今季J2でJ1昇格争いの中心となるのは、柏レイソルと大宮アルディージャ。それが、今季開幕前の一般的な予想だった。事実、浮き沈みはあったものの、第27節終了現在(以下、成績はすべて同じ)、柏は首位、大宮は3位につけている。 しかしながら…

 今季J2でJ1昇格争いの中心となるのは、柏レイソルと大宮アルディージャ。それが、今季開幕前の一般的な予想だった。事実、浮き沈みはあったものの、第27節終了現在(以下、成績はすべて同じ)、柏は首位、大宮は3位につけている。

 しかしながら、全42節のうち27節までを終えた今季J2全体を振り返れば、ここまで”主役”を務めてきたのは、間違いなく水戸ホーリーホックだ。

 水戸は今季開幕戦からの3連勝でスタートダッシュに成功にすると、実に第12節まで無敗(7勝5分け)を継続。一時は首位に立つなど、J1参入プレーオフ進出圏内(3~6位)から一度もこぼれることなく、昇格争いを続けている。

 現在の順位は、自動昇格圏内となる2位の京都サンガ(勝ち点51)と勝ち点差6の6位(勝ち点45)。近年はふた桁順位が指定席だったことを考えれば、その躍進ぶりはサプライズと評して構わないだろう。

 とはいえ、徐々に序盤戦の勢いが失われてきているのは間違いない。今季初黒星を喫した第13節以降の成績は、4勝4敗7分け。負け越してはいないものの、勝ち切れない試合が目立っている。

 加えて、第19節を最後に、それまでリーグ最少失点の堅守を支えてきたDF伊藤槙人が、横浜F・マリノスへ電撃移籍。ディフェンスの柱を失ったことも、先行き不安の材料となっている。

 この先、J1昇格争いに踏みとどまれるか否か。水戸は現在、分水嶺に差し掛かっていると言ってもいい。

 そんな水戸にあって、救世主的存在となりつつあるのが、FW小川航基である。



水戸ホーリーホックで奮闘している小川航基

 22歳の小川は、U-20日本代表のエースストライカーとして、2年前のU-20ワールドカップに出場。東京五輪世代の主軸として期待されていたが、ケガも重なり、所属のジュビロ磐田では思うような出場機会を得られずにいた。

 そこで今夏、シーズン途中にして水戸への期限付き移籍を決断すると、”デビュー戦”となった第23節のFC琉球戦を皮切りに、いきなり3戦連続ゴール。加入から1カ月足らずで、頼れる得点源となっている。

 堅守を最大の武器に、少ないチャンスを確実に生かすことで勝ち点を積み重ねてきたチームだけに、FWにとっては適応が簡単ではないだろうが、小川自身は「やること、求められることはすごく多いが、多くを求められることで、自分も成長する」と、意気盛んだ。

 第23節での途中出場のあと、第24節からは4戦連続先発出場。J1昇格を争うチームの貴重な即戦力となっているが、それでも本人は「試合に出ることでしかわからないことを今、経験している」と言いつつ、そこに「充実感はまったくなく、危機感しかない」と言い切り、こう続ける。

「90分の試合の(週末の試合の間に水曜日の試合が挟まる)3連戦は初めてだったし、そこでのコンディションの整え方だとかは体験しないとわからない。試合に出ているということでは充実しているのかもしれないが、危機感が強い」

 このところ、日本では海外移籍の低年齢化が進み、東京五輪世代の選手たちも次々に海を渡っている。そんななか、自分はカテゴリーを落とし、J2に新たな戦いの舞台を求めたのだから、危機感が強いのも当然だろう。小川は「水戸でレギュラーを取ったとは思っていないし、ここでもポジション争いはある。得点を重ねないと、ここで試合に出るのも難しいし、オリンピック代表(に選ばれるの)も難しい」と自覚する。

 だからこそ、22歳の点取り屋は、チームで求められるさまざまな役割を理解しながらも、「一番大事なのは得点だ、ということを忘れてはいけない」と口にする。今、頭の中にあるのは、「自分が中心になってやって、得点を取って、(水戸を)上(J1)に上げる」ことだけだ。

 直近の第27節、横浜FC戦で何度もマッチアップを繰り広げた元日本代表のDF伊野波雅彦は、「(水戸に)入ったばかりで難しいところがあるのだろう」と気にかけつつ、小川のプレーについてこう語る。

「(DFとMFの)間に下りたりしてボールを引き出すかなと思ったが、動きも少なかったし、そのタイミングでボールも入ってこなかった。1対1になったときには、もっと仕掛けてもいい。もっとやれると思う」

 厳しい言葉を口にする伊野波だが、しかし、若手がJ2で研鑽を積むことの重要性を感じているひとりでもある。

「J1の外国人選手枠が広がったことで、経験豊富な選手がJ2に来るようになった。その分、J2のレベルは技術的にも戦術的にも上がっている。(小川のような)若い選手にとって、J2の場は重要だと思う」

 小川自身は、ここまで出場5試合で3得点と上々の結果を残しているが、その間のチーム成績は1勝1敗3分け。「僕が入ってあまり勝ててない」のは事実だ。

 だが、水戸の長谷部茂利監督が、「開幕から(12試合)負けなしでこられたのは、今日(横浜FC戦)のような粘り強い守備で失点が少なかったから。(最近は失点が多かったが)今日はもう一回、それを再現できた」と語っているように、チーム状態は上向き始めている。

 スタートダッシュの原動力となった堅守に、小川が得点力を加えることができれば、J1昇格争いを引っ張ってきた水戸が、再び勢いを加速させる可能性は十分にある。

 東京五輪世代のエースストライカーと期待された男の成長が、水戸の再加速のカギを握っている。