「久しぶりの試合だったので、ちょっと緊張しました」 オータムクラシックのショートプログラム(SP)前日、9月12日(現地時間)の公式練習を終えた羽生結弦は、そう口を開いた。オータムクラシックの公式練習に臨む羽生結弦 曲かけが1番目だった…

「久しぶりの試合だったので、ちょっと緊張しました」

 オータムクラシックのショートプログラム(SP)前日、9月12日(現地時間)の公式練習を終えた羽生結弦は、そう口を開いた。



オータムクラシックの公式練習に臨む羽生結弦

 曲かけが1番目だった羽生は、スピードをあまり出さずに4回トーループと4回転サルコウ、4回転ループに挑んで軽くきれいに着氷すると、昨シーズンと同じフリーの『Origin』を滑った。その後はゆっくりリンクを回り、ジャンプの入り方をじっくりイメージするような姿を見せながら、時々ジャンプを入れる、落ち着いた表情での練習。シーズン初戦へ向けた意気込みを見せるというよりも、あえて気持ちを抑えているような雰囲気で、35分間の練習時間を過ごした。

 練習後には、SPとフリー共に、昨シーズン使った『秋によせて』と『Origin』の2曲を今季も続行すると明らかにし、その理由をこんなふうに説明した。

「去年はケガで思ったようなシーズンを送れなかったのと、ショート、フリーともに自分の中でまだ完璧な演技をできていないことがすごく心残りでした。また、このプログラム自体を、負けたままでは終わらせられない、という気持ちもすごく強かったので……。(エフゲニー・)プルシェンコさんへのリスペクトの気持ちはすごくありますし、完成させたうえで悔いなくこのプログラムを終えたいな、という気持ちがいちばん強かったんです」

 昨シーズン、SPの『秋によせて』では、グランプリ(GP)シリーズ・フィンランド大会と次のロシア大会(ロステレコム杯)で続けてノーミスの演技を見せた。ロステレコム杯では、昨季からの新採点ルールで世界最高の110.53点を獲得している。

「ロステレコム杯の時のショートもいいなとは思っているんですけど、あれでもやっぱり、『まだ完璧じゃないな』とすごく感じています。だから、それを含めてもうちょっと……(いい演技をしたい)。せっかく気持ちが入っているプログラムなので、完成させて、プルシェンコさんと(ジョニー・)ウィアさんにいいものを見せたいという気持ちもありました」

 このオフシーズン、羽生は『ファンタジー・オン・アイス』に出演する前に左足首を捻挫していたと明かした。2年連続で痛めた右足首ほどではなかったものの、治癒に時間を要し、飲み薬の痛み止めを服用しないで練習できるようになったのは4週間ほど前からだったという。そんな状態にもかかわらず、『ファンタジー・オン・アイス』では4回転ルッツや4回転フリップに挑んでいたのだ。

「じつは、4回転アクセルの練習をするためにもっと回転力をあげていこうと思い、体を上に牽引するハーネスを付けてトーループとサルコウの5回転を練習していたんです。そうしたら、サルコウで足を引っかけて痛めてしまいました」と苦笑する。

 まだどちらもしっかり降りられたことはない。だが、「ハーネスを付けていれば4回転アクセルをすごくきれいに降りられるし、5回転の感覚もいい」と、明るい表情で言う。

 ジャンプ構成に関して言えば、SPで4回転ループを入れる可能性や、フリーでは4回転トーループ+1Eu(オイラージャンプ)+3回転サルコウを入れることも考えてはいる。

「でも、そこは調子次第かなと思います。今はサルコウの調子がいいので、ショートの構成は、今回は変えるつもりはないですね。とにかく今回は、試合勘をしっかり取り戻して、試合の時に何をしなきゃいけないのか、どういう感覚で(臨むべきなのか)ということを、一つひとつ試しながらやっていきたいと思います」

 最も強く思っているのは、今考えているジャンプ構成でふたつのプログラムを完成させたい、ということだ。この日の公式練習では4回転ルッツにも2回挑戦して、完璧ではないがしっかり着氷していた。

「フリーの4回転はとりあえず、ループとサルコウ、トーループ2本でいこうと考えています。でも、あとは調子次第ですね。ショートの結果次第でフリーでルッツに挑戦したり、後半の構成をちょっと変えたり……。いろんなオプションはあると思うし、いろんなことを練習してきたので、いろいろ試せると思います」

 プログラムの完成を第一に考えるという羽生は、「自分の体調やジャンプの調子を見ながらいろいろなことに挑戦していきたい」と言う。勝つためには4回転ルッツを入れなければならないと考えた平昌五輪シーズンの時と違い、自分の状態を見ながら入れられるのならば入れていこうとする、きわめて柔軟な考え方だ。

 半ば強引に進化を狙うのではなく、自分ができることを少しずつ着実にやる過程で自然に進化していけばいい。それが、今の羽生の考えなのだろう。昨年とはまたひと味違った熟成への思い。公式練習での落ち着いた表情は、そんな気持ちの表われだったのかもしれない。