「難しい試合になることは予想していた。実際に戦ってみて、スコアとしてはどちらが勝利してもおかしくなかった。運を味方に…

「難しい試合になることは予想していた。実際に戦ってみて、スコアとしてはどちらが勝利してもおかしくなかった。運を味方にし、3ポイントを稼ぐことができた」

 敵地でヴィッセル神戸に2-3の勝利を収めた後、北海道コンサドーレ札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は正直に吐露している。

 試合の岐路となる判定があった。1-1の同点で迎えた後半7分、札幌は右CKを得ると、ゴール前は混戦に。これをジェイが巨体を生かして押し込んだ。

 しかしジェイは腕でボールにコンタクトし、ひじは神戸のディフェンダーの顔面に入っていた。なおかつ、ボールがラインを割ったかどうかも微妙。これに神戸の選手たちは猛抗議したが、判定は覆らなかった。

「手に当たったか、ゴールラインを越えたか、わからない。最近はアンラッキーな試合が続いていた。今日は運があったが、シーズンは長い」

 取材エリアに出て来たジェイは淡々と言った。試合結果に、判定が作用したのは事実だろう。しかし、神戸は単に不運で敗れたのか?



北海道コンサドーレ札幌に敗れ、引き上げるダビド・ビジャらヴィッセル神戸イレブン

 8月31日、ノエビアスタジアム神戸。2連勝で降格圏から脱していた神戸は、7位の札幌と対戦した。

 神戸は前節、アウエーでサガン鳥栖を1-6と粉砕。フェルナンド・トーレスの引退セレモニーを、自分たちの祭りにした。その主役は”トーレスの盟友”、アンドレス・イニエスタだった。変幻自在にポジションをとってプレーを動かし、決定的な仕事を連発。神がかったイニエスタに触発されるように、中心選手が黄金の輝きを見せた。

 この夜も、神戸は試合を支配している。ボールポゼッション率で上回り、相手陣内に攻め込む回数も多かった。前半43分には、押し込んだ展開から、右サイドからのクロスに田中順也がファーサイドで先制点を決めた。

「理想としているポゼッションに近づきつつある。相手よりも最後の3分の1まで多く攻め込むこともできた」

 神戸のトルステン・フィンク監督は言う。6月に監督就任以来、チームはどん底からは脱した。守りが安定し、攻撃が回り出すようになった。トーマス・フェルマーレン、酒井高徳、飯倉大樹、藤本憲明らの大型補強も競争力を高め、功を奏している。

 しかし鳥栖戦と比較すると、札幌戦のプレー精度は格段に落ちていた。ボールを回していても、プレースピードが一定のため、誰も、どこも、マークが外れない。後ろで回す時間が長く、プレスをかけられての不用意なパスミスも少なくなかった。それが、相手にセットプレーを与える結果にもなっていた。

 対照的に、札幌は戦術的成熟度の高さを見せている。とくに後半は前線の3人を2トップにし、チャナティップが一つ下がり、神戸のアンカーであるセルジ・サンペールを潰す布陣に変更。これによって、神戸のビルドアップを狂わせた。

 神戸は昨シーズンから監督がころころ変わり、成熟度は低い。その分、適応する柔軟性に欠ける。田中順也の同点弾で追いついたものの、セットプレーから再び一発を喰い、終盤はフェルマーレンを前線に上げるパワープレーしか打つ手がなかった。

<イニエスタの「不在の在」>

 そう言わざるを得ない試合展開だった。鳥栖戦での全力プレーの代償か、スペインのエースはケガに見舞われ、この日は出場していない。

 イニエスタは要所で起点になることができる。絶妙なタイミングでエアポケットに入り、体を振って視線を変えながら幻惑し、「チャレンジにいけない」と対戦相手を悩ませる。事実、飛び込んだら、ほぼ間違いなく入れ替わられる。しかし誰も来ないと、イニエスタは悠々とボールを運び、相手をギリギリまで引きつけ、それによって空いたスペースや味方へ絶好のパスを送る。

「アンドレス(イニエスタ)に預けられる」

 その信頼感が、各自のプレーも確信に満ちるのだ。まさに「イニエスタが戦術」だが、それがひとつの限界点にもなっている。イニエスタがいない状況をどう克服するべきか。それは神戸の今後の戦いを左右する課題だ。

 試合後、イニエスタの次に圧倒的な実力を示しているベルギー代表DFフェルマーレンに話を聞いた。

――イニエスタがいるときといないときで、あまりにプレーレベルが違う。

「今日、アンドレス(イニエスタ)がいれば、と思ったのは事実だよ。彼はクリエイティブな能力がある。簡単にチャンスを作り出せてしまうから」

――イニエスタは別次元の選手ではある。

「そうだね。本当に信じられないプレーをする」

――あなた自身、チームの戦いを大きく改善しているが……。

「僕は全力を尽くすだけだし、培ってきた経験で貢献できたら、と思っている。でも、自分次第というのはない。僕はチームのためにプレーするし、それはアンドレスも同じはずだ」

 フェルマーレンは簡潔に答えた。イニエスタの存在は圧倒的だが、結局は各選手がチームのために自分の持ち味を出すしかない。現状ではプレーモデルを確立するまでに至らず、それはチームの不安定なマネジメントのツケだ。

「自分が(神戸に)来てから3連勝したことがない。まずはそれが目標」
 イニエスタはそう言っていたが、またしても記録は2連勝で途切れた。残り9試合。神戸は、

「不在」と「在」の間での戦いを余儀なくされる。