いよいよ、バスケットボールのワールドカップ(以下、W杯)が8月31日から中国で開幕する。日本は自国開催だった2006年以来13年ぶりの出場だ。直前に国内で行なった強化試合を経て、13年ぶりのW杯に臨む 今回のW杯は、新時代の幕開けの大会と…

 いよいよ、バスケットボールのワールドカップ(以下、W杯)が8月31日から中国で開幕する。日本は自国開催だった2006年以来13年ぶりの出場だ。



直前に国内で行なった強化試合を経て、13年ぶりのW杯に臨む

 今回のW杯は、新時代の幕開けの大会となる。FIBA(国際バスケットボール連盟)は、世界的に競技人口が多いバスケットボールをさらに発展させるべく、今大会から大幅な改革に取り組んだ。話題性を重視して、サッカーW杯との同年開催を避けて会期を1年遅らせ、大会規模をこれまでの24から32カ国に拡大した。予選もサッカーW杯と同様に、ホーム&アウェーにすることで自国のファンが代表チームを応援できるように、普及にも力を入れた。

 現在FIBAランキング48位の日本は、オリンピックの開催国枠を得るため、世界の舞台を経験するためにも、今回のW杯には何としても出場しなければならず、大会システムの変更に伴い、みずからも変わる好機と捉えて準備を進めていった。シーズン中でも強化合宿を繰り返し行ない、アメリカでプレーしていた八村塁や渡邊雄太の招集に全力を注ぎ、210cmのニック・ファジーカス(川崎ブレイブサンダース)の帰化を実現させ、できるかぎりのベストメンバーを揃えて予選を乗り切った。

 1年3カ月という長い予選では、すべての期間に万全な状態で臨めない国も多かった。そんな中で日本は、競技力の成長もさることながら、バスケットボール界挙げての総力が実を結び、4連敗からの8連勝という奇跡を起こした。

 日本のバスケットボールは今、急激な成長期を迎えている。その要因は、NBAドラフト一巡目9位でワシントン・ウィザーズから指名を受けた八村、メンフィス・グリズリーズと2ウェイ契約を結ぶ渡邊、NBA経験を持つファジーカスら”Big3”の参戦により、今までにない高さと戦力が揃ったからだ。「過去最強」といえる日本代表は、W杯でどこまで戦えるのか。

 同グループのトルコ(FIBA世界ランキング17位)、チェコ(24位)、アメリカ(1位)は、いずれも日本より格上で、ヨーロッパのリーグやNBAで戦う選手を揃える強豪国ばかりだ。4チーム中、上位2チームに入ることで2次ラウンドに進出できるが(下位2チームは17~32位決定戦に回る)、現実的な目標として選手たちは「グループ1次ラウンド突破」を掲げる。フリオ・ラマスヘッドコーチ(以下HC)は、さらに堅実な「まずヨーロッパ勢に1勝をあげること」だと言う。

 Big3が揃ったといっても世界は強い。これまでの日本は、W杯でグループラウンドを突破したこともなければ、ヨーロッパ勢に勝利したこともない。もっと言えば、世界大会そのものに出場した経験も極めて少ない。

 近年では、16年にオリンピック最終予選に出ただけで、それ以前のW杯では自国開催の2006年と、自力で出場権を得た大会となれば、98年まで遡らなければならない。オリンピックに至っては76年のモントリオール以来、東京まで44年間も出場していない。ラマスHCが掲げるヨーロッパ勢から1勝をあげることは、切実で現実的な目標なのである。

 本番前に国内で行なった強化試合の結果は2勝3敗。ニュージーランド(38位)と2戦、アルゼンチン(5位)、ドイツ(22位)、チュニジア(51位)と戦った。

 その中でニュージーランドとの2戦目とアルゼンチン戦では、終盤に失速して100点越えの失点で負けた。この2試合を振り返って八村が「経験が足りなかった」と言うように、強豪国は勝負どころで一気にディフェンスの強度を上げてくるが、日本はそのギアチェンジについていけなかったのだ。

