多くのスポーツは「男女」という区分で分けられるが、ダブルダッチは男女同等だ。男と女で生まれながらの体格が違うにも関わらず、同じ土俵で戦う。ダブルダッチの歴史上、これまでほとんどの大会で男性チームが上位に君臨してきた。

しかし、その王座奪取を狙う女性がいる。2017年のDOUBLE DUTCH ONE’S FINALでは惜しくも優勝を逃すものの準優勝に輝いた。2017, 2018, 2019年と3年連続で唯一の女性プレイヤーとしてDOUBLE DUTCH ONE’S FINALに出場し、その名を轟かせたYuI。彼女が、ここまで固執して男性と戦い続ける姿勢には、どのような背景があるのだろうか。その想いを取材してきた。

 YuI vs DAICHI【DOUBLE DUTCH ONE’S FINAL 2017】

男性に負けない、圧倒的な練習量

YuIさんがダブルダッチと出会ったのは、立命館大学に入学した時。これまでラクロスに青春を注いできたYuIさんが、ダブルダッチを始めた理由は「同じスタートラインから、仲間たちと共に頂点を目指したい」という想いからだったという。「当時は、ダブルダッチ経験者がおらず、ほとんどの大学生が初心者でした。また、スポーツが大好きでダンスにも興味があった私にとって、正に最適な条件でした」と話す。


学生時代を振り返るYuIさん

瞬く間にダブルダッチに没頭したYuIさん。大学生で組んだ現役チームは「SWAGGER」。そこに、現在プロダブルダッチチーム「NEWTRAD」で活躍するSTRさんも所属していた。

「当時、努力をし続けることができたのは、STRの存在が大きく関係します。STRは自分にも他人にも厳しく、ダンス経験者であったため、本当に上手かった。パフォーマンスに自分の意見を取り入れてもらうためにも、実力をつける必要があると、いつも自分に言い聞かせていました。」と、当時を振り返る。YuIさんもSTRさんも、DOUBLE DUTCH ONE’Sが始まった当初からバトルに出場しており、2人ともその理由の根底には「SWAGGERを知って欲しい」という想いがあった。「チームで夢を叶えることが最優先だったので、YuI=SWAGGERとなれるよう、とにかく積極的にバトルの大会に出て行きました」。


現在はバトルの第一人者だ(Photo by OVER THUMPZ)

“憧れ”で留まってはいけない

しかし、研究すればするほど、男女の壁にぶち当たる。「ダブルダッチの歴代優勝チームを追っていくと、ASGRM、CAPLIORE、alttype、Waffleといった、全員男性または男性が多いチームなんです。何故、男性が強いのかと考えると、足・腰の強さもありますが『圧倒的な練習量』であるということに気づきました。ダンスでは、女性チャンピオンがいますし、ダブルダッチでも、女性が勝てるはずだと考えていました。練習量が足りないなら、練習すればいい。人が練習しているのを見ると焦るくらい、とにかく毎日練習しました。」


「とにかく、毎日練習しました」

その後、日々の努力が実り、SWAGGERで目標としていたDouble Dutsh Delight Japanへの出場を果たす。しかし、その後転機となったのが、関西女子選抜「LUSTY NAIL」に選ばれなかったことである。毎年恒例の、当年に輝いた女性プレイヤーのみで結成するチームのメンバーになれなかった現実が、今のYuIさんを形成しているという。「悔しかったんですけど、納得する結果でしたね。でも、『ダブルダッチを心底愛している』という気持ちを再確認することができた機会でもありました。自分は自分なりに、思い描くプレイヤー像を目指して前進しようと決意しました。」

「また、女性プレイヤーではなく、男性プレイヤーに憧れていた自分にも気づきました。同時に、“憧れている間は自分に実力が無い”ということも実感しました。そこで、オンリーワンの女性ダブルダッチプレイヤーYuIになるためにはどうしたらいいか、ということに焦点を当て始めました。」こうして新なスタートを切ったYuIさんは、働きながらダブルダッチを続ける道を選び、社会人プレイヤーとしての道を歩みだした。


紅一点でDOUBLE DUTCH ONE’S FINALの舞台に立つYuIさん(Photo by OVER THUMPZ)

女性が持つ表現の幅広さ

その後も積極的にバトルやショーケースの大会に出続け、数々の優勝を勝ち取ったYuIの努力が認められ、2017年にはDouble Dutch Delightゲストショーケースのプロデューサーとして抜擢された。そこで、女性チーム「ELLE」を結成する。

「女性らしさ、男性っぽさの両方を詰め込み、”女性の幅広い表現力”を集結させたパフォーマンスを作りました。その場限りではなく、継続するチームにしたくて、何度もイベントに出続けました。今では、ELLEは私の居場所です。『ELLEが好き』と言ってくれるダブルダッチプレイヤーが増えてきて、本当に嬉しく思っています。ELLEは、女性が希望を持ち、努力をし続けることにより、辿り着ける場所でありたいです」


女性のみで結成した「ELLE」(Photo by OVER THUMPZ)

2019年のDOUBLE DUTCH CONTEST JAPAN FINALに出場した「UNCROWN」は、東西の最強女性プレイヤーが集結したチームである。「王座奪取」をテーマに女性らしさを封印し、男性っぽさを武器にしたパフォーマンスとなっている。白装束に身を包み、重厚なHipHop調の曲で会場を圧倒した。YuIさんは「女性は、男性には現すことのできない女性らしさと、男性っぽさの両方を表現することができます。女性ダブルダッチプレイヤーはこれを武器として可能性を無限に広げつつ、より多様な表現力を身につけることによって、頂点を目指すことができるのでは」と、ELLEとUNCROWNでの挑戦について語る。


白装束で身を包んだ「UNCROWN」(Photo by OVER THUMPZ)

男女が同等に闘えるシーンを作りたい

YuIさんは今年の7月20日(土)に関西ダブルダッチシーン初、GIRLS SOLO BATTLEイベント「Empress」を主催する。その根底には「将来的に、男女が同等に闘えるシーンを作りたい」という想いがある。


思い描くシーンを語るYuIさん

「私にとって、『悔しさ』が原動力です。負けて、悔しい。では、勝つためには何が必要なのか?ということを考えて練習する。この繰り返しです。しかし『勝ちたい』と思う以前に、闘いの場に一歩踏み出せない女性プレイヤーが多い。そこで『Empress』の開催を試みました。WORKSHOPも行い、勇気を出してエントリーをしてくれた女性プレイヤー達にフィードバックもします。」とのことだ。

現在、YuIさんは女性プレイヤーとのバトルで負け知らず。「自分を倒してくれる女性が出てきて欲しい。そして、ダブルダッチを愛し、意欲に満ち溢れる女性がどんどん出てくるフィールド創りに挑戦していきたい。」と語る。

 ダブルダッチ界の変革に挑むYuIさん。最前線を走りながら、新たな世界を模索する彼女の挑戦から目が離せない。さらに、彼女が創り出すフィールドから、どのような女性プレイヤーが生み出されるのか期待だ。


女性が輝くシーンへ(Photo by OVER THUMPZ)

取材:小田切萌