文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦 協力=DAZNアジア予選を通じて日本代表を引っ張った富樫勇樹がケガでバスケワールドカップを欠場することに。その穴を埋める存在として期待されるのが、アルバルク東京のポイントガードとしてBリーグ連覇に貢献した安藤…

文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦 協力=DAZN

アジア予選を通じて日本代表を引っ張った富樫勇樹がケガでバスケワールドカップを欠場することに。その穴を埋める存在として期待されるのが、アルバルク東京のポイントガードとしてBリーグ連覇に貢献した安藤誓哉だ。

Bリーグ優勝チームの司令塔であり続けたにもかかわらず、安藤はアジア予選では一度も代表招集をされていない。この夏も彼が呼ばれたのはA代表ではなく若手主体で挑むジョーンズカップだった。それでも、ここでA東京で培ったスキルと経験を存分に生かしてA代表の候補に加わり、そのままワールドカップ行きのメンバーに選ばれた。『最終列車』に乗り込むことには成功したが、もちろんここで彼の挑戦が終わるわけではない。ワールドカップでどんなプレーをして、日本代表にどんな形で貢献するのか。安藤に大会への意気込みを聞いた。

「日本代表でプレーしたい気持ちはずっとあった」

──Bリーグはファイナルまで戦い抜き、すぐにジョーンズカップがあって、帰国後すぐにA代表の合宿が始まりました。まさにフル回転ですが、心身のコンディションは大丈夫ですか?

日本代表でプレーしたい気持ちはずっとあったので、ただただうれしいです。良い練習ができているので、コンディションには問題ありません。

──アジア予選では招集されず、このタイミングで日本代表に加わりました。特にポイントガードは急に入って活躍するのが難しいポジションですが、慣れてきた実感はありますか?

国際強化試合があって、かなり慣れたとは感じています。ベンチ外から見る試合もあったんですけど、もちろんプレーしたいという気持ちがあって、自分でプレーする気持ちで見ていました。そういう意味でニュージーランドとの2試合目に出してもらった時には気持ちが入りすぎてしまったという反省があります。自分の持ち味であるアグレッシブさを出してチームに勢いを与えることはできたのですが、ちょっと周りが見えていませんでした。

チュニジア戦は、前日からすごく準備したつもりです。これまでずっと僕は先発でプレーしてきて、ここに来てバックアップで出ることの大変さを知りました。最初の出だし、ゲームの流れや相手のディフェンスを常に見ながら、自分が出る想定で準備しなければならないので。それでもプレーイングタイムが長くもらえたらやれる自信はありましたし、正直楽しかったです(笑)。今後もこんな感じでやれればと思います。

「相手の対応を頭に入れて、その上での駆け引き」

──安藤選手はA東京での2シーズン、ルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチの指導を受けています。ポイントガードとして大きく成長した実感はありますか?

プロになって毎年毎年を大事にプレーしてきたつもりですが、特にこの2年はポイントガードのマインドをルカに直接しっかり教えてもらってきました。プレーをする上での考え方もだいぶ変わりましたし、ポイントガードの形というものが自分の中でしっかり見えてきたと感じます。

──ポイントガードがプレー中に刻々と状況が変わる中で何を見て、どう判断しているのか。言葉で説明するのは難しいと思いますが、安藤選手の判断基準や優先順位がどんなものか教えてもらえますか。

やっぱり24秒の中でどうすればいいか、そのクロックマネージメントが大事だと思います。バスケは5人でやるもので、チームメートそれぞれのプレーは違いますし、相手のディフェンスもあります。ピック&ロールに対して「相手がこうしてきたら、自分はこうする」というディフェンスへの対応が、ある程度は自分の中で整理できてきました。

いろんなパターンのディフェンスに対してゲームの中で「さっきは相手がこうしてきたから、次はこうしよう」という判断をハンドラーは常にやっています。その判断の精度やスピードが上がってきた、経験を積む中でできるようになっているのかな、とは自分でも思います。

もともとは自分が持っていた感覚だけでやっていた面もありました。どっちが先かという話は難しいんですが、オフェンスが先に仕掛けるからディフェンスがそれに対応するみたいな。でも、今はディフェンスがどう対応してくるかの想定が頭に入っていて、その上でこちらがどう仕掛けるか、という駆け引きができています。

特にA東京ではレギュラーシーズンでそういう積み重ねを大事にしていて、途中までは苦しんでいても最後には形になって、それで自分たちは絶対にチャンピオンシップでは負けないという自信を作っています。僕だけじゃなく全員で作った自信が、この2シーズンのチャンピオンシップでの強さに表れていると思っています。

──Bリーグ初年度には秋田ノーザンハピネッツでプレーしていましたが、ピック&ロールからの展開を得意とする印象はありませんでした。安藤選手の意識も変わっていますか?

そうですね。秋田の時はプレータイムをすごく長くもらっていたし、自分のインスピレーションを大事にしろと言われていました。自分の感覚で勝負して、うまく行くことも行かないこともあって、すごく勉強させてもらいました。それでA東京に来て、ルカから自分の感覚ではなくて目に見える状況の中で考えて対応する能力を学びました。

ルカからは今も考えて対応するスピードをもっと速くしろ、クイックだといつも言われます。でも、突き詰めていくと最後はインスピレーションなんですよね。相手の出方を観察して、頭で考えて対応しても、最後は自分の感覚が試される場面は出てきます。僕は自分がそれほどインスピレーションに長けた選手ではないと思っています。動画で世界のいろんな選手を見ると、つくづくそう思いますね。

「タフショットをなくせば悪い流れにはなりません」

──クロックマネージメントを大事にしていると聞きましたが、安藤選手の持ち味はそこで自分のシュートを選択して決める力だと思います。シュートに自信があるから強引に打っていくのではなく、全体のバランスを見てコントロールしながら良いシュートチャンスを作る。そこで自分も打てるので選択の幅が広く、良い判断ができていると思います。

そうですね。自分でもフィニッシュできることが強みだと思ってはいます。流れの中でクロックがなくなる、その過程でどう考えて対応するかをこの2年間で学びました。残り1秒とか2秒で打っているにしても、打たされているんじゃなくて「あそこがミスマッチだから狙おう」とか考えてそのシュートを作りに行く。シュートが入る入らないに関係なく、打たされるシュートを少なくしていく、タフショットをできるだけなくすこと。それができていればチームも悪い流れにはなりません。そういう判断は自分でも良くなってきたと思います。

ただ、ポイントガードとして最後に自分でのシュートを選択して決めきる力はまだまだですね。自分が成長したからこそ富樫選手のフィニッシュのすごさは別格だなと感じさせられます。

──安藤選手はワールドカップ予選には招集されませんでした。Bリーグで結果を出しているにもかかわらず代表に呼ばれず、モチベーションを保つが難しかったのではありませんか? それともルカコーチが厳しすぎて、そんなことを考える暇がなかった?

どちらかというと後者ですかね(笑)。それに、アルバルクで結果を残した先に代表があるという見方をあまりしていなかったんです。プロフェッショナルとしてこのチームで優勝する、その気持ちだけでやっていました。

もちろん、自分がワールドカップに出たいという思いはずっとありました。だから今ここにいられることには感謝の気持ちばかりです。あとはこうして自分でつかんだチャンスですから、まずは自分の力を全部出したいです。出し切ったその先に何か得られるものがあるんじゃないかと思っているので、それを取りに行ってきます。