一見すると漫画家というより、サーファーのようなワイルドな風貌。いかにも異端の雰囲気を漂わせる漫画家・クロマツテツロ…
一見すると漫画家というより、サーファーのようなワイルドな風貌。いかにも異端の雰囲気を漂わせる漫画家・クロマツテツロウ先生が、現在『グランドジャンプ』で連載している作品が『ドラフトキング』だ。プロ野球のスカウトマンを題材にした同作は、サラリーマン層を中心にじわじわと人気を広げつつある。そこでクロマツ先生にスカウトの魅力と、8月6日から開幕する第101回全国高校野球選手権(夏の甲子園)の見どころを聞いた。

『グランドジャンプ』で
「ドラフトキング」を連載中のクロマツテツロウ先生
—— 『ドラフトキング』はプロ野球のスカウトにスポットを当てた珍しい漫画ですが、なぜスカウトを描こうと思ったのでしょうか?
クロマツ 野球漫画っていうと、だいたいプロ野球か高校野球が舞台になりますよね。いくら僕が大学生や社会人の漫画を描きたいと思っていても、残念ながら地味に思われてしまう。そこで、スカウトを題材にすれば、大学生や社会人にもスポットを当てられると思ったんです。
—— 実際にプロスカウトの方にも取材しているそうですが、想像とのギャップはありましたか?
クロマツ 実は、最初は裏金とか密約とか、そうしたドロドロしたところを期待していた自分がいました(笑)。でも、調べれば調べるほど「意外とクリーンな世界なんやな」と思わされました。
—— 作中には、かなりえげつない手法をとる個性派スカウトも登場しますが。
クロマツ これは、名前は言えませんけど……完璧にモデルになった人がいます! その人は、追いかけている選手の家にかかってきた他球団スカウトからの電話に自分が出てしまうような人でして(笑)。
—— 型破りなスカウトが実在しているんですね!
クロマツ でも、そんな型破りに見える部分を掘り下げていくと、人情が見え隠れするんですよ。そもそもは「こいつをなんとか(獲得)したい」という思いの表れですからね。
—— 作中に登場するドラフト候補を見ると、名門高校の2番手投手とか適齢期を過ぎた社会人野球選手とかチョイスも個性的ですね。クロマツ先生の作品からは、まだ日の目を浴びていない「本物」を拾い上げたいという意思を感じます。
クロマツ それはとくに思っています。野球に限らず、すごい実力を持っているのに運がなくて埋もれている人っていっぱいいるじゃないですか。そんな人がこの漫画を読んで、少しでも希望を持ってもらえたらいいなと思っています。

クロマツ先生が優勝候補に推す星稜のエース・奥川恭伸
—— いよいよ夏の甲子園が始まります。クロマツ先生の注目している選手は誰でしょうか?
クロマツ 僕が応援していたチームや、見たかった選手は地方大会でだいたい負けてしまったんですよねぇ……(笑)。でも、星稜(石川)の奥川恭伸くんの完成度の高さは頭ひとつ飛び抜けていますよね。もし大船渡(岩手)の佐々木朗希くんが甲子園に出て、対決したとしても、奥川くんが投げ勝つんじゃないかと思っていました。
—— かなり高評価ですね! 奥川投手以外ではどうですか?
クロマツ 奥川くんの対抗馬と思っているのが、津田学園(三重)の前佑囲斗(まえ・ゆいと)くん。彼のストレートはお客を呼べると思います。春のセンバツでも好投しましたけど、甲子園で勝ち進むほどレベルが上がっていくような、底知れないポテンシャルを感じます。名前も個性的で、最初に見たときは読み方をネット検索しました(笑)。
—— 甲子園には行かれることもあるのですか?
クロマツ 取材として行かせていただくこともありますが、だいたいは仕事場で1日中テレビ中継を流しています。個人的にはセンターカメラからの映像が一番見やすいですね。以前にネットスカウト(インターネット媒体で活動するスカウト的観戦者)の方に話をうかがったとき、「センターカメラからのほうが球筋や打者の質がわかりやすい」と言っていたんですけど、僕も同感ですね。
—— 現場で見る楽しみはどんなところにあるでしょうか?
クロマツ 緊迫した場面での球場のひりついた雰囲気は、現場でないと味わえない臨場感があると思います。大観衆が見守る緊張感のなかで、選手がどんなパフォーマンスを見せるのか。選手のメンタル部分を見るのが、現場観戦の醍醐味ではないかと思います。
—— そんなクロマツ先生が考える、今夏の優勝チーム予想はいかがですか?
クロマツ 星稜でしょう! 2年生の投打の逸材(中森俊介投手と来田涼斗外野手)がいる明石商(兵庫)も楽しみだし、東海大相模(神奈川)の破壊力のある打線も好きなんですけど。
—— もし実現すれば、星稜としては初めての全国制覇になりますね。
クロマツ あえて期待したいですね! 5年前の夏の石川大会決勝では9回裏に8点差をひっくり返したり、こちらが想像もしないような劇的な試合運びをするチームじゃないですか。奥川くんのスター性を考えても、可能性はあると思います。
—— クロマツ先生は阪神ファンだそうですが、もしクロマツ先生が阪神のスカウトだったら今年のドラフト会議で誰を指名したいですか?
クロマツ (キッパリと)佐々木朗希くんです!
—— 話の流れからいって、奥川投手と答えるかと思いました。
クロマツ そりゃそうでしょう(笑)。もしかしたら、プロ1年目から勝つのは奥川くんかもしれませんよね。ケガがなければ2ケタ勝利をあげてしまいそうな気もします。でも、やっぱり佐々木くんのスケールの大きさには夢があります。あと、仲間思いのいい子じゃないですか(笑)。阪神に来たら来たで、メディア対応とか大変やと思いますけど。
—— 最後に読者に向けて『ドラフトキング』のアピールをお願いします。
クロマツ コアな題材だと思われがちですが、スカウトって「足の速い選手が足りないから俊足を探そう」とか「飛ばせる選手が必要だ」とか、チームに足りない部分を埋める役割で、ようは人事の仕事ですよね。結局、人が人をどう見るかという物語なので、野球にくわしい人もそうでない人も楽しめる漫画だと思います。気軽に手に取ってもらいたいですね!