世界選手権の優勝から1週間後の9月1日、25歳の誕生日に迎えた国内のファン感謝イベントで、桃田賢斗(NTT東日本)は「たくさんのファンの人に応援されていることを実感できたので、またみなさんに良い試合を見せられるように頑張りたい」と話した。…

 世界選手権の優勝から1週間後の9月1日、25歳の誕生日に迎えた国内のファン感謝イベントで、桃田賢斗(NTT東日本)は「たくさんのファンの人に応援されていることを実感できたので、またみなさんに良い試合を見せられるように頑張りたい」と話した。



圧勝で世界選手権連覇を果たした桃田賢斗

 試合が日本のテレビで生中継された世界選手権。日本バドミントン界にとっては、大きな一歩だった。決勝戦で21-9、21-3という圧勝劇。連覇を狙った桃田は、相手のショットをことごとく跳ね返し、隙を見ては強打をたたき込んだ。

 困惑したアンダース・アントンセン(デンマーク)は、強打を狙いすぎてミスを連発。脇腹を押さえながら、あるいは首をかしげながら本領を発揮できず、何もできないまま試合が終わるのを待っているかのようだった。観客も、ただ桃田の強さに感心するばかり。相手を完膚なきまでにたたきのめす「キング桃田」の姿が、そこにあった。

 最後は、アントンセンが放ったクロススマッシュを桃田がフォア側に飛んでダイビングレシーブ。相手の対角へ返したシャトルが相手コートに落ちるのを見届けた桃田は、そのまま突っ伏して連覇達成の喜びを噛みしめた。第6シードから勝ち上がった昨年とは違う。優勝候補の第1シードとして臨み、すべての試合をストレートで勝ってみせた。「絶対王者」の力を証明する連覇だ。

「前回は、がむしゃらに頑張って、勢いで優勝した大会。自分のどこが優れていたか、自分で覚えていないくらいに、ただ一生懸命にプレーしました。今回は、第1シードで、ディフェンディングチャンピオン。負けたくない、絶対優勝する、2連覇をするという気持ちで大会に入りました。向かってくる相手に対して、6試合すべてをストレートで勝てたことは、自分にとって昨年とは全然違う重みがあります」(桃田)

 昨年と違うのは、勝ち上がり方であり、勝ち方であり、戦い方である。昨年の桃田は、ただ一心に得意のレシーブ主体でゲームを運び、勝てばそれでよかった。しかし、今年は、違う。昨年優勝し、世界ランク1位となって立場が変わった。相手に研究されるようになり、守るばかりでは苦戦を強いられるようになったため、攻撃強化をテーマに取り組んできた。接戦にさえ持ち込ませない全試合ストレート勝ちは、攻め勝つスタイルがところどころに表われたことによるものだ。

 桃田は、少なくとも3つの対策を練られている。

 まず、桃田が得意としている、ヘアピンショット(ネット手前に落として相手に拾い上げさせるショット)への警戒。対戦する相手は、前方に寄った位置取りが増えた。次に、桃田がその対策として相手をコート後方へ追いやるショットのパターンを、狙い打ちされることも増えた。そして3つ目が序盤からのハイペース勝負。全試合に勝とうとする桃田よりも1勝にかけてペースを上げてくるのだ。しかし桃田は、パターンを予測されないように複雑化したり、ハイペースに負けないペース配分を覚えたりという努力を続けた。その結果が、相手に付け入る隙を与えない完全勝利につながった。

 桃田の注目度は、高まるばかりだ。何しろ、ほとんどの試合で勝つ。世界選手権を終えて、今年の国際大会は40勝5敗(棄権は含まない)。88%を超える勝率を誇っている。関心を示したのは、テレビ局や、テレビの前で試合を見た日本のファンばかりではない。会場でも「モモータ」が主役だった。

 少し話題がそれるが、試合会場の状況を伝えたい。今大会は史上初めて、障害を持つ選手たちのパラバドミントンの世界選手権が同じ会場で同時に開催されていた。障害者スポーツの発展を考えると、大きな意味のある取り組みだ。一方、単純に一つの会場で2大会を開催するのは、容易でないうえ、初の同時開催で、それなりに難しさもあった。サブアリーナでパラバドミントンの試合を行なっているため、ウォーミングアップエリアが極端に狭かったのだ(パラの選手のアップも大変だったのではないだろうか)。

 そのため、選手や関係者も各自、会場内でスペースを見つけようと、いろいろなところにいた。報道陣が取材エリアに入る途中の通路で、08年、12年五輪連覇のレジェンドである林丹(リン・ダン=中国)が寝転がってマッサージを受けていたり、2016年リオデジャネイロ五輪の覇者である諶龍(チェン・ロン=中国)が縄跳びでクールダウンをしていたり、取材エリアでまだ試合前の園田啓悟(トナミ運輸)が身体を動かしていたり……。誰もが所狭しとしており、スタンドも空いている観客席に選手、関係者、報道陣が入り混じっているような状況だった。

 ここで本題に戻って「モモータ」である。コートだけが照らされて足下もあまり見えないほど暗い会場で、話している人たちが一体どの国の誰かまでは見分けがつかないのだが、観客席で試合を見ていると、必ず誰かが「モモータ」の話をしていた。同じ左利きである桃田と林丹のバックハンドショットの打ち方について延々と話している、競技関係者らしい人たちの姿も見られた。桃田の試合が行なわれていない時でも、話題に出てくるのは「モモータ」だった。

 誰が相手でも、必ず勝つ。絶対王者となった桃田の強さに、国籍を問わず誰もが関心を持っている。連覇達成後、コート上インタビューでは、ホームで迎える来年の大一番について聞かれた桃田は「東京五輪に照準を合わせるのではなく、一試合一試合、応援してくれるファン、サポートしてくれる人のために全力で戦う」と答えた。

 違法カジノ店での賭博が判明し、出場停止処分を受けて優勝候補の一角として臨むはずだったリオデジャネイロ五輪を棒に振った経験を持つ桃田にとって、プレーする姿に関心を持ってくれる人たちの存在は、癒しであり、活力なのだろう。夢の舞台まで勝ち続けることで、期待感と期待に応えようとする力は、ともに増していくに違いない。