インディカー・シリーズ第13戦が行なわれたミッドオハイオで、ふたつの大きな発表があった。

 ひとつ目は、今やインディカー・シリーズのトップドライバーのひとりであるアレクサンダー・ロッシ(28歳)が、アンドレッティ・オートスポートと2020年からの複数年契約を結んだというもの。もうひとつは、そのアンドレッティ・オートスポートがホンダとの契約を継続し、2020年以降もホンダユーザーとして戦うというものだ。



アンドレッティ・オートスポーツ残留を発表したアレクサンダー・ロッシ

 ロッシにはチーム・ペンスキー入りの噂があった。インディ500で17勝(去年と今年の2連勝含む)、インディカー・シリーズのタイトル獲得15回、インディカーで通算200勝以上を誇る史上最強チームのペンスキーは、獲得の意思がなければ交渉は行なわない。デビュー年にインディ500で優勝し、この3年半ですでに7勝を挙げているロッシは、昨年に続いてシリーズチャンピオン争いをしている。チームを率いて50年の”キャプテン”ロジャー・ペンスキーのお眼鏡に適う実力を備えるに至ったということだ。

 ロッシがペンスキー入りすれば、それはイコール、ロッシがホンダドライバーからシボレードライバーに変わることを意味する。2012年にシボレーがインディカーへ復帰を果たした時の影の功労者がロジャー・ペンスキーだ。彼らがホンダエンジンユーザーに変わることは、シボレーが出場を続けている限り考えられない。

 今シーズンのミッドオハイオ前までの12戦を振り返ると、ホンダエンジン使用で優勝しているのがコルトン・ハータ、佐藤琢磨、ロッシ(2勝)、スコット・ディクソンの4人。対するシボレーユーザーはジョセフ・ニューガーデンが4勝し、シモン・パジェノーが3勝を挙げている。ニューガーデンとパジェノーはどちらもペンスキードライバー。この状況でロッシがペンスキー=シボレーに移れば、今でも強いチームがさらに突出し、マニュファクチャラー間のユーザー層の均衡も保たれなくなる。

 だが、マシンもドライバーもベストを徹底的に追求するのがペンスキー流。”狙った獲物は確実に仕留める”“ほしいものは何でも手に入れる”という彼らのこれまでのスタイルからして、ロッシのペンスキー入りは避けられないと考えられていた。

 2017年シーズンに向けて、エド・カーペンター・レーシングからニューガーデンを引き抜いた時にも、「ペンスキーはほしがりすぎる」と言われたものだ。当時のレギュラーもエリオ・カストロネベス、ファン・パブロ・モントーヤ、ウィル・パワー、パジェノーと豪華だったが、ニューガーデンと契約。ランキング8位だったモントーヤはインディ500を含む2戦だけの出場とされ、シートはニューガーデンにあてがわれた。

 現在のチーム・ペンスキーのラインナップは、ニューガーデン、パジェノー、パワーの3人。今回、ロッシを迎え入れるなら4カー体制にするしかないと見られた。同時に、ランキング上位5人のうち4人を独占するチームができれば、1強体制は盤石となり、インディカー・シリーズの”誰が勝つかわからない”醍醐味が大きく削がれてしまうことが懸念された。

 だが結局、ペンスキーは、3カーから4カーへと体制を拡大する決断を下せなかった。そこが今回の残留劇のひとつのポイントだったようだ。

 アンドレッティ・オートスポートからの発表によれば、2019年のロッシはインディ500と最終戦ラグナ・セカ(ロッシの地元カリフォルニア州ネバダシティに最も近い)を含む9戦をNAPAオートパーツの黄色と青のカラーリングで走り、7戦をオートネイションという自動車ディーラー網のスポンサーカラー、ピンクで走る。オートネイションのサポート強化により、ロッシは納得のいく待遇(=十分なサラリー)が得られることになったようだ。

 だが、それよりもロッシは、彼自身が持つアンドレッティ・オートスポートとホンダに対する忠誠心、そして、ホンダエンジンを使うチームの可能性に期待したのが残留決定の大きな理由だという。

「多くの要素を検討し、残留を決断した。今シーズンの僕らは、お互いを深く信頼してすばらしいパフォーマンスを発揮している。そこが大事だった。このチームは僕にとっては家族。アメリカのレース界でまったく知られていない僕を2016年に起用してくれたのがマイケル・アンドレッティだった。この3年半の僕らは、衝撃的とも言える好成績を残してきた。そして僕らはまだ強くなれる。それが可能な体制が整っている」

 ロッシは契約延長の背景をそう語っている。シーズン終盤の大事な時期、タイトルを争っている真っ最中に、「来年以降もチームに残る」と発表することの意味は大きい。クルーは一丸となって、残るレースも全力でロッシをサポートしていくことだろう。

「レースという世界において、継続は本当に重要だ。同じメンバーが協力し合う体制が続いていくことで、力が積み重なり、チームは強くなっていく。僕とチームの間には強い信頼関係と深いコミュニケーションがある」(ロッシ)

 かつて歴代4位となる通算42勝を挙げたチームオーナー、マイケル・アンドレッティもロッシの残留を喜んだ。

「継続は重要。それは私も常々言っていることだ。来年も我々は今年と同じドライバー4人で戦う。このラインナップは3年目で、来年は今年以上の活躍ができるものと期待している。ロッシの残留はインディカー・シリーズにとってもファンタスティックだ。パワーバランスが大きく崩れなくて済んだ。これからもインディカーでの戦いは激しいものであり続けるだろう」

 ミッドオハイオでは、ホンダ勢のもうひとつの雄、チップ・ガナッシ・レーシングが、2014年の最終戦フォンタナ以来となるワン・ツーフィニッシュを飾った。優勝はチャンピオンになること5回のベテラン、スコット・ディクソン。2位でゴールしたのはルーキーのフェリックス・ローゼンクヴィストだった。

 ディクソンは、今年からチームメイトとなったスウェーデン出身の27歳が持つスピードに強い刺激を受け、チャンピオンシップに向けた意欲を新たにしている。

「マシンの好みが私と似ているフェリックスの加入は、チームのマシンセッティング向上に大きく貢献している。彼は豊富な経験の持ち主だ。世界中のとても多くのトップカテゴリーで戦ってきた。それがインディカーでも役立っており、今後、彼は多くの勝利を重ねていくことになるはずだ」

 初の表彰台となったローゼンクヴィストは、今シーズン中にも初優勝を達成する可能性が十分にある。

 ホンダは来年も、チップ・ガナッシ・レーシングとアンドレッティ・オートスポートという2トップを維持することとなった。そして1994年からアメリカのトップオープンホイールチャンピオンシップで休むことなく戦い続けてきたホンダには、その2トップだけでなく、厚いユーザー層がある。

 佐藤琢磨とグレアム・レイホールを擁するレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング、セバスチャン・ブルデイを走らせるデイル・コイン・レーシング、ジェイムズ・ヒンチクリフをエースとするシュミット・ピーターソン・モータースポーツ、そしてルーキーのハータが1勝を挙げているハーディング・スタインブレナー・レーシング……と、ユーザーチームのほぼすべてがレースで勝つ実力を備えている。

 来年以降も、ドライバーとチームによる熾烈な戦いとともに、ホンダ対シボレーの激しいエンジンメーカー対決が続いていくことになった。