世界水泳選手権大会、平泳ぎ200mに登場し、世界記録が生まれたこのレースで、銅メダルを獲得した渡辺一平(トヨタ)。翌日の決勝がハイレベルになることは、前日の予選と準決勝からわかっていた。ハイレベルな戦いのなかで、銅メダルを獲得した渡辺…
世界水泳選手権大会、平泳ぎ200mに登場し、世界記録が生まれたこのレースで、銅メダルを獲得した渡辺一平(トヨタ)。翌日の決勝がハイレベルになることは、前日の予選と準決勝からわかっていた。
ハイレベルな戦いのなかで、銅メダルを獲得した渡辺一平
渡辺は予選を2分09秒68の9位で通過して、「泳いでいる感覚はよかったですが、思っていたよりタイムは遅かった」という泳ぎだった。
夜の準決勝では、2分08秒04と目標どおりのタイムで泳ぎ、「準決勝のレースプランをコーチと考え、100~150mでどんどん上げて、150mのターンで自分がどこの位置にいるかを把握して力を抜く形を取りました」と、余力を残して決勝に進んだ。
一方、決勝で渡辺と接戦を繰り広げたライバル2人は、圧倒的な強さを予選、準決勝から見せていた。アントン・チュプコフ(ロシア)は、準決勝で2分06秒83。マシュー・ウィルソン(オーストラリア)は準決勝で渡辺の持つ世界記録(2分06秒67)タイを出す好調ぶりだった。
大会前の想定は対チュプコフを考えていたが、そこにウィルソンも入ってきた状況について準決勝後、渡辺はこう話していた。
「決勝にはチャレンジャーとして臨めるし、誰が世界一速いかを決める戦いになると思うので楽しみになってきた」
翌日の決勝は、2017年に世界記録を出して以来、自分がもっとも速いタイムを出せるレースプランを持って臨んだ。
前半から突っ込んだウィルソンに対し、渡辺も150mまで自身の世界記録のラップを0秒44上回る泳ぎ。ラスト50mは、奥野景介コーチと話し合った「25mは掻き数を増やさないようにして、そこからテンポアップ」と、準決勝よりひと掻き多い19ストロークに増やしたが、結果、銀メダルのウィルソンを0秒05捕えきれなかった。
優勝したチュプコフは、ラスト50mを31秒89という驚異的なラップで、世界記録を大幅に更新する2分06秒12を出したが、渡辺も2分06秒73の好記録で銅メダル獲得となった。
レース直後は「今できることは精一杯やったので、清々しい銅メダルです」と話していた渡辺。
しかし、レースから少し時間が経った表彰式後には、「めちゃめちゃ悔しいですね。2年前より強くなっている自分がいるに関わらず、また同じ場所(前回の世界水泳も銅メダル)に立っていることがすごく悔しかった」と気持ちの変化が起きていた。
そして、こう続ける。
「数字で表わすと悔しさは80ですね。金メダルを目標にここまで頑張ってきたし、世界記録も塗り替えられて、圧倒的に悔しさの方が大きい。でも精一杯できたかなと思うし、これだけ強いライバルがいるという、20はうれしさです。今回、準決勝では自分のレースプランをしっかり実行できたし、決勝でも自分の最高のレースプランで勝負することができたと思っている。日本選手権の時より、準決勝も決勝も速く泳ぐことができているので、そこは強くなっているのかなと思います」
渡辺が、万全な状態で出場できなかったことは事実だ。昨年の10月くらいから、しっかりと基礎を作って臨めた3月の高地合宿に比べ、日本選手権後はコンディショニングがうまくいかない時期があった。
そんな状態だったからこそ、予選と準決勝はなるべく力を使わない戦略を取ったが、決勝で2分6秒台を出してメダルを獲得できたのは、彼にとって大きな成果だったと言える。3本きっちりと揃えることの難しさを実感したという渡辺は続けてこう述べた。
「これから東京五輪までの1年間は、地獄のような練習に耐えて、天国のような表彰台に上がりたい」
指導する奥野コーチはこう評価する。
「大きな大会で狙って結果を出せたのは、メンタルの強さが出てきたということだと思う。やっぱり、世界記録保持者というのは重かったと思いますが、20年を見据えてここでしっかりとチャレンジできて、自分の成長を確認できたのはよかった。
彼の場合、自分の中に燃えるものを見つけるとすごく頑張れる性格だから、東京五輪を世界記録保持者としてではなく、チャレンジャーとして迎えられるのはすごくいいこと。チュプコフは同い年で、この1、2年は早稲田大(渡辺は早大卒)にも来ていて仲のいいライバルだが、そこにウィルソンが入ってきた。さらに厳しい戦いになったことにワクワクドキドキしていると思う」
渡辺の強みは、「ハイペースを持続できるスピード持久力」だと奥野コーチは言い、今後その強みをさらに引き上げながら、ラスト50mをどう作り上げていくのかが課題になる。奥野コーチが予想する、東京五輪で200mの優勝タイムは2分05秒5に向けて、ここから挑戦が始まる。
「やっぱり東京五輪では、日本のお家芸の200m平泳ぎで負けるわけにはいけないと、すごく強く感じている」と言う渡辺にとって、今回の銅メダルはその思いをより強くするものになった。