文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦 取材協力=UNDER ARMOUR

今年2月、ワールドカップ予選に向けた日本代表合宿に招集された安藤周人は「気が重いです」と渋い表情を見せた。「うまい選手と一緒にやれるのはシンプルに楽しいし、すごく勉強になりますが、気も使うしめちゃくちゃ疲れます」と素直に愚痴る。いつでもどこでも自然体の安藤らしいリアクションだが、その彼は今、ワールドカップ本大会に向けた16名の候補選手の一人として強化合宿に参加するに至った。もちろん、日本代表に選ばれるのは光栄なこと。それでも今もなお「なんか変な感じだなあって」と笑う安藤に、その胸中を聞いた。

「一つひとつがすべて発見で、成長に繋がります」

──かつては代表に招集されて「気が重い」と本音をのぞかせていた周人選手ですが、ここまで残って嫌だということはないですよね?

そうですね。でも今でも「まさか自分が」とは思っています。まだ決まったわけじゃないですけど、「ホントにワールドカップに出ちゃうかも?」と。なんか変な感じだなあって(笑)。以前と比べて心境が変化しているということもなく、毎日胃が痛いですよ。ストレスです(笑)。

──ちなみにドルフィンズでプレーしている時は、別にストレスを感じることはないですか?

全然感じないです。自分のチームだと自然体でプレーできます。やっぱり日本を代表する選手が集まる中でレベルが高いので、ついていくので精一杯です。少しでも気を抜いちゃうとやられちゃうし。特に僕がマッチアップするのは比江島(慎)さんとか(田中)大貴さんとか、本当に日本をここまで引っ張ってきた2人なんですよ。毎日の練習が心身ともに本当に疲れます。

でも、嫌じゃないというのは、そのプレーをずっと間近で見られるのは今だけですから、ずっと目線で追いかけています。「ああいうプレーをするんだ」、「この時はああするんだ」という一つひとつがすべて発見で、自分の成長に繋がります。その部分については本当に良い舞台に来たと思っています。

──以前には「僕なんかが代表に入っていいんですかね」という言葉もありました。でも今は、自分の実力が日本代表に見合っていないとは思わないですよね?

どうですかね。実際、あの時に言った言葉は今でもあまり変わってないと感じます。まだまだやれる部分はあって、「まだ満足しちゃいけないぞ」という意味で言ったつもりなので。代表に入っていいのかどうかは別にして、自分はまだ他の選手のところまで達していないという思いがあります。だからそういう言葉を使っているだけで、それほどネガティブな意味ではないです。僕はすぐ他人と比べちゃうタイプなので、ここに来ると差が見えます。それを少しでも埋められるようにとやっています。

「結果を残せたのはエルマンのワークアウトのおかげ」

──ジョーンズカップで結果を出したことで、ここまで来ることができました。ジョーンズカップではどんな意気込みでプレーしたのですか?

最初は「ジョーンズカップかあ」という感じでしたよ。2年前に出てどれだけ厳しい大会かは覚えていたので。それでも、自分で望んで行けるものではないので、もうちょっとオフが欲しいという気分はありながらも、自分のベストを尽くそうとは思いました。

最初からエルマン(マンドーレ)がすごく気にかけてくれて、練習前のワークアウトをマンツーマンで毎日やったんですけど、これが練習よりキツいワークアウトなんですよ。大変でしたけど、ジョーンズカップで結果を残せたのはそのおかげもあったと思います。

──今回の代表入りはそのエルマンコーチから告げられたそうですね。

そうです。ジョーンズカップの最後のほうに呼び出されて「バッドニュースがある」と。なんだろうと思ったら「あと1カ月、俺と一緒にいるぞ」と言われました。

──それを聞いて、どんなリアクションをしたんですか?

「はあ」って(笑)。うれしい反面、あのしんどい練習がまた1カ月あるのかと(笑)。

──そのジョーンズカップでは、個人的にどんな成果が得られましたか?

試合では3ポイントシュートを好きなように打たせてもらって、得点面で結果を出すことができました。自分としてはもうちょっと2ポイントを増やしたい思いがあります。3ポイントシュートは打とうと思えばいつでも打てるので、もうちょっとペイントエリア内まで攻めて得点する形を増やしたかったですね。それはこの合宿でも同じです。ジョーンズカップのメンバーよりも格段に上手い選手ばかりで、ディフェンスも全然違ってペイントエリアには簡単に入れません。それを比江島選手は簡単に入っていくので、どこに違いがあるのかを観察して勉強しています。すごく良い経験ができているので、残り1カ月で少しでも改善できたらと思います。

ディフェンスでも同じことが言えて、昨シーズンが終わって自分の次の課題はディフェンスだと思っているので、代表でいろんな選手のディフェンスを見て、「こういう付き方があるのか」と学べています。ただ真似すればいいものではないので簡単には行かないですけど、改善の余地はあるのでそこを直していきます。

「全力を尽くすことが自分にとって素晴らしい経験に」

──2番ポジションには比江島選手や大貴選手がいて、今はケガをしていますが辻直人選手も含めた日本代表の常連を脅かす選手がなかなか出てこない状況でした。名古屋Dのエースになり、さらにここに食い込む存在になったことで、周囲の見方は変わりましたか?

と思うじゃないですか。でも、僕は全くオーラがないので、街を歩いていても気づかれないんですよね。「安藤選手だ!」ってのがないんです。僕も常にオーラを消しながら歩いているんですけど、地元に帰ってもいつも「オーラないよね」と言われますもんね(笑)。

僕を小さい頃から知っている地元の人たちは、僕がプロ選手になっても「なんでお前が人気なんや」みたいに言います。僕からしたらそれが普通なので、僕自身も「なんでだっけ?」と。本当にただの田舎育ちの一般人なので、プロになってからも特別な経験は何もないですよ。

──周人選手の内面にも変化はないですか?

変化というか、内心ちょっとびっくりしている部分はあります。ちょうど最近、お台場にふらっと遊びに行って「おお、フジテレビだ」って喜んで見ていたテレビ局の中に入って会見をしたので、とんとん拍子に進んでいて怖い、って感じです(笑)。

──そんな自然体すぎる周人選手、最後にワールドカップへの意気込みをお願いします。

このワールドカップという舞台は他のメンバーが勝ち取ってくれたものです。ワールドカップ出場を決める瞬間を、僕はテレビ越しに見ていました。今は代表のユニフォームを着てコートに立つチャンスが近づいています。テレビで見ていたあの舞台に立つことが、自分にも起きようとしています。今のチームには渡邊(雄太)、(八村)塁、ニック(ファジーカス)がいて、彼ら3人をいかに助けられるか、そのために力になることがチームへの貢献になると思います。自分としては泥臭いことでも何でもやれるようにして、少しでもチームの力になれるように頑張ります。そうやって全力を尽くすことが結果的に自分にとっても素晴らしい経験になると思っています。