オランダリーグのズヴォレに所属する元U-23日本代表、ファン・ウェルメスケルケン際(さい)が9月15日のワールワイク戦で2アシストを記録し、チームの勝利に貢献した。

 右サイドバックで先発した際は27分、MFグスタフォ・ハマーからのミドルパスをダイレクトで中に蹴り込んだ。このプレーがゴール前で混戦を作るきっかけとなり、FWイリアス・ベル・ハサニの先制ゴールにプレアシストとして関与した。



今季ズヴォレに移籍してきたファン・ウェルメスケルケン際

 ズヴォレは前半を1-2で終えたが、後半に入ってからは徐々に盛り返し、81分には際のスピードに乗ったクロスがイラン代表のFWレザ・グーチャンネジャードのヘッドにピタリと合って3-2と逆転。さらにはアディショナルタイムにも、MFムスタファ・サイマクとのワンツーから右サイドを抜け出した際が丁寧に折り返し、ハマーのゴールをお膳立てした。

 今季初のアシストとなった81分のクロスは、本人も「ピンポイントだった」と振り返った会心のもの。完全にフリーだったグーチャンネジャードがヘッドで軽く合わせた瞬間、際はバックスタンド手前で派手なガッツポーズを作った。

「練習中から(長身ストライカーの)レナート・ティがニアに行く決まり事があったので、キーパーとディフェンダーの間になるべく速いボールを送り込むことを意識した。レナートに相手DFがふたりついてきていたから、その背後のレザにクロスが合って本当によかった」

 グーチャンネジャードは56分からピッチに入ると、ひとりで4ゴールを決める大活躍。全国紙『アルヘメーン・ダッハブラット』は満点の採点10をつけた。交代出場した選手が4ゴールを決めたのは、オランダリーグ史上初めての快挙だ。

「レザはズヴォレのレジェンドですね。(夏の移籍市場の終盤で)ズヴォレに来たばかりですが、練習でもゴールから逆算して動き出したり、ボールを引き出したりするのが本当にうまい」

 アディショナルタイムにアシストした際のプレーは、右ハーフスペースを突いてゴールラインのギリギリまで侵入した落ち着きが光っていた。

「あそこまでえぐったらGK とDFの間にボールを通せないので、ペナルティスポットあたりに選手が来るのを待って、ボールを入れるのをワンテンポ遅らせた」

 際のラストパスを受けてゴールを決めたハマーは、開幕から4試合は右サイドバックとして先発し、際にとってはライバル的な存在である。そのハマーはゴールを決めた直後、際のことを抱きかかえながらゴール裏のサポーターに向かって咆哮した。

「ハマーはもともとMFの選手。お互いに結果を残し、チームも勝ったので、彼が右サイドバックに戻ってくることはしばらくないでしょう」

 試合が終わると、際はピッチの上に座り込んだ。疲れていたのか、それとも達成感か?

「両方ですね。だけど、喜びの気持ちのほうが大きかった。このチームはボールを供給できる選手が多く、(ボールをつなぐ)サッカーができるチームなので、走ればボールが来る。かつ、それが無駄走りになっても、それを使ってスペースを作ることがうまいチーム。無駄走りが生きているので、肉体的に疲れていても、メンタル的にはあまり疲れていない。

 前にいたチームでは、プレアシストやアシスト未遂は多かったんですが、アシストそのものは少なかった。ズヴォレのレベルになると、前線に仕留めてくれるアタッカーがいるので、本当にありがたいです」

「前にいたチーム」とは、オランダ2部リーグのカンブール・レーワルデンのこと。昨季オランダ2部リーグのフィールドプレーヤーとして唯一、際だけが全試合フル出場を果たし、ベスト11にも選出された。カンブールとの契約は昨季いっぱいだったが、クラブ側には1年延長のオプションがついていた。

 3月、カンブールのテクニカルダイレクターは際に、「オプションを行使するからな」と告げた。しかし際は、「待ってください。僕には拒否することもできるんです」と答えた。カンブールとの契約書には、「クラブが1部に昇格できなかったら、選手サイドはオプションを断ることができる」という特別条項があったからだ。

 5月、カンブールは昇格プレーオフに敗れ、2部リーグ残留が決まった。そして、際はカンブールを退団した。無所属になるリスクもあったが、オランダより上位リーグのクラブからもオファーが届き、いくつかの選択肢の中からズヴォレでのチャレンジを選んだ。

 開幕スタメンの座は勝ち取れなかったものの、第2節のユトレヒト戦で13分、第4節のスパルタ・ロッテルダム戦で34分と出場時間を徐々に伸ばし、第5節のエメン戦でようやく先発出場の機会を得た。すると、開幕から1分3敗と不振に陥っていたズヴォレは、際がスタメンで出始めてから2連勝を飾った。

 練習から地道に頑張り、コツコツと出場時間を伸ばしていった際の姿は、オランダでの彼の成長と重なる。

 日本の高校を卒業し、オランダに渡ってオランダ2部リーグの小クラブ、ドルトレヒトのリザーブチームでキャリアをスタートさせた際は、やがてプロ契約を勝ち取り、トップチームの中心選手になった。そして2シーズン前に、オランダ2部リーグでは中堅的存在のカンブールに引き抜かれた。6年間の積み重ねの末、際はようやくオランダ1部リーグという舞台まで辿り着いたのだ。

 試合を終えた後、ズヴォレを率いるヨン・ステーへマン監督は際に、「練習の成果が出たな」と声をかけた。その時、際の頭の中に浮かんだのは、ズヴォレでの練習ではなく、帰省した時に練習参加したヴァンフォーレ甲府でのトレーニングだった。

「僕は甲府のアカデミー出身なので、(帰省時は)ヴァンフォーレでトレーニングしていたのです。何度も何度も金園英学さんにクロスを合わせる練習を繰り返した成果が、このワールワイク戦で出ました。また、右サイドバックの細かな動きは、武岡優斗くんからいろいろ教わったんです」

 現在、際は25歳。今季のオランダリーグには6人もの日本人選手がプレーしているが、際をのぞけば全員、東京オリンピック世代だ。際はオランダ組の最年長である。

「監督の信頼を得て、今シーズン最後までスタメンを張れるようにすれば、自分自身にとって次のステップが見えてくる。それを目指して、きっちり結果を残していきたい。最年長としてがんばっていきます」

 オランダプロサッカー界の最下層から、ここまで這い上がり、さらに上を目指そうとする際は、いろいろな人から刺激をもらって成長してきた。そしてまた、その姿を知る人たちも、彼から刺激を受けているのである。