最終セット5−2でラファエル・ナダル(スペイン)がリード。すでに試合開始から4時間が経過している。しかし、熱闘はまだ続いた。初めて四大大会の決勝の舞台に立ったダニール・メドベージェフ(ロシア)が敗退を拒んだのだ。 ブレークバックで5−3。メ…

最終セット5−2でラファエル・ナダル(スペイン)がリード。すでに試合開始から4時間が経過している。しかし、熱闘はまだ続いた。初めて四大大会の決勝の舞台に立ったダニール・メドベージェフ(ロシア)が敗退を拒んだのだ。

 ブレークバックで5−3。メドベージェフのキープで5−4。追い上げを許したナダルの表情に硬さが見られる。こういう試合はリードしているほうが緊張する。この場から逃げ出したいのはナダルだろう。

 しかし、彼は過去18回もグランドスラムの決勝で勝利の緊張を味わってきた王者だ。メドベージェフのリターンが大きくベースラインを越えると、ナダルが仰向けに体を投げ出した。苦行から解放された、緊張に負けなかった、努力が報われた、様々な思いを夜空に解き放った。

 4時間50分は今大会最長、記録の残る1980年以降の最長記録にあと4分と迫るロングマッチとなった。表彰式を待つ間、ナダルが涙を流した。優勝インタビューでも言葉に詰まる瞬間があった。

「素晴らしい決勝だった。僕のテニス人生で最も感動的な一夜になった」

 それくらい苦しい試合だった。第5シードのメドベージェフは手強かった。今季、ツアー最多の50勝を挙げていた。この試合でもフラットの強打でウィナーを量産した。最終的にウィナーは75本に達し、勝者の62本を上回った。アンフォーストエラーは57本あったが、第3セット以降に限ればナダルが36本、メドベージェフが37本とほぼ互角だった。

 長い手足を生かし、守備範囲が広い。ウィニングショットになるはずのボールが返ってきた。次でも決まらず、さらにもう1本。ナダルにしてみれば、自分がやってきたプレーを相手にやられた格好だ。しかも、リスクを負って攻めたときのメドベージェフには違う怖さがあった。

 2セットダウンになったとき、メドベージェフは「(準優勝の)スピーチで何を話すか考えていた」という。もちろん冗談だが、いくらか本音も交じっている。そこからの巻き返しだった。

 それでも、終わってみれば、33歳が10歳若いメドベージェフを振り切った。

 思えば、四大大会でこれだけ激しい世代間対決はあっただろうか。Next Genの台頭はあっても、彼らは四大大会では脆さを露呈し、一方、ビッグ3はあまりにも盤石だった。しかしこの試合は、プレースタイルのコントラストも鮮やかな、異なる世代のバトルになった。

 ナダルの手堅い守備に、メドベージェフは破壊力で挑んだ。前に入って打つかと思えば、ベースラインの後ろでも強打した。ボディバランスを少々崩しても、打つと決めたら打った。ダウン・ザ・ラインの厳しさは若い世代ならではだ。"ラインに沿って"というより、逆クロス気味に飛んでいく弾道がしっかりラインを捕らえた。

 ナダルの優勝で、四大大会でのビッグ3のタイトル独占が12大会連続となった。3人が30歳を過ぎてだいぶ時間が経ったが、まだ独占が揺るがない。直近でビッグ3以外がメジャータイトルを取ったのはスタン・ワウリンカ(スイス)が優勝した16年全米だから、もうずいぶん時間が経った印象だ。しかし、メドベージェフの健闘に刺激され、レジェンドの牙城を脅かす選手が次々出てくるだろう。

 ナダルは準決勝のあと、ビッグ「4」の独占について、こう話している。

「僕はビッグ4の時代をこれ以上続けようとは思っていない。もう15年も保ってきたんだ。この時代はもうじき終わる。僕は33、ノバクは32、ロジャーは38。それにアンディも32だ。時計は止まらない。これも人生のサイクルの一部だ」

 一方、メドベージェフは前回の対戦を念頭に、ナダルについてこう話していた。

「彼はテニス史に残る偉大なチャンピオンだ。彼は機械のようだ。コートの野獣だ。彼の発するエネルギーは素晴らしい。エネルギーの量は僕より上だと思う。彼は、なんていうか、僕を食べ尽くしてしまった。一度ブレークを許しただけなのに彼はより手堅く、速く、また強くなった。僕は落ちていくだけだった」

 謙虚に話したが、メドベージェフがこの試合で発揮したエネルギーもなかなかの質量を持っていた。この激戦で、世代間のギャップは少し埋まるのではないか。

 メドベージェフは準優勝インタビューで「何百万人もの子どもたちがあなたを見て、テニスがしたいと思うだろう」とナダルを称えた。さらに、大会の中盤で敵対した観客に、こう語りかけた。

「この前は間違った言い方をしてしまったけれど、今度は正しい言い方で言います--僕は皆さんのエネルギーのおかげで決勝まで戦えました」

 試合中の乱暴な行為で観客を敵に回したメドベージェフの、心からの贖罪だった。人として、選手として、メドベージェフは大きなステップを踏んだと見ていい。

 同世代の若者たちも黙ってはいないだろう。世代間の競争がいよいよ本格化しそうだ。

(秋山英宏)

※写真は「全米オープン」でのメドベージェフ(左)とナダル(右)

(Getty Images)