ネイマールはかなり以前から、パリ・サンジェルマン(PSG)を去りたいと願っていた。しかし、さまざまな思惑が交錯し、…

 ネイマールはかなり以前から、パリ・サンジェルマン(PSG)を去りたいと願っていた。しかし、さまざまな思惑が交錯し、なかなか実現しない。

 PSG、バルセロナ、2億2200万ユーロ(当時のレートで約291億円)、サミュエル・ウムティティ、フィリペ・コウチーニョ、アントワーヌ・グリーズマン、ダニ・アウベス、バルセロナの裁判所、リオネル・メッシ、シェイク・アル・ヘライフィ、レオナルド。一見何の脈絡もないこれらの事柄は、実はすべてネイマールの運命を決めるチェスの駒だ。それぞれがどのように動くかで、ネイマールの将来が変わってくる。



フランススーパー杯の表彰式に登場したネイマール photo by AP/AFLO

 8月16日、リバプールで、ヨーロッパ各国のクラブチームの会長が一堂に会する会議が行なわれる。その中にはもちろん、バルセロナのジョゼップ・マリア・バルトメウ会長とPSGのナーセル・アル・ヘライフィ会長もいる。彼らが顔を合わせれば、必ずネイマールの話となるだろう。

 PSGはバルセロナのウムティティに興味を示しており、ネイマールとのトレード話が出ている。もちろん等価ではないので、条件はウムティティ+コウチーニョ+1億4000万ユーロ(約168億円)とネイマールの交換だ。コウチーニョはバルセロナであまり愛されてはいない。新天地を求めれば、かつてプレミアで見せたような、人々を魅了するプレーを取り戻すことができるかもしれない。こうしてコウチーニョも、ネイマールのチェスの駒のひとつとなった。

 だが、実のところバルサにはもうそれほど資金がない。グリーズマンをアトレティコ・マドリードから獲得するのにも、銀行に資金援助を頼まねばならなかった。ご存知のようにグリーズマンはアタッカーだ。そしてネイマールもまたアタッカーだ。すでにグリーズマンがいるうえ、お金もない。なんでネイマールを取る必要がある? そう疑問に思う者は少なくないはずだ。こうしてゲームはより複雑となってくる。そしてキングのネイマールを守る駒はボードの上にどんどん少なくなってくる。

 PSGの監督トーマス・トゥヘルは「ネイマールは私の選手で、私は彼を大いに買っている」とコメントして周囲を驚かせたが、そこにネイマールにはあまり有利ではない駒が登場する。元鹿島アントラーズのレオナルドだ。PSGのスポーツディレクターに就任し、クラブを動かしている。レオナルドとネイマールは数日前に直接、話し合った。

「僕はPSGを出ていきたい。僕のことを移籍市場に出してほしい」

 ネイマールは言った。しかしレオナルドは落ち着いた様子で、礼儀正しくもこう答えた。

「様子を見てみよう。ただ、いまのところ君がほしいというオファーはひとつも来ていない」

 オファーがない限りは、ネイマールがパリを出ていくことはないだろう。今のところネイマールは日々PSGで練習をしている。彼がパリに戻ることは絶対にないだろうと誰もが言っていたのに、だ。ただし、ネイマールはまだ一度も試合には出ていない。プレシーズンの中国ツアーでもプレーしていない。

 ネイマールを守る唯一の駒、ビショップのような存在はダニ・アウベスだった。元バルセロナ、ユベントス、PSGの選手であり、コパ・アメリカの最優秀選手だ。彼はPSGを退団後、まだ行先が決まっていなかった。ヨーロッパの半分のチームがほしがったが、彼がヨーロッパで移籍したいチームは唯一、バルセロナだけだ。それもネイマールと一緒に。

 スペインの裁判所は脱税の疑いでネイマールと彼の父親を取り調べているが、その一方で、ネイマールの父親もスペインの裁判所にバルセロナを提訴している。2500万ユーロのボーナスが未払いだと言うのだ。しかしバルセロナは絶対にこの求めには応じないだろう。ネイマールの父はすでに正式にバルセロナからの文章を受け取っている。「もしネイマールがバルセロナに戻りたいのであれば、速やかにこの請求を棄却せよ」というものだ。

