いよいよ五輪選考レースがスタートする。 と言っても、開幕まで残り1年を切った東京五輪の話ではない。3年後、2022年北京冬季五輪の出場を目指すカーリング競技の話だ。 8月1日、多くのチームにとってシーズン初戦となる、ワールドカーリング…

 いよいよ五輪選考レースがスタートする。

 と言っても、開幕まで残り1年を切った東京五輪の話ではない。3年後、2022年北京冬季五輪の出場を目指すカーリング競技の話だ。

 8月1日、多くのチームにとってシーズン初戦となる、ワールドカーリングツアー(以下、WCT)のタイトルでもある『どうぎんカーリングクラシック』(8月1日~4日/北海道札幌市)が開幕した。さらに、翌週には同じくWCTタイトルとなる『ADVICS CUP』(8月9日~12日/北海道北見市常呂町)が控えているが、これらの2大会には中部電力やロコ・ソラーレら国内のトップチームがこぞって参加する。



昨季の日本選手権を制した中部電力

 というのも、この2大会が北京五輪選考レースの序盤の大きなカギを握るからだ。

 JCA(日本カーリング協会)は1月、北京五輪の日本代表チームを決める、主な決定事項を発表した。北京五輪への道は、おおまかに以下のとおりである。

A:2020年(軽井沢)と2021年(場所未定)の日本選手権を連覇したチーム

B:Aの条件が満たされなかった場合、それぞれの日本選手権優勝2チームによる代表決定戦を実施

C:Bのように代表決定戦実施の際には、2021年1月1日時点で出場2チームよりもWCTランキングが上位となるチームがある場合、そのチームを含めた3チームで代表決定戦を実施

 日本選手権が五輪代表選考の大部分を担うことは従来と変わらないが、興味深いのは、そこにWCTランキングも加味されるようになったことだ。

 また、JCAは併せて日本選手権出場チームのレギュレーション変更も発表した。

 たとえば昨季は、出場9チーム中、女子の場合は前年度優勝チーム(富士急)、五輪代表(ロコ・ソラーレ)の2チームが地区予選を免除され、残り7枠は北海道(3)、東北(1)、関東(1)、中部(1)、西日本(1)といった感じで、5つの地区ブロックに出場枠を振り分けていた。

 それが今季から、前年度優勝、準優勝の2チームが地区予選を免除。5つの地区ブロックに振り分けられていた出場枠はすべて等しく1枠となり、ワイルドカード枠とWCTランキング枠が新設された。

 ワイルドカード枠は、各地区ブロックの準優勝チームに権利があり、当該チームが申請すれば、日本選手権の直前に開催される代表決定戦(最大5チーム)に出場でき、そこで頂点に立ったチームが日本選手権の出場権を得られる。

 WCTランキング枠については、文字どおり、WCTランキングによって得られる出場枠であり、なおかつ地区予選が免除される。

 WCTランキングとは、現在開催中の『どうぎんカーリングクラシック』や、これから行なわれる『ADVICS CUP』のような、ワールドツアー認定タイトルに出場し、その結果によって得られたポイントで決まる。獲得ポイントは大会の規模や対戦相手によって違いはあるが、とにかくワールドツアーで好成績を残したチームほど多くのポイントを得られ、ランキングの上位に名を連ねることができる。なお、同ランキングについては、シーズンが開幕すると1週ごとに更新される。

 ちなみに、2018-19シーズンのWCTランキングにおいて、国内最上位チームだったのは、ロコ・ソラーレ(9位)。以下、北海道銀行フォルティウス(15位)、中部電力(19位)、富士急(46位)だった。

 そして、肝心のWCTランキング枠についてだが、JCAは以下のように定めている。

「10月末時点でのWCTランキングよって決定する。前年度の優勝、準優勝チームを除いて、WCTランキング50位以内で最上位にランクされるチームとする。該当チームがない場合は、ワイルドカード枠を2とする」

 こうした条件を踏まえて、今季のWCTランキング枠について見てみると、前年度の日本選手権を制した中部電力、2位のロコ・ソラーレが除かれるので、実質的には北海道銀行と富士急の一騎打ちとなる。両チームにとっては、これから10月末までのワールドツアーは非常に重要なものとなり、そこでできる限りの結果を残して、少しでもランキングを上げていきたい。

 逆に、もしWCTランキング枠を逃してしまうと、秋から冬にかけて行なわれる地区予選に出場しなければならない。地力に勝る北海道銀行や富士急でも、何が起きてもおかしくない一発勝負は、できることなら避けたいだろう。

