8日間に渡って開催された競泳の世界選手権が閉幕した。

 日本は金メダル2つ、銀メダル2つ、銅メダル2つを獲得し、「金メダルを含む複数の目メダル」という当初の目標は達成した。



400mメドレーリレーに出場した(左から)大本里佳、牧野紘子、酒井夏海、青木玲緒樹

 前回大会は7つのメダルを獲得しており、数では今回を上回るが、金メダルがなかった。

 今大会は、瀬戸大也の2冠で金メダルが2つあったことで前回大会を上回る結果と言える。

 同じくオリンピック前年に行なわれた世界選手権の競泳では2015年が金3つ、銀1つ。2011年が銀4つに銅2つとなっている。

 平井伯昌コーチは、今回の結果について「選考会の結果からすればよくここまで成績を出せたのではないか」と語る。

 萩野公介、池江璃花子という男女エースの欠場もあって苦しい戦いが予想されていた今年のトビウオジャパン。4月の日本選手権、5月のジャパンオープンでも記録は決して好調とは言えなかったが、そこから考えればよく踏ん張ったと言える結果だと思う。

 ただ、今大会自己ベストを更新した選手が少なかったのが残念だった。個人種目で自己記録を更新したのは、松元克央、小日向一輝、瀬戸大也、白井璃緒、牧野紘子の5人だけだった。

 瀬戸大也は個人メドレーで2冠を達成し、さらに200mバタフライでも銀メダルを獲得。世界選手権では、日本人史上初めて個人種目3つでメダルを獲得した。400mこそ自己記録の更新はならなかったが、2種目で自己記録を更新した。

 松元克央に関しても初めてのメダル獲得だったが、しっかりと決勝で自己記録を更新する日本記録で泳ぎ、銀メダルを獲得した。

 平井コーチはこのメダルについて「チームに勢いがついた。今回は銀メダルだが、鈴木陽二コーチ(鈴木大地さんを金メダルに導いた)が指導しているということも含めて、来年の東京五輪のメダル、もしかしたら、金メダルも狙えると期待がふくらむような内容だった」と話したが、その期待感を持てる理由は、プレッシャーのかかる大事な決勝で自己記録を更新できる強さがあるからだろう。

 世界の舞台ではせめて自己記録近くで泳がなければ、そもそも戦いのステージにすら上がれない。裏を返せば、日本代表は厳しい派遣標準記録を突破してきているので、自己記録に近いタイムで泳げれば結果はついてくる、ということだ。

 例えば、女子200mバタフライの長谷川涼香のベストタイムは2分6秒00だが、仮にこの記録で決勝で泳いでいれば金メダルだったし、入江陵介も去年のアジア大会でマークした100m背泳ぎ52秒53、200m背泳ぎ1分55秒11のタイムで泳げていれば、いずれの種目もメダルに届いていた。女子平泳ぎの青木玲緒樹や女子200m個人メドレーの大本里佳と大橋悠依も同様だ。

 つまりチャンスはあったのだが、自分自身のパフォーマンスが上がってないことによってチャンスを逃しているレースが多かった。

 ある選手が「調子のピークが来なかった」というようなコメントを残していたが、調子のピークは来るものではなく、自分で作っていくものだ。

 今大会は種目によってレベルの差が大きかった。渡辺一平の200m平泳ぎのように上位3人が世界記録レベルのレースもあれば、優勝タイムが遅い種目もあったので日本人選手にも大いにチャンスがあった。

 これから東京五輪に向けて世界の選手たちは、よりコンディション、泳ぎの精度を上げてくる。今回はミスをする選手やコンディションが万全でない選手が海外勢にも多かったが、来年はそんな選手は減るだろう。少ないチャンスをものにするためにも、まずは自分のコンディションを確実に本番に合わせられる選手になる必要があるだろう。

ハイレベルなレースでは、世界のレベルが一気に上がった種目もあった。世界記録が生まれたレースをあげれば、男子100m平泳ぎのアダム・ピーティ(イギリス)、男子200mバタフライのクリストフ・ミラーク(ハンガリー)、女子200m背泳ぎのレーガン・スミス(アメリカ)、男子100mバタフライのケイブ・ドレセル(アメリカ)、男子200m平泳ぎのアントン・チュプコフ(ロシア)、女子4×200mフリーリレー のオーストラリア、混合4×100mフリーリレー のアメリカがあげられる。レーガン・スミスは、4×100mメドレーリレーの第一泳者として100m背泳ぎの世界記録を更新した。

