藤田光里インタビュー(前編)左ヒジの痛みに見舞われて以降、しばらく低迷していた藤田光里(24歳)が今季、復調気配を見せている。ステップ・アップ・ツアーでは優勝を飾って、レギュラーツアーでも第1回リランキングをクリアした。今回、その彼女を直撃…

藤田光里インタビュー(前編)

左ヒジの痛みに見舞われて以降、しばらく低迷していた藤田光里(24歳)が今季、復調気配を見せている。ステップ・アップ・ツアーでは優勝を飾って、レギュラーツアーでも第1回リランキングをクリアした。今回、その彼女を直撃し、紆余曲折あったここ数年のシーズンを振り返るとともに、現状についての話を聞かせてもらった--。

--復調気配を見せている今季ですが、シーズン開幕からいい形で入ることができたのでしょうか。

「今季は(当初)ステップ・アップ・ツアーでがんばって成績を挙げて、『QT(※)をいいところから受けられたらいいな』と、結構ざっくりとした目標で開幕を迎えたんです。そうしたら、ステップ・アップ・ツアーの開幕戦と同じ週のレギュラーツアー、アクサレディス in MIYAZAKIの推薦をいただいて、急きょレギュラーツアーの試合で(今季の)開幕を迎えることになって……。
※クォリファイングトーナメント。ファースト、セカンド、サード、ファイナルという順に行なわれる、ツアーの出場資格を得るためのトーナメント。現在はファイナルQTで40位前後の成績を収めれば、翌年ツアーの『リランキング』までの大半の試合には出場できる。

 それで、自分の中で(気持ちが)アップアップになって、試合会場に行く時から、ドキドキするぐらいなっていて……。だから、試合の時は(落ち着けるように)何となく”ホーム感”を持って臨みたくて、妹にキャディーをお願いしたんですよ」

--常に落ち着いているように見えましたが、意外と緊張するタイプなんですか。

「(緊張)しますよ。表には出ていないのかもしれないですけど(笑)」

--結局、アクサレディス in MIYAZAKIは予選落ちに終わってしまいましたが、レギュラーツアー2戦目のフジサンケイレディスクラシックでは、見事にトップ5入り(5位タイ)を果たしました。

「フジサンケイは『予選通過できたらいいな』という感じで臨んだら、本当に(予選を)通過できて。決勝ラウンドでも『トップ10に入れたらいいな』と思ってやったら、最終的に(5位タイの)いい結果を出せたので、びっくり! みたいな感じでした(笑)。

 でも、それによって(レギュラーツアーの)リランキングに関わってくるぐらいの賞金が入って、周囲から『リランキングに向けて(手応えは)どうですか?』といったことを聞かれるようになって……。私は、それがちょっと嫌でした。今年の自分の目標は、そこにはなかったので」

--リランキングのことは、あまり意識したくなかったわけですか。

「頭の片隅にあるくらいでしたね。というのも、昨季の前半戦は『リランキングで(上位に入って)何とかしないと』という焦りによって空回りして、それで(結果も残せずに)シーズンが終わってしまったんです。

 だから今年は、『同じ失敗をしないようにしよう』『自分が今いるポジションで、できることをやろう』--そう思ってシーズンに臨んだわけですから、そこはブレないでおこうと。そうやってきた結果が、ステップ・アップ・ツアーでの優勝(ユピテル・静岡新聞SBSレディース)にもつながったのかな、と思っています」

--昨季までと、何か変えたことはありますか。

「う~ん、(自らの)ゴルフ自体は、技術的な部分は今までと変わらないんですけど……。これまでは、『絶対に予選を通らないといけない』『上位争いしないといけない』ということを考えながらプレーしていたので、常に緊張していたし、失敗も許せなかったんです。

 でも昨年、(左ヒジの)手術をして、できることが限られているなかで、QTもサードで落ちてしまったんですけど、その時にちょっと考える時間があって。『今、できることだけやっておけばいいかな』って、いい意味で自分に甘くなりました。だから今年は、すごく(気持ち的に)楽にゴルフができているので、それがいい結果につながっているのかと思います」

--少し過去のことを振り返ってほしいのですが、2015年にツアー初優勝を飾って、「さあ、これから」という時に、翌2016年はぎりぎりのシード獲得、2017年はシードを逃すことになりました。何か問題があったのでしょうか。

「2016年にはもう左ヒジを痛めていて、最終戦の大王製紙エリエールレディスの時にはあまりに痛いので、プロアマを棄権して病院に行ったぐらいなんです。そこで、検査を受けた時に『肘部管(ちゅうぶかん)症候群』と診断されました。神経が骨に引っかかる位置にあって、私の場合はボールを打った時の衝撃や、(スイングの)フィニッシュでヒジを捻ったりすることで、神経が圧迫されて腫れてしまったようです」

--それでも、試合は棄権しませんでした。

「その時点で、私はその試合で予選を通って、最後まで回り切らないとシードを落としそうだったんですよ。それで、痛みを押して試合に出て、何とか結果(32位タイ)を残して、賞金ランキング48位でシード権を得られたんです。

 それで、せっかくギリギリで通ったシードだから、2017年シーズンの1年間を棒に振りたくないと思って、その時は(ヒジの痛みを抱えたまま)『手術はしない』という選択をしました。それにその当時、ゴルフをやめるかどうか、迷っていたし……」

