世界柔道選手権男子73kg級で、2016年リオデジャネイロ五輪王者の大野将平(旭化成)が圧倒的な強さを見せつけた。

 初戦の2回戦で、開始1分47秒で切れ味の鋭い内股を仕掛けて一本勝ちした姿は、すごみさえ感じさせ、「優勝は間違いない」と思わせるものだった。



最初から最後まで、攻めの柔道をして優勝した大野将平

 続く3回戦は、最初から試合を支配して序盤で相手に指導を2回出させ、内股で一本勝ちすると、4回戦は18年のグランドスラム・アブダビで優勝しているラシャ・シャフダトゥアシビリ(ジョージア)を相手に、1分45秒に大外刈りで一本勝ち。「得意技ではなく、必殺技だと思っている」とまで言う内股と大外刈りが冴え渡った。

 準々決勝では、ビラル・シログル(トルコ)を相手に4分間の試合時間ギリギリまで戦う展開になったが、終了26秒前に腕挫十字固めで仕留めた。準決勝のデニス・イアルチェフ(ロシア)戦では、釣り手をしっかり取って相手をコントロール。開始1分17秒には内股を放って主審は技ありを宣言したが、その後に取り消され、再び2分51秒にも技ありを宣言されながらも取り消されるという不運もあった。

 大野は、「あの時は自分の中で(試合の)実況をしていたというか。『ああ、これは逆転で負けるパターンだな』みたいにずっと考えていました」と苦笑した。それでも、ほぼ一本ともいえる巴投げで技ありを取り、それが一本にならなかったことを確認するとすぐに袈裟固めに入り、残り14秒に合わせ技一本で勝利する対応力の高さを見せた。

 決勝の相手は、世界ランキング1位でリオデジャネイロ五輪の決勝でも対戦したルスタム・オルジョフ(アゼルバイジャン)。これまで負けたことのない選手に対して自信を持っていた大野は、序盤から戦いを支配。開始1分17秒には釣り手を取った瞬間に内股に入り、一本勝ちで優勝を決めた。

 この優勝を、日本代表の井上康生男子監督も、「自分自身のスタイルを貫き通している部分と、相手に柔道をさせなかったという両面を持っている強さ。今日一日、隙のないうまさを兼ね備えた試合だったのではないかと思う」と高く評価している。

 大野は、リオ五輪で金メダル獲得後の休養を経て、17年12月のグランドスラム東京から本格的に復帰。昨年の全日本体重別選手権では海老沼匡(パーク24)に準決勝で敗れ、世界選手権代表を逃していた。

 しかし、昨年9月のアジア大会に出場すると、世界選手権で優勝した安昌林(韓国/今回は欠場)に勝ってアジア王者となり、その後のグランドスラム大阪でも優勝をおさめた。

 井上監督は、「昨年の国際大会では、いろいろと課題が残ったが、今年はその課題をしっかり克服してリオ五輪前、リオ五輪以上の強さが身についてきている」と話し、こう続ける。

「相手の柔道着のどこを取っても投げるということを昨年は課題にしていたが、今回は、どの状態でも自分の形に持ち込んでしまう力強さがあった。そういう高い技術力が見えた試合だったが、その裏付けになるのは彼が常に考え抜いて、質、量ともに高い練習を行なっているからだと思う」

 1年後に東京五輪を控え、4年ぶりに東京で開催された世界選手権。そこで結果を出したことは、大野にとって達成感や満足感より、安堵の方が強かったと言う。

「自国開催だったし、周りから『大野は勝つだろう』という期待も感じていた。自分の中にも(勝てるだろうという)甘い誘惑がよぎったこともありました。それに打ち勝つためには、やりすぎといえるくらいの準備をするしかなかったし、試合直前まで自分の納得する準備ができたと思います。皆さんの期待を超えるような柔道ができたのではないかと思っています」

 井上監督が「世界中の選手たちが研究をしてきている中で、今回の圧巻の勝ち方というのは非常に高く評価してもいいんじゃないか」と言うように、東京五輪代表候補争いは、大野が一歩前進したと言える。

「こういう形で優勝できたのはうれしいですが、自分の73kg級の戦いはまだ道半ば。五輪連覇というのは、簡単ではないと自分自身が一番理解しているので、今回勝ったからこそ、もう一度やり直さなければいけないと思っています。来年の東京五輪は、自分にとってリオに続く2回目の集大成なので。特別だからこそ、ほかの選手よりもひとつ上のステージで戦っていきたいと思っています」(大野)

 目標とする柔道を口にする大野は、ここで”最強”の姿を見せつけたからこそ、さらに気持ちを引き締めて、もっと強くなるためのステージへ進もうとしている。