2019年シーズンのF1は、ここまでのリザルトを一見したところだと、メルセデスが圧倒的に優位にあるように見える。だが、実際のところははるかに複雑な様相を呈しているのだ。ハンガリーGPを終えてサマーブレイクに入っているこのタイミングで、…

 2019年シーズンのF1は、ここまでのリザルトを一見したところだと、メルセデスが圧倒的に優位にあるように見える。だが、実際のところははるかに複雑な様相を呈しているのだ。ハンガリーGPを終えてサマーブレイクに入っているこのタイミングで、シーズン前半戦を振り返ってみよう。結果が示す以上に、緊密な争いが繰り広げられていることがわかるはずだ。

 メルセデスは、ここまで10勝を挙げている。昨年王者のルイス・ハミルトンが8勝、フィンランド人のチームメイト、バルテリ・ボッタスが2勝、という内訳だ。



ハンガリーGPはメルセデスが優勝。2位にレッドブル・ホンダ、3位はフェラーリだった

 F1に復帰してからずっと苦戦続きだったホンダは、ここに来てようやく活路を見いだした。今では、屈指の戦闘力を誇る陣営だ。マックス・フェルスタッペンがパワーユニットの性能を存分に発揮し、レッドブル・ホンダは2勝を挙げた。同じくホンダ製パワーユニットを使用するジュニアチームのトロロッソ・ホンダも、ドイツGPでは力強い走りを披露してチーム二度目となる今季初表彰台の3位を獲得。続くハンガリーでもポイントを獲得し、コンストラクターズランキング5位で前半戦を終えている。

 ホンダの躍進とともに、もうひとつ、今シーズンのF1を面白くしている要素が、若い才能の活躍だ。トロロッソからレッドブル・ホンダへの昇格が決まった、アレックス・アルボンが強烈な印象を与えた。イギリス生まれでタイ国籍のこのドライバーは、プレシーズンテストまでF1マシンを操縦したことがなかったが、いまでは将来のチャンピオン候補とも目されている。また、トロロッソのダニール・クビアトは、2017シーズンの途中でシートを喪失したが、復帰を果たした今年はしっかりと存在感を発揮している。

 彼らは、日本のスーパーフォーミュラーに参戦していたことでも知られるピエール・ガスリーにかなりのプレッシャーを与えた。実際、レッドブルに昇格後、伸び悩んでいるガスリーは、チームメイトのフェルスタッペンに大きな差を付けられ、アルボンにシートを奪われてトロロッソへ降格してしまった。

 若い才能の出現に大きなプレッシャーを受けているもうひとりの選手が、4回の世界タイトルを獲得したセバスチャン・ベッテルだ。ベッテルは今季、何度も不要なミスを犯している。なかでも記憶に鮮明なのは、フェルスタッペンに突っ込んだシルバーストン(イギリスGP)だ。彼にプレッシャーを与えているのは、超名門フェラーリに今年から加入して大いに才能を発揮しているモナコ人ドライバーのチームメイト、シャルル・ルクレールの存在。

 ルクレールを得た今シーズンのフェラーリは、メルセデスと激しいタイトル争いを繰り広げていてもおかしくなかった。だが、ミスの連続がイタリアの名門に大きな痛手を与えてしまった。バーレーンでは、ほぼ手中に収めたはずの優勝をエンジントラブルで逃した。オーストラリアやモナコ、オーストリアでは戦略ミスが原因で勝利を逃し、ルクレール自身も自らのミスでバクー(アゼルバイジャンGP)、ホッケンハイム(ドイツGP)、ハンガロリンク(ハンガリーGP)でクラッシュしている。だが、現在21歳のルクレールは、F1でまだ2年目だ。ある程度のミスは許容範囲といえるかもしれない。マシントラブルには、ベッテルも何度か泣かされている。

 ここで重要なのは、フェラーリはもっと優勝数が多くてもおかしくなかったはずなのに、高い温度条件で苦戦するメルセデスの弱点を突いたのは彼らではなく、レッドブルだった、ということだ。ちなみにドイツGPではメルセデスの両選手ともウェット路面でミスを犯し、ボッタスはクラッシュしてリタイア、ハミルトンも散々な内容でかろうじて9位で終えている。

 一方、2019年シーズンで今のところ最も手に汗握る戦いが繰り広げられているのは、マクラーレン、ルノー、トロロッソ、レーシングポイント、ハース、アルファロメオがレベルの接近した争いを演じている中段グループだ。

 今年のマクラーレンはここ数年でもっともいい仕上がりだが、ルノーのパワーユニットがやや厳しいようにも見える。そのルノーは、ファクトリーチームが何百万ユーロもの資金を投下したにもかかわらず、狙いどおりの性能アップを果たせないでいる。フェラーリのパワーユニットを使用するハースとアルファロメオは、シャシーに関してはともにまずまずと言えるだろう。

 だが、ハースは空力パーツのアップデートが期待どおりの性能につながらず、その後のマシン開発が迷走。仕様が定まらないために結果がついてこない。アルファロメオの場合は、独特のマシンコンセプトがそのリザルトに反映される格好で、とくにキミ・ライコネンにそれが顕著にあらわれている。

 レーシングポイント(前フォースインディア)は順調にシーズンを走り出したものの、いつのまにか見えなくなってしまった。2018年仕様にわずかに手を加えた程度のマシンなのだから、今後はますます取り残される一方だろう。

 さらに悲惨なのが毎戦毎セッション最後尾につけているウィリアムズだ。かつての名門の実績も過去の栄光でしかなく、戦闘力が高いメルセデスのパワーユニットをもってしても、ラップタイムあたり2~3秒遅れがもはや常態化している始末である。

 サマーブレイクを経て、シーズン後半戦は9月1日のベルギーGPから再開する。すでにここ数戦のレースにその「兆候」が見られるように、後半戦の展開は前半のそれとは、いささか異なったものになりそうだ。

 まず注目したいのは、シーズン屈指の高速コース、スパ・フランコルシャン(ベルギーGP)とモンツァ(イタリアGP)の2戦でフェラーリがどんな戦いを見せるのかだ。最高速ではメルセデスやレッドブルを上回るフェラーリが、その優位を勝利に結びつけることができれば、シーズン前半の悪い流れを変えるきっかけになるかもしれない。

 また、レッドブル・ホンダのフェルスタッペンは、今や安定したトップコンテンダーとしての戦いを見せており、後半戦もその活躍が期待される。とくにマシンとの相性が良さそうなシンガポール、ソチ(ロシアGP)、アブダビなどではかなりの強さを発揮するだろう。

 もちろん、ドライバーズ、コンストラクターズ両タイトルで、ハミルトンとメルセデスが圧倒的な優位にあることに変わりはない。だが、彼らが圧倒的な強さを見せた「前半戦」とは異なり、ライバルたちの反撃にあうシーンも増えるだろう。シーズン後半に待ち構えるメルセデスのダブルタイトル獲得への道は、多くの人たちが想像しているほど、楽なものではないかもしれない……。

(西村章●翻訳 translation by Nishimura Akira)