--それは、どうしてですか。

「ヒジのこともあったんですが、2016年12月に父(孝幸さん)が亡くなったんです。それで、父のお葬式の時に『今がゴルフをやめるタイミングなのかな』と思って……。

 そもそもプロゴルファーになったのは、私の夢というより、”父のため”というほうが大きかったし、その父がいなくなった時、『自分の意志でゴルフを続けられるのかなぁ……』って、お葬式の時にずっと考えていました。でも結局、(ゴルフを)続けることにしたんですけれどね」

--ゴルフを続ける決断をしたのは、何か理由があったのですか。

「シードをギリギリで通った日、父がすごく喜んでくれて、私に『ゴルフ人生で一番うれしい。ありがとう』というLINEを送ってくれたんです。そのLINEは今も残っているんですけど、お葬式とかすべて終わったあとに、そんな父とのやり取りを見返したんです。それを読んで、『ああ、やっぱりゴルフを続けよう』と思ったんです」



苦しい時期について振り返る藤田光里

--そうして、2017年のシーズン後、左ヒジの手術をすることになりました。

「最終的に手術を決断したのは、私生活にも支障が出たからなんです。握力が10㎏しかないぐらいになっていて、携帯も持てないし、飲み物も飲めないし、ドライヤーも使えないし、服も着られない……。そうなった時に、もうこの生活が続くのは無理だと思って、手術をしようと決めたんです」

--手術の影響もあってかと思いますが、2017年に失ったシードを、2018年で取り戻すことはできませんでした。しかも、2019年の出場権を獲得するためには、セカンドQTから参加、という厳しい状況となりました。

「セカンドQTの時は、左ヒジが原因で自信を持ってクラブを振り上げられなくて、初日の1番ホールのドライバーは、野球でバントをするような感じで打ちました。それで、210ヤードぐらい飛んで、セカンドショットは6番アイアンで160ヤード打って、3打目が残り30ヤードのアプローチ……。その後も、ずっとそんなゴルフをやっていて、ほんと、3日間でナイスショットが1回もないんです。それでも、セカンドQTを通過。その時はめちゃくちゃうれしかったですね」

--手術を終えても痛みがあったのでしょうか。それとも、不安があって、思い切り振れなかったのでしょうか。

「不安です。手術前の2年くらいは、痛みを我慢して振っていましたし、自信を持って打てる球を2年以上、打っていなかったですからね。あと、『QTを落ちたらどうしよう』という不安もありました」

--続いて、サードQTに挑むわけですが……。

「初日は3アンダー(トップと2打差の10位タイ)でよかったんですけど、だんだんと悪くなっていって、(1打及ばずで)落ちました。QTの会場の最終日って、みんな、泣いたり喜んだり、いろいろな感情が出る場なんですけど、その時の私は『早めにオフが始まりました』といった捉え方ができて。なんか、気持ちがすごく楽になったんです。

 だから、私の最近のゴルフの分岐点は、昨年のQTで、サードで落ちたことなんですよ。『あ、今の自分のポジションは”ここ”なんだな』って確認できたから、自分に対して高望みしなくてよくなった。負け惜しみじゃなくて、なんか、ホッとしたんです」

--さて、今季はこのあと、レギュラーツアーが主戦場になりますが、シーズン前とは目標も変わってくるのではないでしょうか。

「(レギュラーツアーの第1回)リランキングをクリアして、レギュラーツアーの試合に出られるのはいいのですが、正直、賞金ランキングで来季のシード権(50位以内)を獲得するまでには、まだまだ足りないわけじゃないですか。ステップ・アップ・ツアーで1位になれば、来季の(リランキングまでの)レギュラーツアーに参戦できるので、今シーズンは当初、そこを目指していたこともあって、自分の中ではすごく中途半端な位置にいる感じがします。

 まあでも、レギュラーツアーの試合に出られるので、目指すは2回目のリランキングを通ることかな、と。ただ、そこを目指してやっていても、最終的に賞金ランキングのシード権を得られるかわからないので、ここからは優勝とか、予選通過とか、そういう成績的なことよりも、『納得できる球を打つ』ということを目標にしていこうと思っています」

--まずは、結果よりも、内容を重視するということでしょうか。

「QTに向けて、ミスをしてもいいから、自信を持って、自分の決めた球を打てるようになりたいんです。ミスをしたあとに、考え込む一球ではなくて、何でミスをしたのかわかるようにしたいです。18ホール、すべて納得のいく球を打つなんて無理だと思うんですけど、ティーショットでフェアウエーのど真ん中でなくても、セカンドが打てるところにあればOKみたいな、そういう感覚をあと半年くらいで養っていければいいかなって思っています。

 もちろん、そのなかでレギュラーツアーの試合で勝てたり、最終的にシード権を得られたりしたらいいんですけど、私自身、今年の最後の試合はQTになると思っているので、そこを目指して、一個、一個、積み上げていけたらいいなと思っています」

(つづく)
藤田光里(ふじた・ひかり)
1994年9月26日生まれ。北海道出身。2013年、プロテストに合格。同年のQTで1位となり、翌2014年シーズンからツアーフル参戦を果たす。そして、

「大物新人」と称された評判どおりの活躍を見せて、ツアー1年目ながら見事にシード権を獲得した。さらに、翌2015年シーズンにはツアー初勝利を飾り、賞金ランキング18位という好成績を残した。しかし2016年シーズン以降、左ヒジを痛めて低迷。2017年シーズンにはシード権を失うことになった。それでも、そのオフに左ヒジを手術。そこから順調な回復を見せて、2019年シーズン、レギュラーツアーで好成績を残し、ステップ・アップ・ツアーでも優勝するなどして、復調ムードにある。