2019-20シーズンのリーガ・エスパニョーラ。バルセロナ、レアル・マドリードのビッグ2は、それぞれ1勝1分1敗、1勝2分と、鈍い出足を見せる。一方で首位に立ったのは、開幕3連勝のアトレティコ・マドリードだ。

「1試合1試合を戦うのが、我々アトレティコのフィロソフィー」

 第3節、エイバル戦で決勝点を決めたMFトーマス・パーテイは語っている。目の前の1試合に集中する。戦いの規範は今までと同じだ。しかし、戦いの様式は変わった。

「ポゼッションなど意味がない」

 指揮官であるディエゴ・シメオネは以前、そううそぶいていた。就任8年目。リーガ・エスパニョーラを制し、2度にわたってヨーロッパリーグで優勝できたのは、勝負に徹したおかげだろう。守備の堅牢さによって得た安定で、カウンターを繰り出し、セットプレーでとどめを刺す。やや退屈だが、効率的で闘争心に満ちた、受け身的戦術が代名詞だった。

 ところがエイバル戦は0-2とリードされながら、3-2と鮮やかに逆転。実に派手な試合だった。ボールプレーヤーたちが挑戦的なパスを入れ、能動的にボールを前に運び、攻撃の苛烈さは増していた。

 新生アトレティコ・マドリードの変化とは――。



新生アトレティコ・マドリードの象徴的存在、ジョアン・フェリックス

 ポルトガル代表FWジョアン・フェリックスがベンフィカから加入したことは、ひとつの端緒になっている。

 開幕のヘタフェ戦、J・フェリックスはいきなり違いを見せた。自陣右サイドでドリブルをスタートすると、立ちふさがる選手たちを3人も置き去りにし、敵ペナルティエリアにまで入っている。ゴールに向かう技術と決定力は申し分ない。エイバル戦では初得点を記録。エースだったフランス代表FWアントワーヌ・グリーズマンのバルセロナ移籍を惜しむ声は聞こえてこない。

 なによりJ・フェリックスはそのプレーセンスの高さで、チーム力を高めることができる。巧みなポストプレーを見せ、フリックパスで一瞬にして決定機を創造。スピードに長け、ディフェンスの裏を破れるし、スペースも作り出せる。また、細身だが、空中戦の競り合いも苦にしない。前線でFWと連係し、中盤からボールを引き出し、攻撃の幅を広げつつある。

 そのおかげで、相棒のFWであるジエゴ・コスタ、アルバロ・モラタは、持ち味を発揮できている。中盤のコケ、サウール・ニゲスの球出しのスピードも飛躍的に上がった。攻撃の主導権を握ることによって、守備も堅さが増したのだ。

 今までの守備主体の戦い方とは、逆の発想と言えるだろう。

 J・フェリックスだけでなく、多くの新加入選手が定位置を勝ち取っている。イングランド代表右サイドバック、キーラン・トリッピアー(←トッテナム)、スペイン代表センターバック、マリオ・エルモソ(←エスパニョール)、ブラジルの新鋭左サイドバック、レナン・ロディ(←パラナエンセ)、スペイン代表MFマルコス・ジョレンテ(レアル・マドリード)。昨シーズンと比べ、先発メンバーの半数以上が入れ替わった。他にもメキシコ代表MFエクトル・エレーラ(←ポルト)、ブラジル代表センターバック、フェリペ(←ポルト)などがベンチで出番を待っている状況だ。

 実はアトレティコは、昨シーズンから攻撃的な戦いにトライしていた。スペイン代表MFロドリを獲得したのもその一環だったが、波が大きかった(ロドリはマンチェスター・シティに移籍した)。また、ディエゴ・ゴディン、フアンフラン、フィリペ・ルイスなど勝ちパターンを作ってきた主力が多く残っていただけに、切り替えるのに時間を要したのだ。

「今シーズンは新たに加入した選手が多く、役目や責任を与え、チームを作り直している。我々はとにかく勝ちたい。とことん、勝ちたい。その思いは同じで、選手が入れ替わるなかで、それぞれの競争も高まっている」

 シメオネは言う。

 競争は多様性を生み出した。選手のキャラクター次第で、システムを変えられるようになった。たとえばJ・フェリックスは2トップの一角が有力だが、サイドにも回る。エイバル戦は、前半は4-4-2で中盤はダイヤモンドに近かったが、後半は4-2-3-1に変更。すると、スペイン代表MFビトーロ、19歳のスペイン人アタッカー、ロドリゴ・リケルメなど途中出場の選手が流れを変えた。

 貪欲なシメオネは、もうひとりのFWとしてバレンシアのロドリゴ・モレノも求めていたが、これには失敗した(契約は内定したが、所属選手であるアンヘル・コレアを売却できず、白紙になった)。それでも陣容はほぼ整った。リーガだけでなく、間もなく開幕するチャンピオンズリーグの制覇も照準に入っている。シメオネは2度も決勝で涙をのんでいるだけに、悲願のタイトルと言える。

 メッシ・ロナウド時代の後を継ぐJ・フェリックスという切り札を得て、アトレティコは変身を遂げつつある。

「こんなにうまくいくとは、思っていなかった。リーグ戦は首位に立ったから、このまま終われるといいね。まあ、エイバル戦はリードされていたから、手放しで喜べない。もっと自分がゴールしないとね」

 J・フェリックスはあくまで野心的だ。