インディカー・シリーズ第16戦グランプリ・オブ・ポートランドは、オレゴンとワシントンの州境を流れるコロラド川南岸にあるフラットなロードコースで開催された。昨年、佐藤琢磨が20番手スタートから劇的な優勝を飾ったレースだ。

 今年の琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは、ロードレースでのパフォーマンスが悪くないことから、今年のポートランドは走り出しから好調に……という思惑だったが、予選はまさかのQ1敗退となった。17番グリッドからのスタートとなった琢磨は、「ひとつでも上のポジションでフィニッシュする」という、少々漠然とした目標を胸に決勝レースのスタートに臨んだ。

 彼にはもうひとつ、「ランキングをもうひとつ上げる」という目標もあった。第15戦ゲイトウェイを終えてのランキングは6番手。残り2戦の戦い方次第で年間のトップ5に入ることができる。

 ポートランドの長いストレートの先にある90度コーナーは、アクシデントの名所だ。昨年のレースでもスタート直後にマルコ・アンドレッティが裏返しになる、4台以上が絡むアクシデントがあった。去年も今年も、ポートランドはポコノでの激しい多重アクシデントの2戦後だったが、ロードコースは、ドライバーたちの危険度の感じ具合がオーバルより断然低くなる。

 そのため、今年もマシン群はスタートでターン1へと殺到。イン側でグレアム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)とサック・ビーチ(アンドレッティ・オートスポート)が接触して玉突き事故。彼らとジェームズ・ヒンチクリフ、コナー・デイリー(どちらもアロウ・シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)のマシンが、ほぼその場でリタイアする大きなダメージを負った。



シリーズ第15戦ポートランドで15位に終わった佐藤琢磨

 琢磨も被害を免れることはできなかった。デイリーを避け切れずにヒットし、マシン右サイドのサスペンションとボディワークを破損。この修理に2周を要し、琢磨のポートランド2連勝、今シーズン3勝目の可能性は潰えた。クルーたちが必死の作業でマシンを修復、レースに復帰して完走を果たしたが、結果は15位で、加算できたシリーズポイントは15点だった。

 ポイントリーダーのジョセフ・ニューガーデンと、ランキング2番手のシモン・パジェノー(いずれもチーム・ペンスキー)も琢磨同様にQ1クリアができず、予選結果は13位と18位。多重クラッシュの発端を作ったビーチとレイホールの予選順位がそれぞれ11位と15位だったから、彼らの近くでスタートを切っていた。ニューガーデンたちがアクシデントの被害者となっても何の不思議もなかった。それでも、最終的にニューガーデンはトップ5でゴールし、パジェノーも7位という好結果を残した。

 今回琢磨がアクシデントに遭ったのは、確かに不運な面もあった。しかし、現実として彼がスタート直後に上位フィニッシュのチャンスを失い、ランキングトップ5入りという目標から遠ざかったのに対して、ニューガーデンとパジェノーはターン1入口の密集の中で接触されながら、マシンに大きな被害は受けなかった。それは彼らが単に”幸運だったから”ではなかった。

 2人はブレーキング前にポジションを幾つか下げており、スタート直後のターン1に対しては非常に慎重になっていた。さらに、彼らはいつでもアウト側のエスケープゾーンへと逃げられる準備もしていた。そこを通り抜けてもペナルティは課せられないことがわかっているからだ。混乱を回避したニューガーデンは18番手まで下がり、追突されてスピンしたパジェノーは、実質最後尾である19番手で1周目を終えた。しかし、「1周目のターン1でレースを終えることは絶対避ける」という目標を掲げていた彼らは、それぞれ30点と26点という高得点をあげた。

 タイトルコンテンダーは慎重に走るが、それ以外のドライバーたちは多少のリスクを取って戦うのが正解、という考え方もある。スタートは複数のポジションゲインを果たす絶好のチャンスだ。しかし、ポートランドで1周目にしてアクシデントの犠牲となったドライバーたちの陣営は、もっと慎重でよかった。

