8月23日、ゲンクがアンデルレヒトに1−0で勝った後、ミックスゾーンでベルギー人記者が「アンデルレヒトは君のことを、なかなかストップすることができなかったね」と尋ねると、伊東純也は少しいたずらっぽく「そうです」と言った。ゲンクのサポー…

 8月23日、ゲンクがアンデルレヒトに1−0で勝った後、ミックスゾーンでベルギー人記者が「アンデルレヒトは君のことを、なかなかストップすることができなかったね」と尋ねると、伊東純也は少しいたずらっぽく「そうです」と言った。



ゲンクのサポーターからも高い信頼を得ている伊東純也

 伊東がボールを持つと、アンデルレヒトは間髪入れずに間合いを詰め、早くも2分には若手CBフィリップ・サンドラーが伊東に体当たりを食らわせた。この時、伊東は腰をかなり痛めてしまったが、それでも試合の経過とともに徐々に調子を上げていった。

 0−0で迎えた55分、伊東は抜群のポストプレーから値千金のアシストを記録する。センターFWのムブワナ・アリ・サマタが中盤に降りてペナルティエリア右側に蹴った浮き玉のパスを、MFブライアン・ヘイネンがヘッドで落とす。これを、中央で伊東がサンドラーを背負いながら巧みにトラップし、走り込んできたサマタにパス。最後はサマタが蹴り込んで、ゲンクが試合の均衡を破った。

「ボールを受けてシュートを打とうとしたんですが、アリ(サマタ)の声がめちゃくちゃ聞こえたので、シンプルに落としました。自分はともかく中に走って、大外に誰か(ヘイネン)が走って(相手を崩した)、いい形だったと思います」

 これで伊東のアシストは、今季5試合で3つ目だ。68分にはハーフウェーライン手前から3人を抜き、敵陣深くまでドリブルで突破するビッグプレーもあった。直後のクロスはMFヴァンサン・コンパニにクリアされてしまったが、60メートルの距離を一気に進む爆発力・推進力には迫力があった。

 スポーツ・ウェブサイト『スポルツァ』が選ぶマン・オブ・ザ・マッチは、決勝ゴールを決めたサマタ。だが、地元紙『ヘット・べラング・ファン・リンブルフ』は伊東を選んだ。

「(ゲンクの)プレーの質は上がってきていますし、個人としてもよくなってきていると思っています」と、チームも本人も調子が上向きであることを認めた。昨季のベルギー王者ゲンクは、これでようやく3勝2敗と白星が先行した。

 今から5週間前に、今季のベルギーリーグは開幕した。ゲンクの初戦の相手はコルトレイク。ゲンクは13分に失点する苦しい試合展開となったが、新加入のMFベンジャミン・ニグレンとMFヤニス・ハジのゴールによって、2−1で逆転勝ちした。

 この試合で伊東は、左SBイェレ・ウロネンが縦に蹴ったFKをジャンプしながらトラップし、ハジの決勝ゴールをアシストした。トラップからの一連のプレーの流れは美しく、ベルギーメディアも大いに讃えた。全国紙『ヘット・ニ—ウスブラット』は第1節の週間ベストイレブンに伊東を選出。だが、コルトレイク戦後の伊東の表情は冴えなかった。

「今日はアシストをしてなかったら、自分で自分を許せないぐらい本当に(出来が)ヤバかった。今まででも1、2を争うぐらいひどかったと思います」

 コルトレイク戦の前半を0−1で終えると、伊東はロッカールームでチームメイトとともにフェリチェ・マッズ監督から「ボールを失いすぎ」と厳しく指摘された。伊東も「そのとおりだな」と思ったという。コルトレイク戦後の伊東は、最後に「今日はちょっと反省点が多い」と言って帰っていった。

 あれから1カ月、伊東は明らかに調子を上げている。その秘訣はいったい何なのだろうか……。

 昨季、ゲンクをベルギーリーグ優勝に導いたフィリップ・クレマン監督(現クラブ・ブルージュ)の指揮のもと、伊東は右に張った位置から中に切れ込んだり、ポジションを移したりしていた。本人いわく、「やり方は柏の頃とそれほど変わらない」ということだった。

 一方、この夏から就任したマッズ監督の指示は、「中に入ってポジションを取れ」というもの。その指示に伊東は、ちょっと慣れていない様子だった。

 ところが、アンデルレヒト戦の伊東のポジショニングは、コルトレイク戦と比べて右サイドに張っている時間帯が増えていた。伊東は言う。

「マッズ監督から最初、『中に入れ』と言われていたのですが、自分の特徴はサイドからの仕掛けなので、監督の言うことを聞きつつ、自分のやりたいことをやっていかないと……というバランスを見つけました。

 中だけにいても自分の特徴は出ないですし、両方できればいいという感じです。そういうのを心がけてやっていたら、うまくいくようになりました」

 ポゼッション時に外に張り出す時間帯を増やし始めた伊東だが、マッズ監督から授けられたタスクはしっかり実行している。アンデルレヒト戦では、まるでボランチのようなポジショニングを取って相手ボールを奪ったり、プレッシャーを受けた右SBカスパー・デ・ノーレを助けたりもしていた。

 このように、伊東はチームに貢献したうえで、自分が生きるための策を講じている。

 アンデルレヒト戦で、伊東は188cmの大型CBサンドラーとマッチアップした。アシストしたシーンも、60メートルをドリブルでぶち抜いたシーンも、腰を痛めたシーンも、サンドラーがそこにいた。彼と互角以上にやりあえたことは、伊東にとって自信になったのではないだろうか。

「そうですね。アンデルレヒトの両CB(コンパニ&サンドラー)はレベルが高い。そういうスカウティングは出ていました。実際にうまかったし、強かったと思います。ああいうCBとやれるのは(ベルギーに来てプレーする)強みかなと思います」

 8月30日には、チャンピオンズリーグの抽選会がある。しかし、「今度の木曜日にCLの抽選会がありますね」と言っても、「ああ、そうなんですか? 知らなかった」と返す。

「(当たるチームは)どこでもいいです。あんまり気にしてない。どこと当たっても格上なので、チャレンジャー精神でやります。強いチームとやりますので、楽しめればいいかなと思います」

 ベルギーメディアは伊東のことを、「DFが捕まえきれなかった」と評価した。その姿をCLの舞台でも、ぜひとも発揮してほしい。