エジミウソンと巻誠一郎。共にW杯戦士であり、元ブラジル代表のエジミウソンは、ワールドカップとUEFAチャンピオンズ…

 エジミウソンと巻誠一郎。共にW杯戦士であり、元ブラジル代表のエジミウソンは、ワールドカップとUEFAチャンピオンズリーグの両方で優勝した、数少ない選手のひとりでもある。両者とも現役引退後、ビジネスと社会貢献に精を出し、子どもたちの育成のほか、社会環境の改善にも取り組んでいる。そんな彼らが「セカンドキャリア」をテーマに対談の機会を持った。トップアスリートだった彼らは、現役時代に培ったものを次のステージでどのように活かしていくのか?

選手の育成で大切なのは人間形成

巻 今回はセカンドキャリアについて、話をさせてもらえればと思います。私はサッカー、教育、医療、介護などさまざまなジャンルを通じて、社会に貢献できればと思い、セカンドキャリアを始めました。医療ではaiwellという会社の社外取締役として、『未病』(注:病気を未然に防ぐこと)にアプローチする活動に取り組んでいます。エジミウソンさんは、引退後はどのような活動をされているのでしょうか?

エジミウソン 現役時代に立ち上げたエジミウソン財団の活動と、バルセロナ、フランスのリーグ・アンのアンバサダーをしています。さらに、動画によるサッカーの分析ソフトウェアの開発にも携わり、今年から「FCスカイ ブラジル」というプロ選手育成のサッカークラブを設立し、子どもたちのサポートと選手の育成に携わることも始めました。



サッカー選手のセカンドキャリアについて語った、エジミウソン(写真右)と巻誠一郎(同左)

巻 財団をはじめ、子どもたちを支援する施設を作り、成長の手助けをするというのはすばらしいと思います。子どもたちの成長をサポートする中で、エジミウソンさんが大事にしていることはなんでしょうか?
エジミウソン

 一番は人間形成です。実体験を通じてわかったのは、ただサッカーが上手なだけでは、世界のトップレベルに到達することはできないということです。ブラジルにもいますが、とてつもない才能があるのに、怠け者で努力をしない結果、サッカー以外のことに意識が向いてしまい、ルートから外れてしまう選手がいます。これは非常にもったいないことです。たとえサッカー選手になれなかったとしても、社会に出たときに恥ずかしくないように、目標に向かって自分の人生を進んでいくことのできる人間になってほしい。

巻 選手の育成をされていますが、より良い選手になるために必要なものは、何だと思いますか?

エジミウソン 何よりも重要なのはタレント(才能)です。巻さんもわかると思いますが、パッと見て「この子、いいな」と思うことはありますよね?

巻 はい、あります。

エジミウソン タレントがあったとして、センターバックの選手を例に挙げると、理想は180cm以上の身長になること。そのために、将来的に身長が伸びる可能性があるのかも、見極める必要があります。なぜなら、彼らはプロを目指すアスリートの原石だからです。彼らがトップアスリートの高みに到達できるかどうかは、シビアな目で見て判断していかなければいけません。

巻 エジミウソンさんは現役時代に色々なチームでプレーされていますが、選手の見極めに優れていると感じたチームはどこでしょうか?

エジミウソン 一番はサンパウロ FC です。選手のフィジカル、コンディションデータを採り、トップレベルに到達するために何が必要かを、選手一人ひとりに細かくアドバイスしてくれました。いまはリヨンやバルセロナもすばらしい環境、設備が整っていますが、20年前にそのようなことをしていたのだから驚きです。それも、選手の能力をトップレベルまで高めるためにやっていたのだと思います。いまでは当たり前のことですが、20年前に世界最先端の育成環境が整っていました。

巻 サッカー面で、多くを学んだのはどのクラブですか?

エジミウソン バルセロナでプレーしたことは、私のサッカー観に大きな影響を与えました。多くのクラブは、監督が変わればサッカーが変わります。しかし、バルセロナにはベースとなるスタイルがあり、そこに監督のエッセンスが加わります。ボールを保持し、ゴールを目指すスタイルは、監督が変わっても基本は同じです。スタイルが明確だからこそ、選手の獲得も含めて明確な戦略が描きやすい。それはプレーしていて学んだことです。

自分の価値を把握して社会に還元していくべき

巻 エジミウソンさんのように、世界のトップに到達するためには、サッカーならサッカーとひとつのことに特化して、全神経を注いでいくことが大切だと思います。一方で私が感じるのが、多くのアスリートが、競技をするうえで培ってきた能力を、スポーツ以外のことに変換する能力が乏しいことです。エジミウソンさんは、現役時代に培った能力を活かしてセカンドキャリアを歩んでいますが、どのようなことを考えて、現役時代を過ごしていったのでしょうか?