 以前、06年大会で日本率いたジェリコ・パブリセヴィッチHCは「予選ラウンドを突破するには奇跡が必要」と言っていたが、ラマスHCも同様に「グッドゲームではヨーロッパ勢に勝てない。エクセレントかそれ以上、限界まで出さなければ勝てない」と話す。これが自力出場から21年も遠ざかった国の現在地だ。

 しかし、現在地に立ち止まっているつもりはない。急激な成長を遂げている日本は、限界を出し切るチャレンジに挑み、前に進もうとしている。キャプテンの篠山竜青(川崎ブレイブサンダース)は「世界を驚かせたい」と言い、渡邊は「今、日本のバスケ界は大きく変わろうとしている。このW杯は日本のバスケ界がもっと大きく前進していく大切な戦い」と覚悟を決めて臨む。

 実際、日本は試合を重ねるごとに進歩している。強化試合の5試合の平均得点は88.2で、平均失点は92.4だった。90点以上の失点では世界で勝てないが、世界大会で平均80点以上のスコアを叩き出す日本代表はこれまで見たことがない。

 今回は、八村とファジーカスの得点力を生かすことが最優先で、特に強化試合の3戦までは八村の得点力に頼っていた。だが、大量失点をしていては国際舞台で戦うことはできないと、ディフェンスに修正を加えて活路を見出したのが、86-83で金星をあげた4戦目のドイツ戦だった。

 この試合から、負傷が癒えた渡邊が完全復帰したことも大きな要素となり、ディフェンスのローテーションが改善されつつあった。

 ドイツに勝利したことで、5戦目のチュニジアには新しい試みもできた。八村をロスターから外すことで、エース抜きの試合を経験させたのだ。追う展開になった後半にもっとも機能したのが、安藤誓哉、田中大貴、馬場雄大、竹内譲次らBリーグで2連覇中のアルバルク東京勢に加え、竹内公輔(宇都宮ブレックス)の5人で戦った時間帯だ。それぞれの動きを熟知しているボールシェアと連動するディフェンスローテーションによってリズムが生まれ、速攻も何本か出た。八村抜きの試合でセカンドユニットが機能したことで、オプションが増えたことは好材料だ。

 ただ、本番前に相手が手の内を全部見せたわけではなく、日本としても完成した強さを発揮したわけでもない。選手たちからも「ドイツのような強豪国に勝てたことは自信になるが、強化試合なので相手が何パーセントの力を出したかはわからず、勝ったからといって調子に乗ってはいけない」との声が出ていたが、八村のメンタリティだけは違った。

「僕らも100%の力を出したかといえばそうじゃないし、もっと修正できるところはある。強化試合だって勝ちは勝ち。これを自信につなげてチャレンジしたい」

 八村はこうして、ビッグゲームを一つひとつモノにしていくことで、アメリカの地でメンタルの強さと自信を積み重ねてきたのだろう。今までの日本に足りなかった自信とチャレンジ精神を21歳の若者がもたらしている。ドラフト指名を受けたNBA選手の誕生とともに、日本バスケ界は新しい時代に突入しているといっていいだろう。

 ヨーロッパ勢に1勝が、現実的な目標であることに変わりはない。ただ、今までなら強豪国に対して勝負にならなかったのが、相手のフィールドゴールの確率、とくに3ポイントを抑えることで勝負できる形は見えてきた。加えて、八村が休む時間帯でセカンドユニットをどのように起用するかは采配の見せどころだ。八村が言うように、チャレンジすることでしか新しい歴史は切り拓けない。限界に挑むW杯は9月1日、トルコ戦からスタートする。

◆1次ラウンド試合スケジュール(日本時間)
9月1日 17:30 対トルコ
9月3日 17:30 対チェコ
9月5日 21:30 対アメリカ