愛称が「アナコンダ」と聞けば、いったいどんな選手なのか見たくなるのは当然だろう。 酒田南(山形)の4番・ライトを任される伊藤海斗は身長187センチ、体重90キロの巨体である。左打席に狭いスタンスで構えるためか、余計に大きく見える。高校…

 愛称が「アナコンダ」と聞けば、いったいどんな選手なのか見たくなるのは当然だろう。

 酒田南(山形)の4番・ライトを任される伊藤海斗は身長187センチ、体重90キロの巨体である。左打席に狭いスタンスで構えるためか、余計に大きく見える。高校通算36本塁打のうち、公式戦で放った本塁打は9本。豪快に振り抜いたあと、バットが体に巻きつく姿が敵に巻きついて締めあげるアナコンダを連想させたのだろうか。



高校通算36本塁打の酒田南のスラッガー・伊藤海斗

 だが、本人に由来を聞いてみると、仮説はもろくも崩れ去った。

「1年のときは打ち方が雑というか、独特だったので、2個上の先輩が『アナコンダ』と呼び始めたのがきっかけです。あと『顔つきが似てる』とも言われます」

 本人は当時の打撃フォームを覚えていないが、クネクネとした動きがヘビを連想させたようだ。顔つきは後づけのように感じられなくもないが、いずれにしてもネーミングセンスに優れた先輩がいたということだろう。

 本来なら、高校生にしてこれほどの巨体なら熊や象などにたとえられそうなもの。それでも伊藤がチームの仲間に交じると突出して大きく見えないのは、エース右腕の渡辺拓海が191センチ、100キロとさらに大きく、ほかにもサイズの大きな選手がひしめいているからだろう。

 酒田南の鈴木剛監督は言う。

「今年の代は渡辺も海斗も、たまたま庄内から体の大きな選手が入ってくれたんです。海と山があるところは体が大きい子が多いのかなと感じます。お米もおいしいから、いくらでも食べられますよ」

 伊藤と鈴木監督はともに山形最北の遊佐(ゆざ)町出身である。庄内は日本有数の米どころだけに、伊藤のたくましい体は米で育まれたのだろう。そう想像して本人に好きな食べ物を聞くと、「麺類です」と即答。見事な肩透かしだった。

 その理由を聞いても、「米よりラーメンのほうが早く食べられますから」と、その独特な感覚はにわかには理解できなかった。

 そんな「庄内のアナコンダ」も、この夏は苦しんでいる。初戦から2試合を終えた段階で8打数1安打2打点。ファーストストライクから積極的にバットを出しているのだが、とらえきれない。

 3回戦の山形東戦では、レフトフライ2つに倒れた後の3打席目にライトへいい角度の打球を上げたが、伸びを欠いてライトフライに。バックネット裏にいた複数球団のスカウト陣は、この打席を見届けて一斉に帰路についた。

「頭ではいい打球を打てるイメージがあるのですが、現実は打てていなくて。バッティングが少し早まっている気がします。本当ならためて、ためて、自分のスイングでスパッと振るつもりが、結果が出ていないから余計な力が入って、我慢しきれていないのかなと」

 プロ入りも視野に入れて今夏に臨んだはずだったが、結果が伴わない状況に鈴木監督も「このままでは無理ですよね」と現実を見据える。しかし、続けてこんな期待を口にした。

「でも、ここから(準々決勝以降)は彼が打たないと勝てません。苦しみのなかで、いかに打てるか。振り回したい欲を抑えて、センター前に向かって謙虚なバッティングができるか。スカウトのみなさんには、いい時の彼を見てほしいですね。打者としてのタイプは違いますが、飛距離なら石垣(雅海/中日)より海斗のほうが上ですから」

 内面的にも成長している。鈴木監督は「庄内の子は真面目で、おとなしくて大舞台に弱い。でも関西の子の『ここぞ』の場面でガッと力を入れられる要領のよさを学んでいます」と語る。伊藤も関西や関東からも選手が集まる酒田南で大きな刺激を受けたという。

「遠くから来ている子は覚悟を決めて山形に来ているので、野球への思いは県内生より強いと感じます。(メンバー発表の際に)ベンチに入れなかった子が泣いている姿を見て、声をかけようと思ったのですが、結局かけられませんでした。その思いを背負って戦っているつもりです」

 ところで、東北で育った選手は留学してきた関西出身者の関西弁が伝染してしまうとよく聞く。伊藤にもそんな現象が起きているかを聞くと、「それはないです」と断言して、こう続けた。

「地元をレペゼン(代表)しているので、庄内弁をこよなく愛しています」

 堂々と言い切った姿に、思わず笑いがこみ上げてきた。この大物感はいったいどこからくるのだろうか。

 今年の山形は逸材の宝庫と言われる。優勝候補の鶴岡東にはツボにはまった打球は超高校級の丸山蓮に、強肩強打の捕手・大井光来(みつき)。侍ジャパンU−18代表候補合宿に招集されたスケール型捕手の渡部雅也(日大山形)や、本調子に戻れば注目必至の右腕・篠田怜汰(羽黒)。そして酒田南の伊藤海斗と渡辺拓海の巨漢コンビ。ここまで有望株が多い年は珍しい。

 そんな激戦の山形を制して、頂点に立つチームはどこだろうか。酒田南が山形の「レペゼン」になるには、鈴木監督が言うようにアナコンダの大暴れが必要になる。