ジャパンの勝負強さは本物だった――。開幕まであと1カ月あまりとなったワールドカップに向けて、ラグビー日本代表はパシフィック・ネーションズカップ(PNC)で5年ぶりの優勝を飾った。 現地8月10日にフィジーで行なわれたPNC最終戦で、世…

 ジャパンの勝負強さは本物だった――。開幕まであと1カ月あまりとなったワールドカップに向けて、ラグビー日本代表はパシフィック・ネーションズカップ(PNC)で5年ぶりの優勝を飾った。

 現地8月10日にフィジーで行なわれたPNC最終戦で、世界ランキング11位の日本代表はほぼ同じランキングのアメリカ代表(13位)と激突。ともに連勝して迎えた3戦目で、勝利したほうが優勝となる最終決戦だった。



快速を飛ばしてアメリカ代表からトライを奪った福岡堅樹

「ブレイブ・ブロッサムズ(勇敢な桜の戦士たち)」こと日本代表は、序盤からリードを奪う展開に持ち込んで前半を20−13で折り返し。相手に押し込まれる時間帯もあったが、フィジー代表戦とトンガ代表に連勝した勢いそのままに、アメリカ代表も34−20で下して3連勝を達成した。

 アメリカ代表は昨年、日本代表がワールドカップで対戦するスコットランドを破っている。近年はFW、BKともに力をつけ、フィジカルな選手が揃うチームだ。キャプテンFL(フランカー)リーチ マイケルは「アメリカ代表は(勢いに)乗ると強い。力強いスタート、力強いフィニッシュ」をテーマに掲げて試合に臨んだ。

 そのキャプテンの言葉どおり、日本代表は前半3分、敵陣5メートルのマイボールラインアウトからキャプテン自身がモールを押し込み、先制のトライを挙げる。これで試合の主導権を掴むと、さらには11分、今度は韋駄天WTB(ウィング)福岡堅樹もトライを挙げ、序盤で17−0と大きくリードすることに成功した。

 ただ、前半15分以降は、急に自分たちのリズムに乗ることができなくなった。リードした気の緩みからか、連戦や移動の疲れからか、もしくは先発を7人替えて臨んだ影響もあったのかもしれない。スクラムでのペナルティ、オフサイドの反則、ノックオンといったミスが続いた。

 その結果、試合の流れはアメリカ代表にグッと傾く。1トライ(1ゴール)と2本のPG(ペナルティゴール)を決められて7点差となり、嫌な流れのまま前半終了となる。後半、アメリカ代表に先にトライを獲られると試合をひっくり返されるかもしれない、という状況に陥ってしまった。

 それでも、「レジリエンス(不屈の精神と解釈)」をテーマに掲げ、6月から7月にかけて33日間の宮崎合宿を乗り越えた選手たちに動揺はなかった。ハーフタイムで話し合った時、「接点での規律(ディシプリン)が問題」ということは、選手みんながわかっていたという。

 その問題を意識して後半に臨むと、開始早々、相手からボールを奪い返した日本代表はSO(スタンドオフ)田村優のすばらしいタッチキックからチャンスを掴む。そして後半2分、この試合がPNC初出場でワールドカップに向けてアピールしなければいけない立場のFB(フルバック)山中亮平が、「1週間練習してきた形」で田村からのショートパスから内に切れ込み、インゴールに飛び込んだ。

 さらには後半15分、相手のキックカウンターから福岡と山中が大きくゲインすると、山中→SH(スクラムハーフ)流大→HO(フッカー)堀江翔太→リーチとオフロードパス(タックルを受けながらのパス)をつなぎ、最後はリーチがこの試合2本目となるトライ。「コースだったり、ボールの持ち方だったり、春からやってきたオフロードパスの練習の成果が出た」(リーチ)。

 その後、メンバーを大きく変えたことで追加点を挙げることはできなかったものの、ディフェンスで粘りを見せて34―20でノーサイドを迎えた。

 ワールドカップの前哨戦という位置づけとなった今年のPNCで、日本代表は3試合すべて4トライ以上をあげてボーナスポイントを獲得。3試合で失トライは計6つと、文句なしの全勝優勝だった。

「選手の努力に満足している。アメリカ代表もワールドカップの準備に入っているので、思い切り攻めてくることはわかっていた。だが(相手の)プレッシャーのなかでもこのような結果を残せて、本当に誇らしく思う。ワールドカップに向けて、いい予行演習になった」

 1週間前に母を亡くし、ニュージーランドで行なわれた葬儀を終えて前日にフィジー入りしたジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は、PNCの結果に満足した様子だった。

 チームを引っ張る堀江やリーチも、このPNCでチームの成長を実感していた。「全部勝って(の優勝)は、日本代表にはなかった。今までの日本代表なら、アメリカ代表戦も負けていたんじゃないですか。自分たちが考えていないほど力がついてきた」(堀江)。「日本代表はかなり強くなってきている。とくにフィジカルエリアで負けていないのは評価できる」(リーチ)

 しかし、接点での反則の多さや、新ルールとなったスクラムでのペナルティ(※)など、今後の課題も明白になった。

※ワールドラグビーの正式発表によると、スクラムを組む際、レフェリーの「セット」のコール(合図)前に、FW第1列の選手は頭を相手選手の首や肩に触れてはいけない決まりになった。

「ディシプリン(規律)が少し乱れてしまう部分もあったので、それらの軌道修正は必要。アメリカ代表は、(ワールドカップで対戦する)ロシア代表やアイルランド代表とタイプが似ているので、今日みたいな試合をすると負ける。もう一回、ディシプリンを見直したい」(リーチ)

 振り返れば、2011年のPNCではトンガ代表とフィジー代表に勝利し、日本代表は初優勝を飾った。ところが、その年に行なわれたワールドカップ本番ではトンガ代表にフィジカル勝負の末に敗れ、苦い思いを経験した過去がある。

 当時を知るリーチは、それを踏まえてこう語る。

「今はいい流れになっているけど、ヘンな自信はつけないほうがいい。2011年の二の舞になる可能性がある」

 同じく2011年を経験している堀江も、気持ちを引き締めて冷静に先を見据えていた。

「ワールドカップに入ると相手がガラッと変わることは、僕らは知っている。だからPNC優勝で安心せず、さらにうまくなっていきたい。ここが僕たちの限界じゃない。まだまだ成長する余地はあると思います」

 2月から合宿を重ねてきた成果が、今回のPNCでしっかり形となった。ふたりのベテランの言葉を聞くかぎり、今回の優勝が過信、慢心にはつながらないはずだ。

 いずれにせよ、目標に掲げる「ワールドカップ初のベスト8」に向けて、日本代表がさらに歩を進めたことは間違いない。