8月24日、パラカヌーの瀬立(せりゅう)モニカ(女子KL1)が、ハンガリーで行なわれた世界選手権の決勝で5位に入り、6位以内に与えられる東京パラリンピックの出場枠を獲得。カヌーでは、日本人第一号となった。「ようやく口にしてきたことが現実になった」と瀬立。自ら“世界一”と語る成長スピードを武器に、今大会で一気に世界トップクラスの仲間入りを果たした。

今大会、瀬立と同じクラスには10人がエントリー。予選は5人2組に分かれ、各組の上位3人、計6人が決勝に進出できる。残り4人で準決勝を行ない、上位3人が決勝に加わる。そして9人で決勝を行ない、上位6人には来年の東京パラリンピックの出場枠が与えられることになっていた。

大会初日に行なわれた予選で、瀬立はタイムが上位6人中5人も集まった厳しい組に入り、結果は最下位と決勝進出を決めることはできなかった。しかし、じつはこの時から瀬立の“快進撃”は始まっていた。

200mを54秒61で漕いだタイムは、全体の6位。しかも3位から8位までの6人が同じ54秒台で、わずか0.72秒内にひしめき合う混戦模様。瀬立はその6人のうち3番目に入っており、“3位争い”にしっかりと加わっていたのだ。

最高のパフォーマンスで幕を開けた今大会、瀬立は絶好調な状態を感じていた。翌22日の準決勝では、予選では0.23秒差で敗れた中国人選手に勝ってトップ通過することを目標として臨んだ。その結果、予選に続く54秒台の好タイムを叩き出し、さらに狙い通り、中国人選手との競り合いに勝利してトップで決勝進出を決めた。

「今、調子は最高にいい。コーチからも『どんどん調子に乗っていけ!』と言われているので、決勝は調子に乗りまくりたいと思います!」

心身共に今大会にうまくピーキングしてきたのがうかがえる。傍目から見ても、瀬立には勢いがあった。その一方で、こうした強気な発言は、彼女が自分自身に向けた言葉のようにも感じられた。東京パラへの切符がかかるレースで緊張しないわけはない。その緊張を強気に変えようとしていたのかもしれない。

そして24日、運命の決勝の日を迎えた。前日の夜は目を閉じると、胸の鼓動が聞こえ、なかなか眠ることができなかったという瀬立。スタート地点に現れた彼女の顔は少しこわばっていた。それまでの予選、準決勝とはまるで違う、大きなプレッシャーにのみこまれまいと戦っていたのだろう。それでもルーティンである2度息を吐き、大きく深呼吸した瀬立は覚悟を決め、いつものように集中力を高めて、リズムに乗った。

追い風だった予選、準決勝とは違い、決勝は向かい風だった。だが、そうなるであろうと情報を入手していた瀬立には何の問題もなかった。そして隣のレーンでは、リオ金メダリストのジャネット・チッピントン(イギリス)がピタリとついてきていたが、自分のことに集中していた瀬立の視界にはまったく入ってはこなかった。

後半は「少し固くなってしまった」と言うが、それでも予選、準決勝で課題としてきた最後の20mで、猛追するジャネットに競り勝ち、フィニッシュ。日本パラカヌーにおいて過去最高位の5位という快挙を成し遂げ、東京パラリンピックへの切符をつかみ取った。

「ようや口にしてきたことが現実になって、本当にうれしいです」

この言葉に、瀬立が味わってきた過去の悔しさがにじみ出ていた。

パラカヌーがパラリンピックの正式種目となったのは、3年前のリオ大会から。唯一の日本代表として出場した瀬立は、決勝に進出して8位入賞という成績を残した。だが、彼女に喜びはなかった。トップとの差は10秒以上、さらに7位の選手とも5秒以上離され、決勝では一人取り残された状態での最下位だったからだ。

「8位入賞と言われると、悔しくてたまらないんです」

リオ直後、瀬立はそう語っていた。

そして、一念発起しての厳しいトレーニングが始まった。その過酷さは年々増し、今夏は「ハンガリーに飛び立つ前に、天に飛び立ってしまうのではないかと思うくらい練習をしてきました」と瀬立。毎年、「今が最強」と思い、いつも過去を振り返ると「甘かった」と思う。この3年間は、その繰り返しだったと言い、だからこそ「毎年ステップアップしていることを実感できた」と語る。

カヌー競技では、天候などによって条件が異なるため、“世界記録”という概念はない。そのため、タイムでは一概に良し悪しは言えないが、トップとの差を比較すれば、リオ以降、瀬立がいかに一つずつ階段を上ってきたかがわかる。

16年9月リオデジャネイロパラリンピック決勝 1分09秒193(トップとの差+10秒433)
17年8月世界選手権・決勝 1分5秒010(+7秒628)
18年8月世界選手権・決勝 1分00秒675(+5秒010)
19年8月世界選手権・予選 58秒93(+2秒94)

今大会では、3年前に10秒以上も離され、全く歯が立たなかったジャネットを抑え、いよいよ頂点が見え始めた。瀬立本人も「今、伸びは自分が世界一」と今後の伸びしろに自信を持つ。

飛ぶ鳥落とす勢いの瀬立モニカ。今大会で世界の彼女への印象も、そして彼女自身が見始めた景色も変わったに違いない。

「5位ということは、もう次はメダルしかない」

東京で表彰台に上がる瀬立の姿が、ついに現実味を帯びてきた。

*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。