敗れた久慈の柴田護監督は、清々しい表情で敗戦を受け入れ、こう語った。「佐々木くんが投げられなくても、2番手、3番手…
敗れた久慈の柴田護監督は、清々しい表情で敗戦を受け入れ、こう語った。
「佐々木くんが投げられなくても、2番手、3番手をきちっと育てられたことは國保監督の手腕でしょう」
7月22日の岩手大会準々決勝。大船渡は前日に延長12回、194球を投じた佐々木朗希を起用せず、2人の投手を登板させた。

準々決勝の久慈戦で先発した大船渡の背番号11・大和田健人
先発した背番号11の大和田健人は、國保陽平監督が前々から「大和田は最近調子がよくて、ボールにキレ、勢い、強さがあります」と語っていた存在だ。身長は佐々木より30センチも低い160センチ。小柄な体をうまく使いこなして、130キロ前後のストレートと変化球を丹念に低めに集めていくピッチングスタイルだ。
久慈戦では立ち上がりから凡打の山を築き、前半5イニングを打者15人でパーフェクトに抑えた。久慈の柴田監督は「かなり低めに集めて丁寧なピッチングをしていたし、バッテリーの配球が上手で打たされていた」と振り返る。
今大会3試合連続で2安打以上と打撃好調だった久慈の1番打者・熊谷龍一は、序盤の攻めを悔やむ。
「大船渡は誰が先発してくるかわからないけど、どんなピッチャーでも自分たちの力を出そうと話していました。でも、大和田くんは制球力がよくて、落ち着いていました。ストレートも球速以上の伸びを感じました」
だが、大船渡が4点をリードした6回裏、一死から久慈に初ヒットが生まれて潮目が変わる。連打が出て一死一、二塁で打席に入った1番・熊谷は「なんとか自分が打って流れを持っていこう」と気持ちで振り抜き、右中間を破る2点タイムリー三塁打。さらに7回には大船渡守備陣のミスが絡み、久慈はさらに2点を返して4対4の同点に追いつく。
試合の流れが久慈に傾きかけたなか、8回裏から2番手として登板したのが、背番号10の和田吟太である。
「チームとして甲子園に行きたいという気持ちでやってきたので、朗希が投げないなかで頑張って勝ちたいという気持ちで投げました」
今大会初登板だっただけに立ち上がりは緊張したというが、8回に1番の熊谷から始まる上位打線を打者3人で抑え「そこから緊張はなくなった」という。延長11回までの4イニングを投げ、被安打1、無四球、無失点とすばらしい投球だった。

大和田健人のあと、2番手で登板し4イニングを無失点に抑えた大船渡の和田吟太
和田には期する思いがあった。
「朗希が投げない時にいつも負けていたので。自分たちが投げる時は負けないようにしたいと思っていました。春の県大会(釜石戦)も、僕が初回に失点して負けているので……」
和田は大和田ほどではないとはいえ、身長172センチ、体重60キロとやはり投手としては小柄である。佐々木とは大船渡一中時代からのチームメイトだ。中学時代は故障を抱えていた佐々木に代わり、背番号1を背負ったのが和田だった。
「ダイコウ(大船渡高校)にはもとから行くだろうとは思っていたんですけど、朗希と(三上)陽暉と『推薦で入ったら?』と軽い感じで話していて、それで行こうと思いました」
常に身近に怪物がいるというのは、どんな気分なのだろうか。多少なりとも才能に嫉妬することも、コンプレックスを刺激されることもあるに違いない。そして和田は、高校入学後に國保監督からこんなアドバイスを受けている。
「朗希とお前は違う。お前はお前なりのピッチングをしろよ」
佐々木に対抗しようと思ったことはない。だが、和田は佐々木と出会ったことで、かえって自分の生きる道を見つけたという。
「朗希はボールが速い分、朗希なりのピッチングがあると思うんです。でも僕はボールが速くないので、コントロールで攻めて打ち取りたいんです」
和田に限らず、大和田もサイドスロー右腕の柴田貴広も、小柄な2年生左腕の前川眞人も、大船渡の投手陣は佐々木という巨大な存在を知ったことで、「自分なりのピッチングを見つけ出して、抑えられるようにしていく」(和田)と言う。
また、佐々木目当ての県内外の強豪と練習試合をする機会が増えたことも、投手陣の底上げに一役買っていると和田は証言する。
「強豪はスイングが全然違います。そんな打者と対戦することで、どう抑えていくかイメージがついてきたと思います」
久慈戦で好投した大和田、和田のピッチングを見て、佐々木は試合後にこんな感想を語っている。
「ピンチでもしっかりとストライクをとって、強気のピッチングをしてくれたのが一番大きかったと思います」
この日、報道陣から体の状態を聞かれて「半分以上は回復していると思います」と語った佐々木。さらにもう1日休養日が入ることで、準決勝の一関工戦はさらに万全な状態に近づくに違いない。とはいえ準決勝と決勝も連戦になるだけに、大和田と和田の起用は今後も大事なカギを握りそうだ。
また、久慈の柴田監督が語ったように、佐々木のような突出した存在に依存するばかりではなく、複数の好投手を育て上げた國保監督の手腕も見事と言うほかない。
—— 公式戦で起用できる複数の投手を育成するために、重要なポイントはどんなところでしょうか?
久慈戦の試合後、國保監督にそう尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「心の炎が消えないようにすることです。『あいつのほうがすごいから……』と自分のことをあきらめてしまうと、なかなか成長しないので。なんとかモチベーションを保つこと。技術の前に、まずそこだと思います」
てっきり技術的な答えが返ってくると思っていただけに、意外な言葉だった。
この日、間違いなく大和田と和田のマウンド姿には「心の炎」が灯っていた。そして、その熱は間違いなく野手陣に伝播した。本来なら3番を打つ今野聡太を足の故障で欠き、4番の佐々木も欠場。そんな「飛車角落ち」の打線も、勝負強さを発揮して投手陣を援護した。
この久慈戦を通して、大船渡の選手たちは「大船渡は朗希だけのチームじゃない」と雄弁に語った。そして、それは次なる戦いに向けて大きな自信になるに違いない。