文=鈴木健一郎 写真=バスケット・カウント編集部

シーホース三河の始動からほどなくして、川村卓也はすでにチームの輪の中心にいた。鈴木貴美一ヘッドコーチが「うまい選手はいたけど、こういうタイプの選手はいなかったので」と説明するのが川村と根來新之助の2人。メディアに公開された練習の中で、良いプレーにも悪いプレーにも盛んに声を出して雰囲気を盛り上げていく。川村が持つ天性の『周りを巻き込む力』は、すでに存分に発揮されていた。33歳で迎える新天地での挑戦にどう取り組んでいくのか、「Bリーグに新しい風を吹かせたい」と意気込む川村に話を聞いた。

「ゲームの時も会場を巻き込んで、エンタメの部分も意識」

──正直なところ、残留プレーオフで北海道に敗れた平塚での試合が終わった時点でも、川村選手が横浜を離れるとは思いませんでした。ファンの大半も同じ思いだったはずです。

新しいチームに来て前のチームのことを話すのもあれですが、僕は自分が託されているものは大きいと勝手に思っていました。自分にできることは多くあって、まだプレーできる、チームのためにプレーしたいという思いは強かったです。その中で契約継続をしないという話があった時、チームは次のステップに向かうんだと、その方向性は感じ取れました。

気持ちの切り替えには多少なりとも時間がかかりましたね。ああいう終わり方でチームを離れるのはブースターの皆さんに申し訳ないですし、自分としてもやりきれない思いがありました。だけど、こうやって次のステップに進むのはプロ選手の時間の中では時としてあることです。

──そんな中で三河からオファーが来ました。どんな気持ちでチームに加わりましたか?

過去3年間属したチームでは勝てない時期が続きましたが、今回のシーホースは強いんだ、勝って当然なんだと見られます。それに応えるのは非常にやり甲斐があることですけど、とてもハードルが高いとも思っています。このチームも昨シーズンは勝率5割ぐらいで苦しんだので、そこに自分が加わったことによって結果を勝ち取らなきゃいけないと思います。

話をいただいた時は即決でした。他のチームも新しい選手を取る時に、この年齢の選手を選ぶのは難しい部分も多いと思います。若手の成長の期待値のほうが、チームを構成する上では大きいでしょう。その中で自分に声を掛けてくれたのは、貴美一ヘッドコーチが期待しているのはプレーだけでなく、それ以外にもあるからだと思っています。

今日の練習でもそうですが、若い選手たちは自分で声を発したり、コミュニケーションを取っていくのが得意ではありません。自分が声を発することでチームの雰囲気が良くなる、そういう部分で求められていることはたくさんあると思います。ゲームの時もしっかり会場を巻き込んで、エンタメの部分も意識して、皆さんと良いチームを作っていきたいです。

「期待値だけ先行して鼻高々になるのは違う」

──川村選手自身も、三河でプレーすることになるとは予想していなかったですよね?

そうですね。周りの皆さんも同じ思いでしょうが、まさかシーホースの一員となってプレーする機会が来るとは正直思いませんでした。いろんな場面でこのチームとは戦ってきましたけど、その中でもこうして自分を招き入れてくれた貴美一ヘッドコーチには感謝しています。

貴美一さんが日本代表を指揮していた時に、選手をあまり機械的に扱わない、選手の本能、持ち味をできるだけ大切にして、ある程度の余裕を与えてくれるというのは感じていました。その時は僕も若かったので持ち味を出すには時間が掛かりましたけど、当時も日本代表に選んでくれたのは貴美一さんですし、その後も試合の前には必ず挨拶に行って話をしていました。ヘッドコーチと選手という立場の距離感以上にはならないですけど、当時から気さくに声をかけてくれるところは変わらないですね。

──三河は多くの選手が入れ替わり、川村選手だけでなくダバンテ・ガードナー選手も加わります。桜木ジェイアール選手、金丸晃輔選手、岡田侑大選手もいて、特にオフェンスの面でどんなチームになるのか、なかなか想像ができません。川村選手のイメージはいかがですか?

多くのチームがディフェンスから守ってオフェンスに繋げていくチームスタイルをやっている中で、これだけオフェンス能力を認められた選手が揃っているのはなかなかなくて、新しい風が吹くんじゃないかと僕は思っています。

ただ、そこで期待値だけ先行して鼻高々になるのは違うと思っていて。最終的に「オフェンシブなチームで成功したね」って言うのはシーズンが終わってからにしたいです。前評判は頭の片隅に置いて、地に足を着けた上でチームを作っていきたいと思っています。

攻撃力があることがチームの強みなのは間違いないので、僕やジェイ(桜木)がアシストしてアイク(アイザック・バッツ)がリバウンドを取って、というそれぞれの役割を担うことで強くなる。そうすることでBリーグに新しい風を吹かせたいですね。

「僕がやるべきことは前所属チームとはすごく変わる」

──つまり、川村選手のプレーで象徴となるのは得点ではなくアシストのイメージですか?

僕がやるべきことは前所属チームとはすごく変わると思っています。これまでは自分が多くのことを背負って「自分がやらなければ」という強い意志を持っていました。特にオフェンスの面はシュートもパスもどっちもやってチームに貢献するという思いでしたけど、このチームには素晴らしいウイングプレーヤーが複数います。なので、得点を取ることは周りに託す思いもあります。そういう選手がいかに気持ち良くシュートを打てるかを意識して、このチームにアジャストしようとしていて、練習中から自分がパスを出したいタイミングは伝えています。

その点では得点よりも、ゲームの判断だったりスペーシングだったりの細かいところを落とし込むことを心掛けています。その中で、時として自分がやらないといけないタイミングは必ずあります。それはすべての時間帯で表現するのではなく、場面を見極めてやりたいと思います。

──三河には、これからチームの中心になっていくであろう岡田侑大選手、熊谷航選手がいます。彼らにも練習中にたくさん声を掛けていましたが、どんなことを伝えているのですか?

クマ(熊谷)は自分で行くところとコントロールするところの判断がポイントガードとして大切な部分で、これだけ得点力のある選手がいると、なかなか自分にシュートチャンスが来ません。そこで気持ちをコントロールした上でフロアバランスを取ることが重要だと言っています。今日もまずオールコートでボールプッシュして速い展開を出せるなら出そう、と話しました。

逆に岡田は制御しない。彼はドリブルからの1on1に長けていて、ボールを持ってからプレーが始まるので、必要以上にボールは離させないですし、ボールを持ったらまず1on1をするように。1on1が成功している時は継続すること、ミスが起きた時にワンテンポ息を整えて次に仕掛けるチャンスをうかがうんだよ、と。昔の自分が意識してきたことを伝えているつもりです。

──三河は常勝を義務付けられたチームですが、昨シーズンはチャンピオンシップ進出を逃してもいます。今シーズンの目標はどこに置きますか?

アルバルクが2連覇したのは力があるからこそですが、頂点に立つチームが東地区からしか出ないのは、中地区にいる僕からしたら悔しいことなので、今年はその部分も強く思い描きたいです。最終的には優勝、優勝旅行でハワイのイメージなので、そのイメージを最終的に自分たちで勝ち取れるように頑張ります。