれない。