現代フットボールで最も重要なポジションのひとつ、サイドバック。日本代表でそこに君臨するのが、長友佑都と酒井宏樹だ。2人とも先のパラグアイとの親善試合でも先発し、前者が118キャップ、後者が57キャップを刻んだ。おそらく現時点でのベスト…

 現代フットボールで最も重要なポジションのひとつ、サイドバック。日本代表でそこに君臨するのが、長友佑都と酒井宏樹だ。2人とも先のパラグアイとの親善試合でも先発し、前者が118キャップ、後者が57キャップを刻んだ。おそらく現時点でのベストメンバーに入った2人は、共に1アシストずつを記録し、チームの2-0の勝利に貢献している。その存在感は大きかった。



パラグアイ戦の前半はCB、後半は右SBを務めた冨安健洋

 ただし、長友はもうすぐ33歳となり、酒井もすでに29歳。3年後のW杯を考慮すれば、少なくとも彼らのクオリティーに迫るくらいのバックアッパーが欲しい。現日本代表の論点のひとつだ。

 その意味で、パラグアイ戦の後半は興味深いものとなった。ハーフタイムに酒井と交代した植田直通は中央に入り、それまでCBを務めていた冨安健洋が右SBに回った。今夏、1年半を過ごしたシント・トロイデンからボローニャへ移籍した20歳のDFは、コッパ・イタリアとセリエAの開幕から右SBでフル出場を続けている。

 ボローニャの指揮官は、かつて強烈な左足のキックを武器にトップレベルのシーンを沸かせたレフトバック兼CBシニシャ・ミハイロビッチだ。元セルビア代表のレジェンドはおそらく、この若き日本代表の攻撃的な資質を見抜き、それをより効果的に発揮できるポジションを任せているのだろう。

「そういう監督と巡り会えたことは、冨安にとってプラスになると思います」と試合後に話したのは主将の吉田麻也だ。「(レアル・マドリードの)セルヒオ・ラモスや(リバプールの)ジョー・ゴメスも SBを経験してCBとして大成した。SBを経験することで、運動量や運動能力が上がっていく。サッカーでスペースがどんどん減っていき、スピードが上がっていくなか、そのスピードに対応できるCBになってくれるといいですね」

 その後、吉田は現代の理想のSB像についても言及した。

「スプリント回数など、運動量が絶対。それから1対1の強さ。個の能力というか。SBって(守備側が)嵌めようとする(※そこでボールを奪おうとする)ポジションなので、嵌められない選手が敵にいたら本当に難しい。たとえばマルセロとか。ブラジルとやったとき、ぜんぜん嵌められないんですよ。能力の高いSBとは、そういう選手だと僕は思います。ただ冨安なら、それもできそうな感じがするんですよね」

 当の本人は、「初めてですし、練習でもやっていないので、攻守共にまだまだ良くできる(ようになる)と思います。守備のところでは、(前のポジションの久保建英に)頑張らせすぎちゃったので、もっと僕が動けばよかったですね」と話した。

 冨安らしい謙虚な言葉だが、きっと少しは手応えもあったのではないか。身体能力と体格、そして出会いに恵まれる若者は、いかなる場所でも成長し、あらゆる舞台で躍動する姿を披露してきた。守備の国イタリアでどんな選手になっていくのか、とても楽しみだ。

 そして67分には、左SB長友に代わって安西幸輝が登場した。右利きながら左でも遜色のない働きをする24歳もまた、今夏、1年半を過ごした鹿島アントラーズを離れ、ポルティモネンセへ移籍。中島翔哉や権田修一、前田大然も参戦するポルトガルで唯一、安西は開幕からリーグ戦で全試合にフル出場している。3月以来の招集を受けた理由のひとつも、そこにあるはずだ。古巣の本拠地に凱旋し、少ない時間のなかでも溌剌とした動きを見せた。

「サポーターの前で試合ができてよかったです。ファミリーだと思ってくれているのは、すごくうれしいこと。もう少しボールを触れればよかったですけど、勝つことが大事です。これからもっとアピールしていかなければいけないですね」

 キラキラと汗が光る表情からは、充実感がうかがえる。ポルトガルでの日々を楽しんでいるのだろう。

「環境はすごくいいです。(ポルティモネンセのホームタウンは)すごく小さい町ですけど、僕にとっては住みやすくて、サッカーに打ち込めるところ。ただアウェーは大変で、バス移動が7、8時間あったり、ピッチがデコボコしていたり、湿度が異常に高かったり。

 でもそういう環境が、僕を強くしてくれている。たぶん代表で試合に出ている人たちも、そんなことを乗り越えてきて、今があるのだと思います。僕も今は色んなことを経験して成長する段階だと思っているので、がむしゃらについていって、(代表の)2人の偉大なSBを早く追い越せるようになりたいです」

 この試合で代表3キャップを記録した安西が、ケタがひとつもふたつも違う先達の定位置を脅かす存在になるには、何が必要になるだろうか。本人はこう考えている。

「今日は前半の45分間、長友さんのプレーをずっと近くで見ていたのですが、守備の1対1の時、相手との駆け引きがものすごく上手でした。シンプルにすごかった。攻撃の駆け引きは僕もよくやるんですけど、またひとつ勉強になりました」

 ただその一方で、安西は手応えも感じている。ポルトガルではすでに、3強のひとつ、スポルティングとも対戦しており、高いレベルの外国人選手には慣れてきているようだ。

「3月の初招集のときよりも、(外国人の)相手に慣れてきました。スポルティングのようなポルトガルでも抜きん出たチームと対戦して、ものすごく速いウイングとも対峙して。本当にいい勉強になりました。そういう選手がゴロゴロいるなかで、代表(の主力)選手たちは揉まれてきたんだと思います。僕もいろんなことを吸収して、成長したいです」

 中央から右に挑戦する20歳の富安と、左右のSBで能力を高め続ける24歳の安西。汎用性も高い2人が、今後日本代表の最終ラインで存在感を増していくはずだ。