「なぜ中国は卓球が強いのか?」そんな卓球の原点とも言える質問を専門家たちにぶつけ、中国超えのヒントを得ようという本企画。第2回となる今回は、自身も元中国代表として活躍し、現在はTリーグ木下グループを総監督として率いる邱建新(キュウ・ジェンシ…

「なぜ中国は卓球が強いのか?」

そんな卓球の原点とも言える質問を専門家たちにぶつけ、中国超えのヒントを得ようという本企画。

第2回となる今回は、自身も元中国代表として活躍し、現在はTリーグ木下グループを総監督として率いる邱建新(キュウ・ジェンシン)氏に中国の強さの秘訣を聞いた。

祖国を倒すというのはどんな気持ちなのか?




写真:邱建新(木下グループ総監督)/撮影:伊藤圭

ーー元々プレーされていた世界最強の中国ナショナルチーム。この中国を倒そうと日本の選手たちを強化されています。
邱建新監督(以下、邱):私はプロの指導者です。仕事だから真剣にやっているだけ。今教えている弟子たちが試合に出て戦っている。だから目の前の敵を倒して勝って欲しい。ただそれだけです。

ーーその目の前の敵、中国は本当に強い。今年の世界選手権やワールドツアープラチナなど世界ランクのポイントが高い試合は、全部中国が大事なシングルスのタイトルを取っています。どうして中国は強いのでしょうか?
邱:選手層の厚さ。これに尽きます。日本にも中国に勝てるレベルの選手、勝つ可能性のある選手はいる。でも1人か2人しかいない。ここが問題。

中国には同じ位の選手が8人いる。確率の問題なんです。

中国選手だって1回戦負けもある。でも仮に許昕(シュシン)が1回戦で負けても、林高遠(リンガオユエン)がいる。林が負けてもまだ樊振東(ファンジェンドン)も馬龍(マロン)もいる。

ーー確かに日本選手もヨーロッパ選手も中国に勝つことはある。でも連勝するのがとても難しい印象があります。
邱:(張本)智和も(昨年12月のITTFプロツアー)グランドファイナル決勝で林高遠に勝った。でも次(に対戦した今年)の香港オープン決勝では負けた。

時々日本人が勝つ。ただ、1回は勝てるけど次は負ける。

コピー選手は本当にいるのか?




写真:邱建新(木下グループ総監督)/撮影:伊藤圭

ーー中国は、負けた後に特別な対策をしているのでしょうか?
邱:それはあまり無い。ただ単純に練習量が多くて、練習の質が高いから強くなるだけ。わざわざ張本を倒すためだけの練習はしない。もちろん試合前は相手のビデオを見て作戦を立てたりはします。

ーー対策用のコピー選手を作るという話も良く聞きます。
邱:それは良く言われるし、昔はあった。でも今は、特に男子は殆どない。もしコピー智和になれたら、その選手は世界選手権代表になれるよ(笑)

女子の練習相手だったら、男子のコピー選手を作れるかもしれない。コピー美誠とかね。

でも男子のトップ選手のコピーは難しい。例えば水谷のコピー選手いますか?林高遠?王楚欽(ワンチューチン)?

ーー確かに全然違いますね(笑)。

邱:(水谷)隼のサーブは真似できない。智和のバックを中国人が真似できたら、その選手は練習相手じゃなくて絶対ナショナルチームで試合出てる。

600人vs20人




写真:邱建新(木下グループ総監督)/撮影:伊藤圭

ーーではどうして中国は強い8人を揃えられるのでしょうか?
邱:それは本気で卓球をやっているプロの人数の問題。中国には31の省があって、それぞれ20人ぐらいの男子のプロ選手がいる。

ーー20人×31だと600人を超えます。日本男子は純粋なプロは15名〜20名ぐらいです。30倍〜40倍もいます。
邱:その600人の中から選ばれたトップ20人だけがナショナルチームに行ける。

更に言うと、省のチームの中にまだ地元の市のチームもある。つまりピラミッドの大きさが違う。

日本だと男子ナショナルチーム20人のうち15人が青森山田出身という時代、私も吉田安夫先生にお世話になって山田の選手は良く知っている。

でも青森山田は日本に1つしかない。これからは野田学園とか名電とかに変わるかもしれないけどやっぱり1つだけ。中国には青森山田が31個ある。だから強い。

ーー最後に、どうやったら中国を倒せる?
邱:チャンスは絶対ある。ただし、めちゃくちゃ難しい。

同じ大会に強い選手が1人、2人しか出ていない国と5人出ている国があったら、5人の方が有利。

でもメダルがかかった1試合だけで考えればチャンスはある。

ーープレッシャーはどちらにもかかりますよね。そんな場面でリードできれば。。。
邱:プレッシャーは自分のレベルが高ければかけられるし、レベルが低いとリードしていてもかけられない。確かに0-3や1-4と序盤リードされてスタートしてしまうとプレッシャーはかけられない。でも8-5でリードしていても結局こちらのレベルが高くないと相手にはそこまでプレッシャーはかからない。

最初からブンブン(ラケットを)振り回すのではなく、1-1、3-3、6-6と食らいついていって、互角に渡り合うと相手にプレッシャーがかかって勝つチャンスが出てくる。

ーーそんな瞬間を是非見てみたいですね。中国の強さと卓球の奥の深さ、勉強になりました。ありがとうございました。

文:川嶋弘文(ラリーズ編集長)