今季ここまで、1試合を除いてフル出場を続けている小川諒也(FC東京) 清水エスパルスといえば、得点能力が高いセンター…

今季ここまで、1試合を除いてフル出場を続けている小川諒也(FC東京)
清水エスパルスといえば、得点能力が高いセンターフォワード(CF)のドウグラスの名前がまず浮かぶ。しかし現在の清水において、それと並んで認知されているのはエウシーニョだろう。今季、川崎フロンターレから加わった、過去2年連続でベストイレブンに輝いている右サイドバック(SB)。この攻撃参加をいかに封じ込めるかは、対戦相手が研究しなければならない重要なポイントのひとつになる。
第20節に清水と対戦したFC東京も例外ではなかった。清水の右からの攻撃を東京の左サイドがどう封じるか。エウシーニョと対峙する左サイドハーフ(SH)は、前節の川崎フロンターレ戦に先発したナ・サンホではなく、川崎戦は右SHで先発した東慶悟。ナ・サンホはベンチ外で、右SHには大森晃太郞が先発した。FC東京は、その大森が前半16分に放った左足のスーパーゴールで先制した。
前節はホームで川崎に0-3と大敗。2位横浜F・マリノスに勝ち点3差まで接近されたFC東京にとって、このゴールは値千金に値した。
清水ペースだった試合はこれを機に一転、FC東京側に傾くことになった。よって、マン・オブ・ザ・マッチはこの大森と言っていいだろう。そして敢闘賞は、この日もよく走った永井謙佑になる。一方、選手としての評判を大きく上げたのはFC東京の左SB、小川諒也ではないか。少なくとも、試合前の焦点だったエウシーニョをどう抑えるかという問題の解決に最も貢献したのは彼だった。
本来、小川の前に立ちはだかるべきは清水の右SH、河井陽介になる。だが、清水のキャプテン格であるこの選手には、小川の攻め上がりを警戒する姿勢が低かった。「重し」は効いていない状態だった。小川はその1列後方で構えるエウシーニョの前までたびたび進出した。0-1で迎えた前半30分も、中央の高萩洋次郎からパスを受けると、小川はドリブルを開始。エウシーニョに1対1を挑んだ。
なにより突っかかっていくフォームが様になっていた。エウシーニョに対し、精神的に勝った状態にあることが見る側に伝わってくる、強気のドリブルだった。そして縦に外すと、ゴールライン際からマイナス気味に折り返した。そのクロスボールはゴール前を通過。逆サイドで構える右SB室屋成がそれを受け、間髪入れずに折り返すと、ゴールを固める清水のDFは混乱した。エウシーニョがクリアし損ねたところを、ディエゴ・オリヴェイラがシュート。そのこぼれ球を永井が押し込み、試合を決定づける2点目のゴールとした。
この時を含め、小川はこの清水戦でエウシーニョにドリブルから1対1を少なくとも3度挑み、3度とも勝利している。
2度目は後半26分だった。最終ラインの森重真人から縦パスを受けるや、背後にピタリと張り付いたエウシーニョを、ピッチの最深部まで引き連れていき、最後は股抜きを敢行。コーナーキックをゲットしている。
またその5分後には、これまた股抜きから左足シュートに持ち込み、清水のGK西部洋平を慌てさせた。
小川の出場機会が増えたのは昨季の途中から。それまでは元日本代表、太田宏介(名古屋グランパス)のサブに甘んじていた。太田の魅力はキックで、その正確性を生命線にする左SBだった。相手DF00とは距離を置きながらプレーしたが、小川は接近戦を得意にする。狭いエリアで相手の逆を突く鋭いステップワークがある。目の前に障害物が構えていても、堂々と自信満々に前進する。
キック力も備えている。正確なコントロールを武器にした太田に対し、小川の左足キックはパンチ力が魅力だ。
身長は182㎝。日本のSBとしては大型に属するが、それでいて粗野ではない。周囲とのコンビネーションもいい。
右SBを務める日本代表の室屋と比較すると特性の違いが見えてくる。室屋は直進性に優れた槍。まさに韋駄天だ。最大の武器はスピードで、将棋の駒で言えば香車に値する。周囲とあまり絡まずに単独で前進しようとする。
小川は周囲と絡もうとする。いわば中盤的SBだ。SBはピッチを後ろから見ればサイド(両端)に見えるが、正面スタンド及びバックスタンドからは端に見えない。基本ポジションが、守備的MFと同じ高さまで上昇した現代サッカーにおいては、ピッチの中央部に位置しているように見える。
周囲と絡みながら前進する。だからといってスピード、推進力が低いわけではない。総合的なバランスに優れた今日的な左SBと言っていい。
清水の左SB松原后も期待の若手だ。小川とは同い年で、身長も同じ。以前に「日本代表にいつ選ばれてもおかしくない選手だ」と記したことがあるが、現在の両者を比較すれば、成績のよいチームでプレーしている分、小川が勝っている。小川はいい流れに乗っている今が旬の左SBだ。
日本代表のこのポジションはいま定まった状態にない。長らくポジションを守ってきた長友佑都(ガラタサライ)は現在32歳。次回のW杯が望みにくい選手だ。左SBは代替わりが迫られている。このポジションの選手はチャンスが到来しているというわけだ。
佐々木翔(サンフレッチェ広島)、安西幸輝(ポルティモネンセ)、車屋紳太郎(川崎)などが現在、ややリードしているように見えるが、森保一監督は、トリニダード・トバゴ、エルサルバドルと対戦した先のキリンチャレンジ杯ではSBを置かない3-4-2-1で戦うなど、先行き不透明な状態にある。
言い換えればチャンスなのだ。旬な選手が試されやすい環境にある。小川は有力な候補なのである。FC東京の成績とその代表入りは密接な関係で結ばれていると言うべきだろう。現在のFC東京で、すでに代表入りを果たしているのは室屋成、橋本拳人、永井謙佑。小川がそれに続くFC東京4人目の代表選手になれるか、目を凝らしたい。