文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

決定打となるフローター「自分の目の前が空いていた」

82-81と1点リードの場面。日本のディフェンスはアウトサイドでタフショットを打たせ、八村塁がリバウンドを拾って貴重なポゼッションを得る。ボールを運ぶ篠山竜青を、最初はニック・ファジーカスが、続いて八村塁が引いてサポートする姿勢を見せ、渡邊雄太は右、馬場雄大は左のコーナーへとポジションを取る。

篠山にマッチアップするデニス・シュルーダーが、下がってきた八村の得点力を警戒するのは当然のことだ。次の瞬間、篠山は一気に加速してシュルーダーを振り切る。八村のマークマンだったダニエル・タイスが反応するも間に合わない。篠山の左手からフワリと放たれたフローターショットはリング中央を射抜いた。ドイツ撃破を大きく引き寄せるゲームウィナーの一発だ。

篠山はそこまで21分間プレーしていたが、シュート試投数はゼロ。フリースローによる1得点しか挙げておらず、ドイツ守備陣の気が回らなかったのも無理はない。それでも篠山自身は狙っていた。「チームでセットプレーをコールしたんですが、相手のディナイが厳しくてパスコースがなかった。そのため、自分の目の前が空いていた」とその瞬間を振り返る。

「ああいう勝負どころでアタックする気持ちを忘れずに、コントロールしながら得点を取るのが目指しているポイントガード。得点を量産するわけじゃないけいど、勝負どころで決められて良かった」

粘った末の逆転勝利「みんな高い意識で最後まで戦えた」

アジア予選を通じて、ポイントガードとしては富樫勇樹に続く2番手の立場。その富樫がケガでワールドカップに出られなくなり、篠山がそのまま1番手に昇格するかと思いきや、田中大貴がコンバートされ、安藤誓哉とベンドラメ礼生を含めた競争に置かれた。篠山からすれば、ここまでチームを引っ張ってきた意地がある。今回の強化合宿が始まった際、「そこは俺だろう」という気持ちがないのかを尋ねると、「それはコートで出せばいいことなので胸に秘めておきます」と篠山は答えている。

常に前向きなエンターテイナーの面もあるが、篠山は慎重な性格で、だからこそ成功のための手立てを抜かりなく整えようとする。志を高く保ち、愚直に努力を積み重ねてきたからこそ決まった勝負どころでのフローター。同じ川崎ブレイブサンダースで篠山の努力を日々見ているニック・ファジーカスは、満面に笑みをたたえて篠山に歩み寄った。

ビッグショットを決めたのはもちろん、ゲームコントロールの面でも篠山は評価を勝ち取りつつある。この試合では田中がディフェンス面で大きな働きを見せ、ビハインドを背負いながら粘る展開を作り出していたが、最後の勝負どころを託されたのは篠山であり、そこで篠山が結果を出した。

ニュージーランドとの2試合、アルゼンチン戦はいずれも、パスが回ってリバウンドから走る展開になる時には、篠山がゲームをコントロールしている。スタッツに表れるものではないが、仲間の持ち味をそれぞれ引き出し、チームとしての力にする仕事を篠山はこなしている。

「アルゼンチン戦はイージーなミスが多かった。一つの意識とか簡単に修正できる部分が多かったです。今日はみんな高い意識で最後まで戦えた。それが離されても戦えた部分」と篠山は試合を振り返る。プレーが途切れるたびに、篠山は声を掛け、手を叩いて仲間を鼓舞して、チームとしての高い意識を保った。強化試合を重ねるごとに、本職のポイントガードとして篠山の評価は不動のものとなりつつある。