「サッカー以外の仕事にもアスリートの経験が還元できる」と巻

エジミウソン ブラジルの場合、サッカー選手になるというのは、強烈な競争環境に身を投じることを意味します。14歳でクラブに入り、そこから競争に勝ち残った、ひと握りの選手がプロになることができます。私もそうでしたが、とくに貧しい地域の子どもにとって、サッカー選手になるということは「この環境から脱出するための第一歩」なのです。目標を達成するために全身全霊をかけて取り組む、コミットする力は現役時代に身に着けた能力だと思います。

巻 日本人とは、サッカーに対する考え方が、大きく違いますね。

エジミウソン ブラジルの子どもたちが、サッカーというスポーツに携わる最初のモチベーションは「サッカーで自分の人生を良くするんだ」ということです。日本の場合は親が働いていて、ご飯も食べられますし、学校に通って勉強することもできます。でもブラジルの、貧しい地域の子どもたちはそうではありません。まずクラブに入ってサッカーを始め、「クラブのルールとして、学校に行かなければいけない」となります。学校に行ったうえでサッカーをする日本とは、順序が逆なんですね。

巻 日本では学校に行って勉強して、それからサッカーをするのが当たり前ですが、ブラジルではクラブに入ったから、ちゃんと学校にも行かなければいけないという考え方なのですね。

エジミウソン はい。そのようなところからサッカー選手のキャリアをスタートさせて、自分がサッカーを辞めるタイミングの時に、セカンドキャリアに向けて自分の価値を把握し、できることを明確にしていきました。サッカー関係のアンバサダーをしていますが、リヨンやバルセロナでプレーした経験、サッカーで築いた信用と実績を次のキャリアにどう生かすかという見極めは、現役の時からしていましたし、あらゆる可能性を追求しました。

巻 それが、現在の多様なセカンドキャリアにつながっているのですね。僕も同じように自分の価値に気づき、サッカーだけでなく、医療や福祉、教育の仕事にも、自分がアスリートとして経験してきたことを還元できるのではないかと思いました。アスリートは人一倍、健康に目を向けています。その意味ではaiwellで実用化した微量採血を基にした健康診断、コンディションチェックは、一般の人にもすごく価値のあるものだと思いますし、ケガや病気の予兆を判断する技術も実用化しています。増大する日本の医療費を削減するためにも、さまざまな発信ができればと思っています。

エジミウソン サッカーの現役生活が終わったあとに、次のキャリアに向かって進めない人は、自分の価値を知らない、気づいていないのかもしれません。私はブラジル代表で2002年日韓W杯に優勝し、UEFAチャンピオンズリーグでも優勝することができました。サッカー人生としては、これ以上ないものだと思います。このすばらしいキャリアを、サッカーの世界だけで終わらせてしまうのではなく、セカンドキャリアも勝者でいたい。だから、いま関わっている多くのプロジェクトも、絶対に成功するんだという信念を持って取り組んでいます。

巻 お話ししていく中で、サッカー界だけでなく、サッカーを通して社会を良くしたいという気持ちを感じました。アスリートには社会的な価値があり、世の中に発信する力もあります。エジミウソンさんの活動に感銘を受けますし、私が考えていること、思想とすごく近いものがある。お会いできて良かったです。

エジミウソン 巻さんが、ジーコさんが日本代表監督だった時の選手だというのも知っています。(巻選手が出場した)2006年のドイツW杯は、私はケガをして最終選考でブラジル代表を辞退したのですが、このような縁で知り合えたのはすごくうれしいです。話をうかがう中で、巻さんが目標を立てて、さまざまな取り組みをしているのは伝わってきましたし、共通している部分だと思います。今後、お互いのステージでより高い場所を目指せるように、刺激し合いながらやっていけたらと思います。ありがとうございました。

エジミウソン
Jose Edmilson Gomes de Moraes/1976年7月10日生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。地元のサンパウロやフランスのリヨン、スペインのバルセロナでMFやDFとして活躍し、数々のタイトル獲得に貢献。ブラジル代表メンバーとして2002年日韓W杯優勝も経験している

巻誠一郎
まき・せいいちろう/1980年8月7日生まれ、熊本県出身。ジェフユナイテッド千葉→アムカル・ペルミ(ロシア)→深圳紅鑽(中国)→東京ヴェルディ→ロアッソ熊本でプレーし、2018年に現役を引退。日本代表国際Aマッチ38試合出場8得点。2006年ドイツW杯のメンバー