昨季、フローニンゲンが本拠地ユーロボルフで試合を終えた後、板倉滉は更衣室からピッチに戻ってきた控えの仲間たちとスプ…

 昨季、フローニンゲンが本拠地ユーロボルフで試合を終えた後、板倉滉は更衣室からピッチに戻ってきた控えの仲間たちとスプリントを繰り返していた。その姿が忘れられない。

 今年1月、川崎フロンターレからマンチェスター・シティに移籍し、フローニンゲンへと貸し出された板倉は、ほとんど毎試合ベンチに入ったものの、公式戦出場は叶わなかった。



センターバックとして先発し、勝利に貢献した板倉滉

 ピッチの上での経験は嘘をつかない。半年間にわたるフローニンゲンでの実戦経験の乏しさは、日本代表の先発に抜擢されたウルグアイ戦で、立ち上がりの不安定なプレーに表われていた。しかし、その後の立ち直りの早さと、エクアドル戦での高いパフォーマンスは、板倉がオランダでしっかり自分と向き合い、クサることなく努力し続けてきたことの表われでもあった。

 この夏、フローニンゲンは6月28日のセリンゲン戦を皮切りにプレシーズンマッチを9試合行ない、そのすべてに板倉は出場した。板倉とマイク・テ・ウィーリクのセンターバックコンビはほとんどの試合に先発し、途中出場するときも一緒にピッチに入ることが多かった。

 目的は明らかだ。それは、ふたりのコンビの「熟成」にある。8月3日に行なわれる今季開幕戦のエメンとのアウェーゲームに、板倉の先発出場が決まっていたからだ。

 26分、サイドに流れたエメンのFWマルコ・コラルに対して激しくチャージにいった板倉にイエローカードが出た。だが、その後も落ち着きを失うことはなく、時には積極的にインターセプトを狙った。空中戦では周囲の状況を察知しながら、しっかりと味方につなぐシーンも目についた。

 ただ、テ・ウィーリクとのコンビがよかった半面、左SBアミル・アブサレムの裏を突かれた時の対処は、やや甘かった感がある。縦にパスをつける回数も、もう少し増やしたいところだ。しかしながら、昨季2敗と苦手にしたエメン相手のアウェーゲームで、さらにはダービーマッチという環境を思えば、かなり安定した出来だったと言える。

 フローニンゲンのゴールを守るGKセルジオ・パットから見れば、板倉のプレーが無難にいき過ぎている印象もあったのかもしれない。終盤になって左SBへのパスを繰り返す板倉に対し、パットは大きくゴールエリアから飛び出して檄を飛ばした。

 するとその直後の87分、果敢に前に出た板倉は相手のボールをインターセプト。そして左サイドの深い位置までボールをドリブルで運び、中央のMFラモン・パスカル・ルンドクヴィストにパスを出すと、ルンドクヴィストのラストパスを受けたMFアイディン・フルスティッチがGKをかわして決勝ゴールを決めた。

「この日のピッチで最高の選手です!」

 板倉のプレアシストに、オランダのテレビ実況は絶叫した。

 試合後、開幕戦に先発した気持ちを聞かれた板倉は、不遇だった時期の思いを口にした。

「うれしいという気持ちより、『ここでやらなきゃ、この前の半年間と同じことの繰り返しになる』という気持ちでした。『ここでやらないと、次はないぞ』という気持ちで試合に臨みました。

 開幕までのプレシーズンマッチで、監督やマイク(テ・ウィーリク)からいろんなことを言われてきたことを修正しつつやってきた。まだ直さないといけない点は、この試合でもたくさん見つかりました。ただ、少しずつ克服してきた結果、今日の試合を失点ゼロで抑えられたのかなと思います」

 デニー・バイス監督やテ・ウィーリクから「いろいろ言われてきたこと」とは、いったい何だろうか。

「今日の試合で言うと……いや、今日の試合だけでなく、いつもそうなんですが、もっともっとポジション取りを早くしないといけないと感じています。自分とマイクの距離、自分とサイドバックの距離……そういうところの指示を細かく出されます。その距離を意識しつつ、前からボールを取りにいくのがフローニンゲンのスタイルだと思います」

 前からボールを取りにいくのがフローニンゲン――。そのプレーを具現化したのが、87分のインターセプトからのドリブルだったのかもしれない。

「前からいきたい気持ちはありつつも、僕が簡単に裏を取られたら、キーパーが1対1の状況になってしまう。そこは難しいところで、相手との駆け引きもある。87分の場面だけを振り返ると、相手の縦パスが弱かったので、『これはいける』と判断して前に出た結果、ボールを奪えました。(ゴールに結びついた点については)僕が奪ったボールをうまく入れてくれたので、チームメイトに感謝したいと思っています」

 開幕戦での抜擢について、記者のひとりから「コパ・アメリカやプレシーズンのパフォーマンスが評価されたのか?」という質問が飛んだ。すると板倉は、「去年の積み重ね、というのはあります」とキッパリと答えた。

「昨季の半年間、とにかく試合に出してもらえなかったので、『なにくそ』という気持ちで練習しました。シーズンの最後のほうになると、少しずつ試合の合間で『アップしてこい』と言われて、アップの時間が増えたりした。それでも、最後の一歩のところで試合に出してくれない、という経験をした。だから、とにかくプレシーズンでアピールして、開幕スタメンを獲ることを意識していました」

「『アップしてこい』と言われてアップの時間が増えた」ことが、どうしてモチベーションにつながったのだろうか?

「日本では(控えの選手が)まとまって『アップに行け』と言われるんですが、こっちの監督は出す気のない選手に『アップしろ』とは言わないんです。フローニンゲンに来たばかりの頃は、一歩もアップせずに寒いなかでベンチに座っていただけでした。

 それがシーズン終盤になって、『アップしろ』と言われることが増えていった。こっちは使う気があるのか、ないのかがハッキリしているので、少しずつチャンスが来ているなと。ただ、『もうひと踏ん張りしないと、試合には出られないな』という感覚があったので、プレシーズンは常に集中してプレーしました」

 1-0というスコアで勝つことは、守備的なポジションの選手にとって最高の結果だと言われている。そのスコアでオランダデビューを飾れたことに喜びつつも、「これからの1試合、1試合が自分のなかでテストだと思います」と気持ちを引き締める。

「ちょっと出来が悪かったら、すぐに外される。集中力を切らさず、一喜一憂せずにやっていきたい」

 全国紙の記者は、「負傷中のサミール・メミシェヴィッチがいずれ練習に合流してくる。その時が板倉にとって勝負だ」と語る。ただ、見方を変えれば、鼠径(そけい)部を痛めたメミシェヴィッチの復帰時期がハッキリしない今、フローニンゲンにとっては板倉の力がどうしても必要だ。

「とにかく、試合に出続けないといけない。コパ・アメリカにも呼んでいただいたことで、A代表に入りたい気持ちがすごく強くなっている。そのためにも毎試合、アピールしないといけないと思っています」

 オランダデビューを飾った板倉は、将来をまっすぐ見据えながら今季の目標を語った。