■TBSの上村彩子(かみむら・さえこ)アナウンサーが現場で取材した大会でのエピソードや舞台裏、インタビューしたアスリートの魅力や意外な一面などを伝えてくれるこの連載。今回のテーマは、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)。東京五…



 

■TBSの上村彩子(かみむら・さえこ)アナウンサーが現場で取材した大会でのエピソードや舞台裏、インタビューしたアスリートの魅力や意外な一面などを伝えてくれるこの連載。今回のテーマは、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)。東京五輪の代表が決まるこのレースの注目のポイントは?



MGCの番組進行を担当する上村彩子アナ

 15日に開催される東京五輪の注目種目男女マラソン代表を決めるMGC。とくに日本記録が昨年二度にわたって更新され、史上最高の盛り上がりを見せる男子は、日本が誇る31名のランナーが激突します。コースは、来年の東京五輪とほぼ同じ。新国立競技場が工事中のため、神宮外苑のいちょう並木からスタートし、日本橋、浅草、銀座など東京の名所をまわるコースです。TBSは男子のレースを当日の朝8時から放送し、私は安住紳一郎アナウンサーとスタート・フィニッシュ地点で番組進行を務めます。 

 今回は、ペースメーカーがいないこと、気温的にまだ暑いこともあり、展開の予想が難しいと言われています。それぞれの選手の実力も拮抗していますから、誰が東京五輪代表の2枠を獲得するのか。歴史に残る42.195キロになると思います!

 ニューイヤー駅伝やマラソン取材でお世話になり、応援したい選手がたくさんいるのですが……私がとくに注目しているのが、男子の「ビッグ4」。2時間5分50秒の現日本記録保持者の大迫傑(すぐる)選手、前日本記録保持者の設楽悠太選手、2018 年アジア大会金メダリスト井上大仁(ひろと)選手、福岡国際で日本人14年ぶりに優勝の服部勇馬選手の争いです。

 ナイキ・オレゴンプロジェクトに所属し、拠点であるアメリカで海外のトップ選手たちと切磋琢磨している大迫選手と設楽選手は同級生で、マラソン初対決。設楽選手は、一緒にMGCにむけての合宿も付き合ってくれた双子の兄啓太さんへの熱い思いも胸にあるはずです。

 そして「ビッグ4」のなかでは唯一大学生のころから東京五輪を目指しマラソン練習をしてきた服部選手。最強のランナーといえる「ビッグ4」のメンバーですが、そのなかで私が最も注目しているのが井上選手です。持ちタイムはMGC出場者のなかでは大迫選手、設楽選手に続く2時間6分54秒ですが、私も現地で見た昨年のアジア大会、30度というあの暑いジャカルタでバーレーンのエラバッシ選手に最後の競り合いで勝ち切った勝負強さが、MGCでも発揮されるのではないかと思っています。



上村アナの注目選手のひとりは井上大仁選手

 ニューイヤー駅伝や世界陸上ロンドンでも井上選手の走りを現地取材しましたが、飄々と涼しい顔で走っている選手のイメージでした。ですがアジア大会のラストは、接触があっても当たり負けせず、ゴールする瞬間に両手を広げて叫びながらゴール。あんなに感情を爆発させている井上選手は初めて見ました。あのアジア大会での熱い走りを、MGCでも期待してしまいます。高橋尚子さんは、井上選手の走りを見て、「勝ち切る強さ、日の丸を背負うプレッシャー、そして暑さ、この(アジア大会の)マラソンで2つも3つも財産を得たと思う」と高く評価していました。

 東京オリンピックを視野に入れて、「金メダルを取りに行きます」と自分にプレッシャーをかけてアジア大会に臨んでいた井上選手は、見事に有言実行。今回のMGCでも優勝を目指すと力強く宣言し、自分が他の選手より強いと思っている部分について聞かれると「暑さのなかでのレースを何回もこなしたというところ、勝負になったら後半粘り勝ちできるというところ」と自信を見せています。

 先日、川内優輝選手にMGCのレース展開についてお話をお聞きしたのですが、川内選手は悩んだ末に、井上選手が来ると予想されていました。「(世界陸上)ロンドンで井上選手と一緒に走った翌朝、自分の走りができなかった井上選手の目が真っ赤だったことをよく覚えています。寝られないぐらい悔しかったのかなって。人一倍負けず嫌いだと思います。他の実業団の選手と話しても、井上選手の練習量がヤバい、とみんな言っています。相当練習している」。

 井上選手はMGCの出場権を得た18年の東京マラソンで、2時間6分台の好タイムを記録しましたが、喜ぶこともなくゴール後は不満げな様子でした。会見でも「いい走りができなくて悔しい」と険しい表情。そのレースは、設楽選手が日本人トップで当時の日本記録を16年ぶりに更新していたのですが、やはり日本人選手に負けたことを非常に悔しがっていました。

 また、今回のレース展開がどうなるかについて、高橋尚子さんが挙げていた勝負のポイントがあります。

「男子は誰がオリンピックへの切符をつかむのか、本当に予想がつかないですね。大迫選手や設楽選手といった持ちタイムのいい速い選手。井上選手、服部選手のように勝負勘のある強い選手。大学時代に『山の神』と呼ばれた神野大地選手のように武器を持つ選手。さまざまなタイプの選手がそろっています。自分の持ち味を発揮できる展開を自分自身で作りだした選手が最後に笑うのではないでしょうか。コースのポイントは37キロ過ぎから始まる上り坂です。ただでさえ苦しくなる35キロからの最後の7キロに高低差30mの過酷な坂が待っている。坂を制する者がレースを制するでしょう」

 そんななか、井上選手はスピード勝負でも、終盤の坂でも、アジア大会でのラストスパートで勝ち切ったように、上位争いにからんでくるはず。アジア大会で競り合ったエラバッシ選手は、14年アジア大会の1万mで金メダルを取っている選手で、その実力者に最後のトラック勝負で勝った経験は大きいと思います。

 92年バルセロナ五輪で森下広一選手が獲得した銀メダル以降、男子マラソンは日本人がオリンピックでメダルを取れていない種目。東京五輪でのメダル獲得に向けて切磋琢磨して強くなっていく選手の皆さんが、MGCという一発勝負の舞台でどんな走りを見せてくれるのか、見逃さないでくださいね!


 

■プロフィール 上村彩子(かみむら・さえこ)1992年10月4日 千葉県生まれ

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