元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説~2019年秋場所編元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、9月8日から始まった秋場所(9月場所)での注目力士について語ってもらった--。 8日か…

元寺尾・錣山親方の『鉄人』解説
~2019年秋場所編

元関脇・寺尾こと錣山(しころやま)親方が、本場所の見どころや話題の力士について分析する隔月連載。今回は、9月8日から始まった秋場所(9月場所)での注目力士について語ってもらった--。

 8日から、大相撲秋場所が始まっています。

 1カ月に渡る夏巡業で稽古に励んだ力士たちは、皆一様に日焼けして、たくましさが増した印象です。

 現に初日の取組を見ていると、攻め合い、しのぎ合うような力のこもった相撲が多く、満員のお客様からの声援もすごかったです。「いい相撲」は、やはりファンの方を惹きつけるんですね。



先場所(名古屋場所)は鶴竜が7場所ぶりに優勝

 今場所の注目点としては、2場所連続負け越して関脇に陥落した貴景勝の大関復帰なるか--というところだと思います。関脇に陥落した場所で10勝すると、翌場所、大関に復帰できるという相撲協会の規定があるのですが、治療、リハビリのために、夏巡業を休場した貴景勝が、どこまで実戦に対応できるかにかかっているでしょう。

 ただ、場所前に行なわれた、横綱審議委員会稽古総見や、二所ノ関一門の連合稽古などで、実際に見た貴景勝の調子は「いい」とは言えませんでした。相撲内容が悪く、やはり2場所休場のブランクは大きいな…と感じました。本人も周囲の人たちも、「今場所、大関復帰を賭ける」と躍起になっているのはわからないわけではありません。けれども、私はあえて、「今場所にこだわらなくてもいいのでは」と感じています。貴景勝はまだ、23歳と若いし、ヒザの負傷を完全に治すまで、1年くらいを費やしてもいいのかな? と。将来がある力士ですから、そのあたりは柔軟に考えてもいいのではないでしょうか?

 さて、先場所(名古屋場所)は、このコラムで私が毎場所のように、「優勝候補」として名前を挙げていた鶴竜が、7場所ぶりに優勝してくれました。

「してくれました」と表現したのは、私の現役の最晩年(2001年)、16歳で井筒部屋に入門してきたのが鶴竜で、私たちは「兄弟弟子」という間柄なのです。ですから、どうしてもがんばってほしい…という思いが強くて、その期待を込めて、毎場所、名前を挙げていました。ただ、名古屋場所前は、鶴竜の情報がまったく入ってこなかったんですよね。入門した時から、相撲に対して真面目な男ですから、稽古をしていないとか、そういうことはないだろうと思っていましたが、まさか、腰痛で治療に専念していたとは、知りませんでした。

 場所前、突如、腰痛に襲われた鶴竜は、イヤ~な気分になったみたいですね。というのも、この3年、名古屋場所は休場が続いていて、結果が残せていなかったので、「またか!」と思った…と。けれども、場所に入ってからの集中力はすばらしかったです。腰痛で苦しんでいるなどということは微塵にも感じさせないスピード相撲で、相手力士を圧倒。12連勝というのも、初めてのことだったそうですね。速い攻めを心がけた結果、14勝1敗で6回目の優勝。相撲に真摯に取り組んでいると、こういうこともあるんですね。

 鶴竜の所属する井筒部屋には若い衆が少ないので、かつては私の部屋から鶴竜の付け人を派遣していたことがありました。小結・阿炎、十両・彩も付け人の経験があるのですが、鶴竜は付け人たちを連れて食事に行くなど、とてもかわいがってくれていました。ただ、肉が大好きで野菜をあんまり食べないから、もう少し、野菜も食べてほしいなぁ(笑)。

 16歳だった鶴竜も、先月で34歳。年齢よりも、まだまだ体は若々しいし、衰えが感じられないんですよね。今場所は欲を出して、ぜひ連覇を狙ってほしいところです。

 さて、初日、前頭の北勝富士に敗れた、横綱・白鵬が2日目から休場したことにも驚きました。

 優勝した先場所、指を痛めていたとのことですが、夏巡業も皆勤し、若手力士に積極的に稽古を付けるという姿勢は、頭が下がる思いです。

 今場所前には、かねてから申請していた、日本への帰化も認められて、日本人「白鵬翔」となりました。「モンゴルと日本、2つの国がのしかかっている感じがする」と本人が言っていましたが、きっと複雑な気持ちなのだろうな…と察しています。

 白鵬は10年以上も横綱を務め、優勝回数は42回。堂々たる大横綱だということは、誰もが認めています。土俵上の成績以外にも、みずからが開催する少年相撲大会「白鵬杯」はすでに8回も開かれています。実際、幕内・阿武咲など、「白鵬杯」に出場した少年が力士になって活躍している。それと、相撲を取りたい少年の誰もが出場できるというスタイルもいいし、日本人以外の少年たちも参加しています。

「相撲の底辺を広げる」という意味でも、相撲界への貢献度は高いと思います。「白鵬杯」を開催することで、白鵬本人も夢を追っている。それが、現役を続けるモチベーションにもつながっているんでしょうね。

 ともに34歳の鶴竜と白鵬。けれども、それに続く大関陣との力の差は、まだ大きい。優勝から3年遠ざかっている、大関・豪栄道、今場所あたりは、チャンスじゃないかな?



photo by Kai Keijiro

錣山(しころやま)親方
元関脇・寺尾。1963年2月2日生まれ。鹿児島県出身。現役時代は得意の突っ張りなどで活躍。相撲界屈指の甘いマスクと引き締まった筋肉質の体つきで、女性ファンからの人気も高かった。2002年9月場所限りで引退。引退後は年寄・錣山を襲名し、井筒部屋の部屋付き親方を経て、2004年1月に錣山部屋を創設した。現在は後進の育成に日々力を注いでいる。