シアトル・マリナーズに所属する岩隈久志は現役選手としては初となるスポーツアカデミー「IWA ACADEMYを開校した。JR四ツ谷駅から徒歩10分も掛からない距離にあり、閑静な街に立ち並ぶアカデミーでオーナーを務める内田康貴氏とアカデミーのチ…

シアトル・マリナーズに所属する岩隈久志は現役選手としては初となるスポーツアカデミー「IWA ACADEMYを開校した。JR四ツ谷駅から徒歩10分も掛からない距離にあり、閑静な街に立ち並ぶアカデミーでオーナーを務める内田康貴氏とアカデミーのチーフディレクター木村匡宏氏に話を伺った。施設の見学もさせていただき、実際にトレーニング器具を使い、治療も受けさせて頂いた。

IWAアカデミーのチーフディレクターを務めるプラクティスサポーター&メンタルコーチの木村氏は実際に岩隈投手のピッチングメカ二クスを担当している。木村氏だけではなく、リカバリー・フィールドディレクターの渡邊健二氏をはじめ、岩隈久志が実際に選んでいるスペシャリストたちが常駐しているのはIWA ACADEMYが提供する魅力の一つだ。

「スポーツを科学的に上手くする」という考えは木村氏も自身の経験から得たものでもある。高校時代は県大会にも出場したことがなかった福島高校で汗を流していた高校球児だった。そこに江川卓とバッテリーを組んでいた亀岡偉民が指導に来てくれ、チームが上達したことがきっかけでもある。

オーナーを務める内田氏もプロ野球選手を目指す球児だった。大学時代には選手としての道を諦め、マネージャー職に専念することとなった。その経験が活きて、今は岩隈久志を始め、数多くのプロ野球選手をマネージメントする仕事についている。多くの一流と呼ばれるプロ野球選手と関わっていく日々の中で何が彼らを一流にさせたのかと考えることも多かったという。

プロ野球選手という夢に届かなかった者は、一度は自分に何が足りなかったのかと問いただすことがあるだろう。プロになれた者となれなかった者、その違いには、ポテンシャルであったり、運であったりさまざまな要素が考えられるが、その中でも大きいのは本物の指導者と出会えたかどうかだろう。

プロ野球選手の夢を断念した者たちが求めていた本物の指導を子供たちが受けられる施設。さらにはメジャーリーグで活躍する選手が実際に受けている指導や治療を誰もが体験出来る場を生み出すことがIWA ACADEMY創設のきっかけだ。

 

現役アスリートがアカデミーを創設するのは、非常に珍しいケースだ。だがこれは日頃から社会貢献活動に積極的な岩隈久志であったからこそ実現したのではないだろうか。岩隈久志は農業生産法人越後ファーム株式会社と協力し、子供の食の貧困を解決する「アス食プロジェクト」の発起人でもある。さらには東北楽天ゴールデンイーグルス時代からボランティア団体ハビタットフレンズ仙台への寄付を通じて、スマトラ島沖大地震で被災したタイ国の小学校に図書館「Peaceful World 21」の建設などさまざまな支援プロジェクトに関わってきた。

アスリートには必ず引退後の「セカンドキャリア」を考える時が訪れる。スポーツ総合施設を創設することでプロ野球選手として培ってきた野球、栄養、トレーニングの知識を後世に伝えていく格好の場となる。

岩隈久志なりの社会への恩返しとなる。人を集めるために名前を貸すだけではなく、選手も経営に関わり、 野球界だけでなく、スポーツ界全体へ責任を持った取り組みだ。

IWA ACADEMYのような箱を作ることも形を変えれば、社会貢献の一種である。目的や目標を持てない子供達が増えているのは社会にとって一つの問題とも言える。

幼少期に一生懸命何かに取り組んだ者には「なにくそ精神」や諦めない心というのが生まれるものだ。スポーツを経験した者なら共感できるだろう。こういう施設を作ることで何かに一生懸命取り組める環境を今の子供達に作っていくことも立派な社会貢献だ。

IWA ACADEMYでは、スポーツをただ指導するだけではなく人間教育をする目的もある。一方的に子供達に教えるのではなく、意見を交換する「コーチング」を重視して指導に取り組んでいる。

人間教育の中でも世界で戦っていくために必須なのが、「言葉」だ。ここでは一般的にスポーツジムで見られるトレーニングルームやウェイトルームはもちろん、子供が教育を受けられる学習ルームまで設けられている。

英語をスポーツ総合施設で教えることで本当の意味での文武両道を目指し、世界で活躍するアスリートを排出することを目標とする。

岩隈自身もメジャーリーグへ移籍し、異国の地でプレーするからこそ芽生えたのが、英語の必要性だ。メジャーリーグでは2013年シーズン前にルール改正があり、選手が言語で困らないように通訳がマウンドへ行くことが可能となった。そのためグラウンド上での語学力の必要性は少なくなってしまったかもしれない。だが他競技では通訳が常に側にいる環境ではなく、言語を話せることによって球場外でもっとアクティブに行動範囲を広げることが可能になるのは間違いない。

英語教育への取り組みとして、「DMM英会話」 と共に事業をしていくこととなった。選手が企業のCMに出演し、ブランドイメージを構築していくことは良くあるビジネスの例だ。だがあえて“一般的な”パートナーシップではなく、アカデミー事業を一緒にやるという形になった。

 

今後は体を動かしてゲーム感覚で英語を学んでいくプログラムも検討している。海外で生活をしていく基礎知識を学び、外国語に対する抵抗感を無くすことも目的としている。

英語堪能なトレーナー田辺大吾氏を中心に英語だけを使ったトレーニングクラスというのも今後展開予定だ。IWA ACADEMYの施設特有な英会話レッスンも今後は目玉となっていくだろう。

英語を学ぶだけではなく、言語は実践で活かしてこそ、子供は必要性を理解する。そのためにIWAアカデミーは今後のビジョンとして海外にも受け皿を作り、子供達が異国に触れ、国際交流を自ら体験する場を広げていくことを考えている。

お二人に話を伺ったあと、実際にIWA ACADEMYが誇る各トレーニング・フィールドを体験させてもらった。地下1階のトレーニング・フィールドでは、キャッチボールを。そして子供達が自分の本当の課題に気が付くプラクティスカードを使用した独自のコーチング法を見させてもらった。

そして4階にあがるとストレングス・フィールドでは実際にアスリートたちが使うトレーニング器具を使わせてもらった。

そして最後は治療などを受けることができる4.5階に設けられたリカバリー・フィールドで渡邊トレーナーに体のバランスを見てもらった。

リカバリー・フィールドでは自らの体のバランスについて厳しい”ご指摘”を受けることとなったが、IWA ACADEMYはまさしく子供を通わせたい要素が詰まった施設である。そして大人も体のメンテナンスもおこなえ、新たな目標を描ける場だ。

子供だけでなく、親も夢を描ける場所。野球選手を目指して夢敗れた後に、違う夢を描いても良い。IWA ACADEMYは老若男女全ての年代を対象にそれぞれが何度も夢を描くことが許された場所である。

 

文:新川 諒