文=鈴木栄一 写真=FIBA.comニュージーランド戦で見えた『スタイル』の差バスケワールドカップ、順位決定ラウンドの初戦で日本代表はニュージーランドに81-111と完敗を喫した。ニュージーランドとは大会直前のトレーニングマッチで2度対戦し…

文=鈴木栄一 写真=FIBA.com

ニュージーランド戦で見えた『スタイル』の差

バスケワールドカップ、順位決定ラウンドの初戦で日本代表はニュージーランドに81-111と完敗を喫した。ニュージーランドとは大会直前のトレーニングマッチで2度対戦し、初戦は99-89で勝利、2戦目は87-104で敗れていた。敗れた2試合目も終盤に追い上げる見せ場を作ったが、ワールドカップでの対戦では、ニック・ファジーカスの奮闘で29-29とした第1クォーター以降は一方的にやられるだけだった。

この試合、日本はニュージーランドに持ち味である3ポイントシュートを33本中打たれ、うち18本成功と半分以上を決められた。3ポイントシュートを止められなかっただけでなく、2点シュートも34本中21本成功と60%以上の高確率で決められたように、相手にイージーシュートを許し続けた。

シュートは水物で入る時と入らない時はある。ただ、今回のニュージーランドはしっかりとノーマークの選手を作り出し3ポイントシュートを打っており、成功率55%は日本にとって不運だった、ではなく必然と見るべきだ。

ニュージーランドの指揮官ポール・ヘナーレも、高い成功率は偶然の産物ではないと自信を見せる。「3ポイントシュートは私たちのオフェンスで大きな比重を占めている武器だ。オフェンスではスペースを作り出して、そこのアドバンテージを作れた。成功率が良かったけど、その高いシュートの質は良いスペーシングと遂行力から生まれた」

一方、相手の明確な武器を止められなかったことを指揮官フリオ・ラマスはこう振り返る。「これがニュージーランドのスタイルです。彼らはすべての試合で3ポイントシュートを30本ぐらい打っている、昔からこういうスタイルでニュージーランドはやっていて、そこに苦しめられた。もちろん我々にも問題はありました。相手の戦い方を知っているにもかかわらずそれを止められなかったのは、我々の実力です」

また、ラマスは試合前の準備、試合中のアジャストともにうまくいかなかったと語る。「ニュージーランドはトランジションからのピック&ロールというアーリーオフェンスを特徴としたチームで、そこを警戒して今回の試合に臨みました。しかし、我々が準備したプランが上手く実行されなかった部分に加え、プラン自体をうまく立てられていなかった部分が今回の試合の敗因だったと思います」

テンポを落とす戦術が自分たちの強みを消すことに

今回のニュージーランド戦に限らず、ここまでの日本は攻守にわたってちぐはぐな部分が見える。ゲームのテンポが上がっての点の取り合いになることを避けるために、自分たちはトランジションから素早くシュートを放つアーリーオフェンスを自重する機会が目立つ。しかし守備では相手の素早い攻守の切り替えに対応できず、数的有利を作られてイージーシュートを決められている。

トレーニングマッチを見る限り、ディフェンスリバウンドからのトランジションオフェンスは日本の最大の武器だった。そして、この武器に自ら制限をかけてまで重視した戦術の効果が、ここまで守備面に出ているのかは疑問だ。

ラマスが語るようにニュージーランドの3ポイントシュートを軸とするスタイルは昔から変わっていない。指揮官のヘナーレ、アシスタントコーチのペロ・キャメロンが選手として出場した2006年の世界選手権で日本がニュージーランドと対戦した時も、今回と同じ33本の3ポイントシュートを打たれている。あくまで結果論ではあり、当時は日本開催という大きな地の利もあるなど単純な比較が全くできないことは十分に理解している。しかし、13年前の試合で決められたのは8本のみ。試合は57-60の惜敗だった。

当時の日本代表は個々の打開力では今のチームより劣っていた。最終的に決勝トーナメント進出を逃しており、結果も残せなかった。それでもジェリコ・パブリセヴィッチヘッドコーチの下で徹底的に鍛え上げられた、運動量を生かし泥臭く守るという明確なスタイルがあった。

世界と渡り合うには『日本のスタイル』の確立が必須

一方、今の日本代表は、これが自分たちのスタイルだ、というものが見えにくい。もちろん攻守のバランスが取れているのがチームが理想だが、八村塁、渡邊雄太という日本バスケ界における稀代の才能がいる現状においても、ワールドカップに出てくる世界の列強と比較し、日本がタレントレベルで劣ることは否定できない。だからこそ、今回のニュージーランドのような突き抜けた何かを確立することが必要ではないだろうか。

ワールドカップを戦う中で、各選手は手応えを得られり、世界との差を痛感したりと、ここでしかできない経験を積んでいる。ニック・ファジーカスは「塁の不在で僕がボールを持つ機会が増える。その中で自分は国際大会で30点近く取れるというのを証明したかったし、それは証明できた」と、結果を出すことで自信を取り戻しており、これは今後の彼のキャリアにとって大きな収穫となるだろう。どの選手も自分が得た経験を新たな成長に繋げるのが大会後の任務となる。

だが選手個人とは別に、チームとしての収穫も必要だ。ワールドカップも残り1試合となったが、最後に少しでも『これが日本のスタイル』という戦い方を見せてほしい。