 琢磨の場合、予選結果には表われなかったが、レース用セッティングには自信があった。彼らはレースに臨むにあたり、「昨年のように、105周という長いレースの中で順位をひとつずつ確実に上げていく戦い方をしよう」という共通認識を、チーム全体でもっと強く明確に持つべきだった。

 シリーズでもベテランの部類に入る琢磨に対し、そのあたりの戦い方までチームがいちいち指示や確認は行なわないということもある。ライバルたちとどう戦うか、バトルはドライバーの裁量と考えることもできる。しかし、チーム側がドライバーをサポートするアドバイスを行なうことは可能だ。

 琢磨が最初に加わったインディーカーチームの共同オーナーであるジミー・バッサーは、「遅いドライバーを速く走らせるのは無理だが、速いドライバーのスピードをコントロールすることは可能だ」と言っていた。それぞれのレースで、チームとしてどういう目標の実現を目指すのか、そのためにどんな戦い方ができるのか、レースのどの時点で何が達成されているべきなのか……ドライバーとチームが同じ考え方をするために、深くコミュニケーションを取ることでよりよい成績を手に入れることは可能だ。

 琢磨もチームも、失敗があればそこから学び、全体のレベルを引き上げることを目指している。第9戦テキサスでの琢磨は、ポールポジションからトップを快走したが、ピットにオーバースピードで入り、クルーと接触するアクシデントを起こした。優勝のチャンスを逸したレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは、二度と同じトラブルが起こらないよう、ゲイトウェイではピットの場所をより明確にドライバーに知らせる照明装置を用意していた。テキサスのミスは、琢磨が自らのピットを発見しにくかったことが原因だったため、次のナイトレースではそれへの対処がなされていたのだ。
 
 2カー体制も昨年よりレベルアップしている。経験豊富なエンジニアを招聘し、サポートエンジニアも増強してシミュレーターを活用したマシン解析がプログラムに加わった。昨年は琢磨のポートランドでの1勝だけだったが、2シーズン目の今年は琢磨がバーバーとゲイトウェイで合計2勝。グレアム・レイホールがこの2シーズンで1勝も挙げていない点は気になるが、チームとしてレベルを上げていることは間違いない。

 レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは2020年シーズン、3カーへと体制を拡大するのではないかと噂されている。チーム・ペンスキーは3台、アンドレッティ・オートスポートは4台プラス提携チームの1台の計5台。チップ・ガナッシ・レーシングは2カーだが、2020年には他チームとの提携することも検討中と言われる。これら三強と戦い、チャンピオンチームとなるために、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは、もう一段のレベルアップが必要だ。

 そのために彼らは優秀なドライバーをもう1名加え、有効なデータをより多く収集できる3カー体制への移行がマストと考えているようだ。容易ではない資金確保についても、営業スタッフは着々と成果をあげている。

 データを活用し切るために、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングはエンジニアリング部門をさらに強化する必要もある。常勝チームとなるためには、優秀なクルーの確保や彼らの訓練も行なわなければならない。チーム・ペンスキーが2人のドライバーをタイトル争いに送り込んでいるのは、ピットストップのスピードと確実性がシリーズナンバーワンであることも大きく影響している。

 所帯が大きくなればコントロールは難しくなる。だが、チームの一体感を保ちながら体制を拡大、強化しなければ、シーズンを通してトップコンテンダーであり続けることは難しい。レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングはそれを目指しており、琢磨はその中心的存在としての活躍が求められている。

 この2年間、琢磨はほぼ求められているとおりのパフォーマンスを発揮しており、まだ正式発表はないものの、2020年も同じチームからインディカー・シリーズにフル参戦を行なうことになるだろう。そこでの目標は、今シーズン半ばまでは実現していたタイトル争いを、今度はシーズン最終戦まで続けることだ。