 個人種目で世界記録を更新した選手たちは、いずれも驚異的な世界記録で、大幅に記録を更新しており、来年の東京五輪の優勝候補と言っていいだろう。

 今大会は、リレー種目のレベルアップも顕著だった。予選上位12カ国に与えられるオリンピック出場枠をどの国も本気で取りに来ていた。そのため予選からハイレベルなレースだった。

 日本が来年の五輪でメダルを狙う男子4×100mフリーリレー 、4×200mフリーリレー 、4×100mメドレーリレーのレベルも上がっており、日本がこれらの種目でメダルを狙うなら4人全員の大幅なレベルアップが必要と感じた。

 今後日本は、女子の強化が特に課題だ。今大会最終日に大橋がメダルを取ったが、女子のメダルは1つで自己ベストを出した選手も白井1名しかいない。今後大胆な強化策が必要なのではないかと思う。

 まだまだ記録が伸ばせそうな若手選手が記録更新できていない現状を考えると、所属チーム単位のトレーニングで正しく選手に負荷をかけられていないのではないかと思ってしまう。これから東京五輪まで強化できる時間は多くはないので、代表チーム主導で様々なコーチの経験も活かしながら、若手選手の可能性を伸ばしていく取り組みが必要だと感じる。

 これは極端な考えだが、これから本番まで「日本代表候補300日合宿」くらいやってもいいのではないか。実際に競泳界でも現在結果を出しているカナダチームは、大学を拠点にして若い女性選手を集め、日常のトレーニングから代表チーム主導で強化して結果を出してきている。東京五輪に向けて手遅れになる前に、大胆な強化策を期待したい。

 平井コーチは今後の強化プランとして、「9月にミーティングの合宿で強化コーチ会議をやり、そのあと長野県東御市の高地に集まって合宿を予定している。東御市で10月の終わりから12月ぐらいまでナショナルチーム合宿で集まってやり、あとは海外の合宿も考えている」と話す。

 さらに、「若手の発掘、強化が遅れていると感じる」とも話した。今大会海外勢では、男子200mバタフライ世界記録で金メダルのクリストフ・ミラークや女子400m自由形で女王ケイティ・レデッキー(アメリカ)を破って金メダルを獲得したアリアン・ティットマス(オーストラリア)、女子200m背泳ぎを世界記録で優勝したレーガン・スミス、女子100mバタフライでサラ・ショーストロム(スウェーデン)を破り優勝したカナダのマーガレット・マクニールなど、2000年〜2002年生まれの選手隊の活躍が目立った。10代の彼らがもう世界の頂点に立っているのだから、日本の若手選手も「まだまだ自分たちは若い」なんて考えずに、どんどんトップを狙っていって欲しい。

 今回のトピックスでは、ビデオ判定システムの導入もあった。これまで競泳はプールの上から各レーンのスタートサイド、ターンサイドそしてプールサイドから審判員が目視で選手の動作に違反がないかチェックしていた。これまでは違反を取るのは審判員の目視で、その場の判断でしか取れなかった。しかし、今大会からは目視で疑わしい動作があった場合、レース中に水中から録画し続けている映像をレース中またはレース後に確認して審判員が判定するようになった。大きな違いは、全てのレースの映像が残っているため、審判員は自分の目視だけで判断する必要がなく、疑わしい動作が見られた場合、すぐにビデオ判定を活用できるようになったことだ。

 これまでは「疑わしきは罰せず」という気持ちで見ていた審判員が、「疑わしきはすぐにビデオ判定でチェック」というふうになったことが大きな違いだ。そのため今大会は、今まで以上に失格を取られた選手が多かったし、競技進行中、ビデオ判定の審議のために時間が使われるシーンも多く見られた。これまでの大会では失格を取られた選手はその国が抗議をするのが通例だったが、これからは抗議をしても映像に残っていれば、判定が覆ることはないだろう。より公平なレースができることにつながっていく良い取り組みだと感じだ。

 もう東京五輪開幕まで1年を切った。本番まで時間は限られていて、やれることも限られている。その残された時間を何に充てるのか。その判断がまずは重要だ。勘や自分の経験則だけで判断するのではなく、様々な角度から「自分が速くなるためにできること」を考察し、残された時間でできる最大限の成長をして欲しいと思う。