「インターハイに出たくて、千葉東高校を受験し山岳部へ入りました」 この言葉は、千葉東高校3年生・山岳部に所属する稲生選手のもの。部室での笑顔も印象的な3年生部員、高校生活最後の夏をインターハイに懸ける。 3年生の稲生選手インタビューの様子…
「インターハイに出たくて、千葉東高校を受験し山岳部へ入りました」
この言葉は、千葉東高校3年生・山岳部に所属する稲生選手のもの。部室での笑顔も印象的な3年生部員、高校生活最後の夏をインターハイに懸ける。
中学時代は、野球部に所属していたという稲生選手。インターハイ出場経験のある強豪校に中学時代から着目し、高校入学時には迷わず千葉東高校・山岳部を選択した。
彼らの活動拠点である部室は、物理講義室。稲生選手に話を聞いていると、部員たちも続々と部室に集まってきた。風通しの良い、明るい雰囲気が印象的だ。
「”東高魂(ひがしこうだましい)”って、東高の生徒全員にあるんですよ!」
約70名の部員が拠点とする物理講義室で、山岳部の生徒たちは笑顔で学校の様子を教えてくれた。
「勉強とか部活とか、学校生活の中で大変なことがあると私たちは”東高魂”で頑張ろう!ってなるんです。団結します」
登山競技は普段の練習や準備はもちろん、体力面でもハードなトレーニングを要するスポーツだ。
平日は朝と放課後に練習して、土日は奥多摩などへ出向き実際の山に登る。毎日、校舎内では(男子15キロ/女子10キロ)のザックを背負い、4階建ての校舎の階段を登り降りする”ザック練”やランニングといった体力トレーニングも行う。
心身共に強靭な能力が必要な実際の大会では、体力や知力、行動力が問われる。
彼らは、とにかく明るい。そして、賑やかだ。その光景は、ワイワイガヤガヤといった一見、楽しそうな光景に見えるが、”東高魂”ならぬチームワークの賜物だった。
インターハイの大会では、実際に調理も行う。提出する計画書とメニューが合致しているか?食材があるか?を判断され、競技中にはゴミを極力出さぬよう、カレーライスや炒め物料理を多く選ぶのだそう。
競技中は、テントの設営やチームワークなども審査対象に。テントは、制限時間10分間で設営できるかという課題があり、ザックがきれいに配置されているかなども細かく採点されるらしい。
千葉東高校の校舎内には、表彰状や優勝旗がズラリと並んだスペースがある。
大きな棚に飾られているのは、過去の歴史や伝統だけではない。
数えきれないほどの”東高魂”が込められているのだ。山岳部の顧問を30年近く務めているという眞田先生さえも、大会直前の”東高魂”について明かしてくれた。
「インターハイは、競技も採点も本当に厳しい世界ですからね。もちろん大会は、部員全員が行ける場所ではありません(眞田先生)」
眞田先生の言葉の通り、2019年のインターハイ(登山競技が開催される8月の九州・宮崎)へ行ける部員は、男女各4名のみ。千葉東高校/山岳部には、バックアップメンバーやマネジメントメンバーといった帯同部員はいない。
そして、彼らの強さを紐解くと必ず、”伝統”というキーワードへ繋がっていくことも特筆したい。
千葉東高校では、部員全員が天気図を1日1枚描くように毎日トレーニングを重ねている。新入生は、まず天気図記号から覚えていき、山の描き方、等圧線の描き方などは、2年生や3年生の先輩が教えるのだという。
2019年のインターハイへの切符を手にした千葉大会優勝の瞬間さえも、山岳部メンバーの想いは様々だった。強豪校の重圧やプレッシャーに占拠されていた者もいた。
千葉大会優勝の瞬間について尋ねると、稲生選手は静かにこう語っている。
「ほっとしましたね」
稲生選手をはじめとする3年生にとって、高校生活最後の夏となるインターハイ。大会へかける3年生の想いは、一つだった。
「先輩方の功績や千葉大会14連覇が途絶えてはいけない、それだけでしたね」
実際の登山競技では、天気図や読図を担当するという稲生選手。
昨年も出場したインターハイだからこそ、1年越しの想いは募る。大会は、3泊4日で行われ、4人一組で行動する。体力、天気図の描き方や読図、山岳の行程計画書、装備など様々な項目がチェックされ、点数を競う。
「昨年の男子4位は、本当に悔しいですね」
4位という結果だけでなく、インターハイの厳しさも体感した。4人ー組で行動するため、スピードも安全も全てがチームプレーでカバーしなければならない。
「一番早い選手がいれば、4番目の選手もいます。昨年大会の僕は、4番目だったんです」
競技中、自身のスピードや体力面で先輩の力を借りた。
体力面の評価は、減点方式なだけに悔しさは残る。例えば、登山中の1人ずつの間隔が2メートル以上空いていたら減点となる。膝に手をついて苦しそうに登っていると「無理して登山しているのかな」と判断され、減点の対象になってしまう。
雨が降ると足場の悪い状況となり、滑りやすい場所では特に気を付けて歩行するように心がけなければいけない。
インターハイにおける登山競技は、装備の重さの規定がないため、装備の割り振り方で決めることも出来る。体力に自信がある選手がいたら、他の選手よりも重めの装備を背負うことも可能だ。
1人につき重量は15キロ、4人合計60キロが目安となる。例えば、1人だけ体力に自信のある部員がいたら1人で20キロを持ち、残りの部員3人で40キロを分けてもいい。
「今年こそは、と思ってます」
稲生選手だけでなく千葉大会14連覇の強豪校の挑戦は、8月の宮崎へと続いていく。
インターハイをはじめとする数々の大会で好成績を実績を残す、千葉東高校・山岳部。
そんな彼らの”伝統”エピソードの一つに、部誌「Cairn」が存在する。過去に64冊発行されている部の歴史や感情が詰まった、分厚い冊子である。
326ページに及ぶ2019年度の部誌、なんと全て生徒が手作りしたものだという。この冊子を文化祭で賑わう校舎の一角で、山岳部は無料配布していた。
7月のとある日、こんな出来事に遭遇した。
山岳部の顧問を務める金田先生が東高文化祭の入り口(校門前)で、沢山の来場者に部誌の配布について案内を続けていた。笑顔が印象的な金田先生によると、山岳部OBや地域の人たちも皆、新しい部誌の完成を楽しみにしていたのだという。
夏の文化祭は、一大イベントの一つ。準備に数ヶ月かけ、学校全体でミュージカルなどのエンターティメントを全力で提供する。地域の人たちも文化祭を街のイベントの一つとして、心待ちにしている様子がわかる。
山岳部がインターハイへかける想いも、そして全ての生徒たちの”東高魂”も、ずっしりとした分厚い部誌に込められていた。
”クレバー”に”頂”を目指す頭脳派アスリート集団、それが千葉東高校だ。
彼らの挑戦の様子は、2019年のインターハイで目撃可能。登山競技は、8月2日から6日まで宮崎県・高千穂町の祖母山系で行われる。
取材・文 / スポーツブル編集部
撮影 / 運動通信社
写真提供 / 千葉東高校・山岳部