 また、その状況下では、内容よりも結果が重視され、チーム強化との両立は難しくなる。そのうえ、日本選手権に向けてのピーキングという新たな課題も生まれる。

 そういう意味でも、北海道銀行、富士急の2チームにとって、WCTランキング枠を獲得できるかどうかは、シーズンの中でも分水嶺となりそうだ。両チームは、シーズン開幕とともに勝負を仕掛け、冒頭の2大会をはじめ、シーズン序盤から好成績を狙っていくことになるだろう。

 北海道銀行は『ADVICS CUP』後、翌週にはカナダに飛んでマニトバ州で開催されるワールドツアーに参加。そのまま、カナダの各地で行なわれるワールドツアー5大会に出場する予定だ。

 昨年は、参加したワールドツアーですべてクオリファイ(決勝ラウンド進出)を果たしているが、選手たちはそれで満足してはいない。スキップの吉村紗也香が語る。

「(昨季は)その先、クオリファイしてからの1勝がほしいところで(勝ち星が)取れなかった。今季はクオリファイして、その先の1勝を意識して戦っていきたい」

 一方、富士急も北海道での2大会を終えてから、まずは韓国・江陵でアジアのトップチームとの合同強化合宿に参加する予定だ。その後はカナダに飛んで、北海道銀行と同じくマニトバ州の大会を皮切りに、ワールドツアー5大会に出場する。

 なお今季、2010年のチーム発足から主力としてチームを支えた西室(旧姓・園部)淳子がチームを離れ、新体制を敷く。『どうぎんカーリングクラシック』には、カナダの大手カーリングメーカーであるアッシャム社の代表取締役、アーノルド・アッシャム氏をアドバイザーとして招聘するなど、積極的な強化がみられる。

「まずはシーズン序盤でいい成績を残して(WCT)ランキングを上げたい。30位以内に入れば、ツアーチャレンジに出られるので、そこを目標にしています(スキップ・小穴桃里)

 小穴が言う「ツアーチャレンジ」とは、WCTランキング上位チームから順に招待される、賞金や規模の大きいメジャータイトル「グランドスラム」のひとつだ。

 もちろん、前年度優勝枠の中部電力、前年度準優勝枠のロコ・ソラーレも、今季の日本選手権出場は決まっているものの、今後のことを考えれば、例年以上にWCTランキングを強く意識しながらのシーズンとなるだろう。

 実際、中部電力はワールドツアーの「グランドスラム初出場」を今季の目標のひとつに掲げている。そのため、9月上旬のカナダ・オンタリオ州で開催される大会をスタートに、2度に分けて渡航し、計5大会のワールドツアーに参戦する。

 その後、11月には日本代表として中国・深圳で行なわれるパシフィック・アジア選手権に臨んで、アジア王者の座を目指すことになる。

「去年はいい結果が出たシーズンでしたが、今年は結果とともに内容も伴うゲームを増やしたい」(スキップ・中嶋星奈)

 昨季、WCTランキングの国内最上位で、ワールドツアー「グランドスラム」の常連チームになりつつあるロコ・ソラーレは、日本チーム初のグランドスラム制覇と、昨季逃した日本女王の座を奪還することが今季の目標となる。

 今回の国内2大会を消化したあとは、すぐにアメリカ・ノースカロライナ州ローリーの大会に出場。その後、カナダを転戦し、ひとつでも多くのグランドスラムタイトルに挑戦し、そこで結果を求めながら、チームのさらなるレベルアップも推し進めていく。

 一方で、国内のアイスにも乗り続けることを明言している。12月に軽井沢で開催されるWCTタイトルの『軽井沢国際カーリング選手権』にも、すでに参加を表明。同地で開催される今季の日本選手権に向けて、密度の濃い強化を図っていくことになる。

 その長いシーズンを戦い抜くためにも、チームは7月、オンアイスに入る前に宮崎でミニキャンプを張った。ヨガ、サーフィン、スタンドアップパドルなど、積極的に新しいトレーニングを取り入れ、心身のベースアップを図った。

「これまで作ってきた身体がアイスの上で動くか。カーリングにフィットするか。もちろん勝ちを意識しながら、確かめていきたい」(サード・吉田知那美)

 この先、各チームは中長期でスケジューリングを考え、日本選手権の結果や刻々と変動するWCTランキングに合わせて、強化スケジュールも柔軟かつ頻繁に修正していくことが求められるだろう。技術やメンタルとは異なるが、それもまた、近代カーリングではトップチームの資質のひとつになっている。

 まずは今季、どのチームが”ポールポジション”を獲得するのか。3シーズンにもわたる北京五輪への熾烈なレースがいよいよ始まる。