カワイ・レナード(SF)の顔に笑顔が広がった。 7月なかば、ロサンゼルスのコミュニティセンターで行なわれた、レナードとポール・ジョージ(SF)のお披露目会見でのこと。オーナーのスティーブ・バルマーが、マイクが必要ないぐらいの大きな声で…

 カワイ・レナード(SF)の顔に笑顔が広がった。

 7月なかば、ロサンゼルスのコミュニティセンターで行なわれた、レナードとポール・ジョージ(SF)のお披露目会見でのこと。オーナーのスティーブ・バルマーが、マイクが必要ないぐらいの大きな声で、「これはすごくクールだ。クールじゃないか! ワーオ!」と叫んだ時だ。バルマーのテンションの高さに、ふだん感情を表に出さないことで有名なレナードも、思わず笑みをこぼした。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。



クリッパーズにカワイ・レナードとポール・ジョージが電撃加入

 バルマーが「クール」と表したのは、今夏の目玉フリーエージェント選手のレナードと契約し、トレードでポール・ジョージも獲得したことを指している。ふたりのスーパースター選手が加わったクリッパーズは、一気に来季の優勝候補に躍り出た。

 トロント・ラプターズを優勝に導いてキャリア2度目のNBAファイナルMVPを受賞したレナードも、昨季途中で肩を故障するまでシーズンMVP候補に挙げられる活躍をしていたジョージも、攻守の両面でリーグトップの実力者だ。また、ロサンゼルス近郊出身の地元スターでもある。

 実は以前から、ふたりは故郷ロサンゼルスに戻りたがっていると噂されていた。だがその大半は、クリッパーズではなく、レイカーズに移籍するという噂だった。

 それも当然だろう。ロサンゼルスでは、数年前まで低迷していたクリッパーズの影は薄く、16回のNBA優勝を果たした名門レイカーズのほうが花形チームである。過去にレイカーズを蹴って、クリッパーズと契約したスーパースターはいなかった。つまりそれだけでも、今回のお披露目はクリッパーズにとって歴史的な日なのだ。

 クリッパーズは今、新しく生まれ変わろうとしている。2014年にバルマーがオーナーになってから少しずつ変化していったが、この2年ほどで本格的にバルマー色が出始めた。昨季からコーチ陣の体制を組み換え、フロントに多くの人材を投入し、メディカル系のスタッフも増強した。

 前オーナーのドナルド・スターリングがケチで有名だったのとは対照的に、マイクロソフトCEOとして財を成したバルマーは必要な箇所にどんどん投資していく。チームの組織だけではない。ホームアリーナも、現在レイカーズと共有で使っているステープルズセンターを離れ、5年後をめどにロサンゼルス近郊のイングルウッドに建築予定の専用アリーナに移転することを発表している。

 すべては、選手が契約したくなるような環境づくりだ。そしてその成果が、レナードのFA契約であり、トレードでのジョージ獲得だった。

 クリッパーズを選んだ理由を、レナードは次のように語った。

「ドク(・リバース)がヘッドコーチということも大事だった。優勝経験のあるコーチのもとでやりたかった。また、フロントオフィスの人たちも、勝ちたい(優勝したい)と思っている。(クリッパーズは)まだ一度も、ファイナルで勝ったことも、ファイナルに行ったこともない。チームを選ぶにあたって、そのことがとてもワクワクした。自分たちの歴史を作る機会だ」

 クリッパーズがレイカーズの影に隠れていることについて聞かれると、レナードは言った。

「長い間、何度も優勝してきたロサンゼルス・レイカーズだから、彼らには注目が集まる。でもこの数年は、クリッパーズのほうが成績はいい。僕らが優勝したとしても、どれだけ露出が変わっていくのかはわからない。でも、僕はとにかく勝ちたい。もし優勝して、メディアの露出がまったくなかったとしても、僕はそれで満足だ」

 ジョージも言う。

「レイカーズはレイカーズ。僕らは自分たちのアイデンティティがあるし、別のものを追いかけている。LA対決ではなく、もっと大きな目標を成し遂げたいと思っている」

 ジョージは「LA対決ではない」と言うが、ロサンゼルスにいる限り、クリッパーズにとってレイカーズとの比較は避けられない。

 記者会見が終わると、舞台上で記念撮影の準備が始まり、レナードとジョージがそれぞれクリッパーズの新ユニフォームを持ち、オーナーのスティーブ・バルマー、GMのローレンス・フランク、ヘッドコーチのドク・リバースとともに並んだ。

 その時、フォトグラファーから何やら声がかかった。並ぶ順番が違う、という。その意図に気づいたリバースが、レナードとジョージの立ち位置を入れ替えた。

 並んだユニフォームの背番号を見て、その意図がわかった。

 向かって左側のレナードが持っていたユニフォームは背番号「2」、その右隣にいたジョージの背番号は「13」。ふたりが並ぶと、ロサンゼルスの市外局番「213」になるのだ。まるで、「ロサンゼルスは自分たちのものだ」と宣言しているかのようだった。これまでロサンゼルスの人気を牛耳ってきたレイカーズへの宣戦布告である。

 もっともレイカーズも、今夏にトレードで獲得したアンソニー・デイビス(PF)の新背番号と、昨夏にFA契約したレブロン・ジェームズ(SF)の背番号を並べると「323」となり、これもロサンゼルスで使われている市外局番だ。偶然とはいえ、まるで、ここでも街の覇権争いをしているかのようだ。

 両チームは現地時間10月22日に行なわれる開幕戦で激突。その後は注目の集めるクリスマスゲームなど、レギュラーシーズン中に4度の対戦が予定されている。果たして、戦力が揃ったクリッパーズは、実力でレイカーズを制するだけでなく、ロサンゼルスでのレイカーズ人気を奪うことができるだろうか。コート内外で熱い戦いが待っている。