 ネイマールにとって厳しい日々が続く。ブラジルは彼がいなくともコパ・アメリカで優勝した。PSGとそのサポーターは彼を快く思っていない。バルセロナは、まだ契約期間を残しながらも電撃移籍した裏切りを忘れてはいない。

 おそらくヨーロッパには本気でネイマールをほしいというチームは存在しないだろう。信じられないことだが、それが現実だ。レアル・マドリードのフロレンティーノ・ペレス会長は、ずっとネイマールを獲得することを夢見ていた。しかし、ジネディーヌ・ジダンもレアルのサポーターも、ネイマールの加入を歓迎しないという意志をはっきり打ち出している。

 そこで浮かんできたのがユベントスだ。クリスティアーノ・ロナウドはネイマールのことを評価している。しかし、ユベントスで決定権を持つのは彼ではない。レアルのようにはいかない。ネイマールの父親がユベントスの幹部と話をしたようだが、可能性は10%に満たないだろう。

 それでは誰が? やはり可能性があるのはバルセロナしかない。バルセロナの王様、メッシはネイマールを自分の脇に置きたい。昨シーズン、ひどかったチャンピオンズリーグを経験し、メッシはネイマールのスピードと創造性をあらためて評価したのだ。ダニ・アウベスと彼がいてくれれば、メッシの好きなプレーができる。

 しかし、ここでネイマールにとってネガティブな一手が打たれた。唯一ネイマールにとって有効な駒だったダニ・アウベスが消えてしまったのだ。彼はブラジルのサンパウロと契約を結び、ネイマールとバルセロナに戻るプランは消えてなくなった。これから先、ネイマールはひとりで移籍ゲームをしなければならなくなった。

 しかもネイマールの価値は大暴落中だ。

 スイスにあるCIES(国際スポーツ研究センター)の調査によると、今年3月時点でのネイマールの価値は1億8000万ユーロ(約216億円)だった。サッカー選手はいいプレーをしてなんぼだ。しかしネイマールは、ここ2年連続してFIFAの年間最優秀選手のトップ10にも入っていない。今年の5月にはキャリア3度目となる大きなケガをし、リーグアンの終盤戦も、チャンピオンズリーグも、コパ・アメリカもプレーすることができなかった。

 7月に、新たにCIESがネイマールのパスの金額を試算したところ、その値段は1億4000万ユーロ(約168億円)にまで落ちていた。年末にはさらに下がってしまうという予想もある。しかしPSGはその金額では放出することはできない。もしネイマールがパリを出ていくなら、彼の獲得にかかった2億2200万ユーロからビタ一文まけたくない。もしそれより安く売ったとなれば、自分たちに先見の明がなかったことを世界的に宣伝してしまうことになるからだ。だが、そんな額を払えるチームは世界でも数少ない。

 では、どんな可能性が彼に残されているのか。たとえばフラメンゴへの6カ月間のレンタル移籍。そうすれば彼はブラジルの友人たちのそばにいられ、いいプレーを取り戻せるかもしれない。それが無理なら、あと1年はPSGにいるしかない。それもおとなしく、騒ぎを一切起こさずに……。

 8月3日、中国で行なわれたフランススーパー杯で、PSGはフランスカップの勝者レンヌを下して優勝した。ネイマールは出場停止処分でこの試合もプレーしていない。表彰式の後、記念撮影となったが、この時、選手の輪の片隅にいたネイマールを、キリアン・ムバッペが外に追い出した。もちろん冗談のつもりだろうが、ネイマールは明らかに困惑していた。PSGでの居場所のなさを、ますます感じたのかもしれない。

 8月11日、リーグアンが開幕する。移籍市場が閉まるのはまだ先だが、PSGもネイマールも、できればそれまでに決着をつけたいと思っている。果たしてこの日、パルク・デ・プランスのピッチにネイマールの姿はあるのだろうか。