全日本フィギュアシニア強化合宿に参加した樋口新葉 今春から大学生になった樋口新葉は、学業と両立しながらフィギュアスケートに打ち込んでいる。週5日、学校に通う毎日。高校生の時よりも練習量は減っているというが、オンリンクとオフリンクのメリハリを…



全日本フィギュアシニア強化合宿に参加した樋口新葉

 今春から大学生になった樋口新葉は、学業と両立しながらフィギュアスケートに打ち込んでいる。週5日、学校に通う毎日。高校生の時よりも練習量は減っているというが、オンリンクとオフリンクのメリハリをしっかり作って、集中して練習に取り組んでいることが、逆にいい効果を生んでいるようだ。

「大学に入学してめちゃめちゃ生活が変わりました。楽しいですけど、テスト期間になるので焦っています。勉強は大変なところもあるし、意外と何とかなるところもあります。スケートをしていることは(学業とは)関係がないので、ちゃんと勉強しないといけない科目はすごく大変です。

 月曜日から木曜日までは1、2限に必修科目の授業があるので、(スケートリンクの)朝の貸し切り(練習)に出られなかったりすることが多く、その分、めちゃくちゃ短い時間で集中して練習を頑張るようにしています。だらだら練習しないで、メニューをちゃんと決めて練習できるようになりました。トリプルアクセルも、すごくコンスタントに練習できるようになったかな。あと、学校でスケートのことを考えないでいられるので、(精神的には)逆にすごくいいバランスが取れていると思います」

 性格的に根を詰めて考えすぎる傾向がある樋口にとって、文武両道の明治大学に入学したのがよかったのかもしれない。昨シーズンは試合で、少々気合いが空回りしたところも見受けられた。力まずもう少しリラックスしたアプローチでスケートに取り組むことで、本来持っている実力が発揮できるのではないだろうか。

 2018年、平昌五輪出場をあと一歩のところで逃した悔しさを持つ樋口にとって、次の北京五輪の代表を目指すためにも、今季は是が非でも、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を武器にしなければいけない。その覚悟は、シニア強化合宿でも伝わってきた。

 スピード感あふれるスケーティングとダイナミックでキレのいいジャンプが持ち味。シニアデビュー以来、表現力も磨いてきた。さらにレベルアップして世界のトップ争いに加わるためには、もうひとつ武器が必要だ。今季は4回転を跳んでくるロシアの若手も参戦してくるだけに、対抗するためにもトリプルアクセルが必須になることは間違いない。だからこそ、目の色を変えてトリプルアクセルの練習に励んでいるのだ。

 強化合宿の氷上練習では、トリプルアクセルの練習に時間を費やして、黙々と何度も何度も跳んでいた。完成までにはまだ時間が必要のようだが、両足着氷で転倒しないところまで形はできつつある。あとはもう少し高く跳んで、空中でしっかり回り切って降りるレベルにもっていきたいところだ。

 本人も手応えをつかんでいるようだ。

「トリプルアクセルの調子は、1回ステップアウトで降りたりしてきたので、もうそろそろ(跳べる)かな、という感じです。感覚はつかめそうですね。ヒュッとやったら降りられそうな感じです(笑)。回り切れつつあるので、あとは変な軸で跳ばないようにしたい。今季はとりあえず試合には入れていきたいですし、フリーで1本、跳びたいと思っています。

 これまで跳べないジャンプを試合でやったことはなかったので、ちょっとの不安と、跳べそうというワクワク感が半々くらいあります。昨季までは、曲かけ練習後の余った時間にアクセルの練習ができればやるという感じだったんですけど、今季はもうそんな時間もなく、練習時間もすごく少ないので、半分は曲かけして、もう半分はアクセルの練習をしています。アクセルの練習量は確実に増えていて、すごく感覚がつかみやすくなった」

 昨シーズン、紀平梨花がトリプルアクセルをひっさげて躍進を遂げたこともあり、このオフは宮原知子、坂本花織、三原舞依、横井ゆは菜ら、日本女子のトップ選手が軒並みトリプルアクセルに取り組んでいる。強化合宿の氷上練習を見る限りでは、習得に最も近づきつつあるのが樋口だった。

 今季の新しいプログラムも、樋口らしい意欲的な作品になっている。

 ショートプログラム(SP)はオーストラリアの歌手シーアの『バード・セット・フリー』をシェイ=リーン・ボーン氏が振り付けたもの。フリーはマッシモ・スカリ氏が振り付けた『ポエタ』となった。

 心に訴えかけてくる重厚なサウンドのSPについて、樋口は「振り付けの先生から提案してもらった曲で、昨年からずっと気になっていて、今年になって『やっぱりこれがいいな』と思って使うことにしました。演技内容としては、もがき苦しんでいるところから、自由に跳べるようになることを意識しながら、それをイメージして作ってもらいました。実際の演技構成も、連続3回転ジャンプまですごく苦しいんですけど(笑)、それを跳び終わったあとはちょっと自由に滑る感じで、それをステップのところで表現できたらいいなと思っています」と説明した。

 一方、フリーの『ポエタ』は、フィギュアスケート界ではおなじみの楽曲。とくにトリノ五輪銀メダルのステファン・ランビエール(スイス)が十八番とする演目として知られている。そんなプログラムを演じることについて、樋口は謙虚にこう語る。

「今回、強化合宿のゲスト講師としていらしているステファン先生は、昨季も(アイスショーで)『ポエタ』をやっていたのを見てすごいと思ったし、動画も見ています。私が滑った時に見られていたんですけど、たぶん振り付けが甘かった部分があったからか、私が滑っているリンクの端っこで、ステファンがひとりで踊っていました。ちょっと面白かったです。また、自分が貸し切りで滑っている時に途中から入ってきて、振り付けを考えていたこともありました」
 
 ランビエールの思い入れが強いプログラムを、樋口はどう演技しようとしているのか。

「自分で提案して決めたフリーはいろいろな人が滑っている曲なので、いろいろな人の動画を見たりしています。どういうイメージでやるかというのは人それぞれだと思うんですけど、自分の演技は、床で踊っているフラメンコの人たちの演技を見て参考にして、情熱的なステップをつなぎの部分で表現していきたいなと思っています」

 平昌五輪シーズンに大きな悔しさを味わった樋口が、それを糧にどんな成長を遂げるのか、今季はスケーター樋口にとって正念場のシーズンになるかもしれない。その本領発揮を期待したいところだ。