甲子園出場を目指し、全国各地で熱戦が繰り広げられている。そんななか、神奈川に小兵の2年生ながらチームの中心として活躍するふたりの選手がいる。強豪校ともなれば、中学時代からシニアやボーイズなどの硬式野球経験者が多いが、今回紹介するふたり…

 甲子園出場を目指し、全国各地で熱戦が繰り広げられている。そんななか、神奈川に小兵の2年生ながらチームの中心として活躍するふたりの選手がいる。強豪校ともなれば、中学時代からシニアやボーイズなどの硬式野球経験者が多いが、今回紹介するふたりは軟式野球で実績があった逸材だ。

 そのひとりが、身長167センチの相洋高校の捕手・加藤陸久(りく/右投右打)。神奈川県足柄上郡開成町にある文命中学時代、”ハマの甲子園”こと横浜スタジアムで開催される軟式野球の全国大会に出場。強肩・強打の捕手だけでなく、50メートル6秒フラットの俊足ぶりも注目され、アジア選手権大会の侍ジャパンU-15のメンバーにも選出された。



橘学苑の強肩・強打の2年生捕手、加藤陸久

 当然ながら、多くの強豪校から誘いがあったが、加藤は地元の相洋に進んだ。

「中学2年の時から声をかけてもらっていましたし、家からも近い。それに本格的な施設もあるので、しっかり鍛えてもらえると思いました」

 入学してすぐに三塁を任され、1年秋から正捕手となった。自慢のバッティングは高校入学後、さらにスケールアップ。すでに20本以上の本塁打を放ち、今年春の県大会では4本塁打を放った。

 チームも加藤の活躍につられるように、厚木、横浜創学館、平塚学園、光明学園相模原を破りベスト8進出。そのうち横浜創学館以外はすべてコールド勝ちと圧倒的な攻撃を見せつけた。だが、ベスト4進出をかけた桐光学園との試合では、0対11の5回コールド負け。その試合を加藤はこう振り返る。

「桐光戦までは、リードはアウトコース1本で抑えられたんですが、試合ごとに研究されていくなかで、配球やクセといったところをつけ入れられ、こちらの誘い球にも乗ってこなかった。さすが桐光です。完敗でした。ベスト4からはより戦いが厳しくなるので、インコースを使わないとダメですね。捕手として、劣勢になった時に投手をどう引っ張っていくかを考えないと……反省しています」

 そんな加藤について、高橋伸明監督は次のように語る。

「桐光戦はいい経験になりました。加藤は思い切りのいい打撃に加えて、捕球してから二塁までの送球が1.9秒と速い。身体能力が高く、ボディーバランスもいい。身長がない分、パワーをつけるために食事量を多くして体重を増やすようにと、口うるさく言っています。今のところは高校生捕手として申し分ありません」

 昨年の日本シリーズで強肩を披露し、MVPを獲得したソフトバンクの甲斐拓也も身長170センチと決して大柄ではない。甲斐の活躍も、加藤にとって大きな励みになっている。

 まだ2年生ながら、すでにいつくかの大学から誘いがあるという。今後の成長次第ではドラフト候補に名を連ねることは間違いないだろう。

 そして、もうひとりの注目選手が、橘学苑の内野手・上田甲(こう/右投左打)。

 打球に向かっていくフットワークの軽さと身のこなしは、阪神タイガースの往年の名ショートで”牛若丸”の異名をとった吉田義男を彷彿とさせる。

身長165センチの上田だが、いざグラウンドに立つとそれほど小さく見えない。三遊間の深い打球でも、捕球してからノーステップでスローイングするなど強肩も魅力で、スピードと力強さを持ち合わせた選手だ。

 昔、ある球団のスカウトから「左投手とセカンド、ショートの選手は、身長にはこだわらない」と聞いたことがある。たしかに、投手ではヤクルトの石川雅規(167センチ/左投左打)やソフトバンクの田浦文丸(168センチ/左投左打)らが活躍し、内野手ではオリックスの福田周平(167センチ/右投左打)やDeNAの柴田竜拓(167センチ/右投左打)といった選手が結果を残している。

 上田は軟式野球の名門・横浜市立鴨居中学出身で、Y校(横浜商)で野球をやっていた父から走攻守の基本を教わった。中学3年の夏には、星槎国際湘南高校でプレーする三浦舞秋らとともに県大会で優勝を果たし、関東大会に出場した実績を持つ。



1年夏からレギュラーとして試合に出場している橘学苑・上田甲

 橘学苑では入学当初からセンスのよさを買われ、昨年夏の神奈川大会では1年生ながらトップバッターに抜擢された。当時監督の石黒滉二は、上田についてこう語る。

「十分すぎるほど、力を備えている。これほどの素材を持った選手が強豪校の誘いを断り、よくウチに来てくれたと思います。視野が広く、考えながらも瞬時の状況判断ができる選手。冷静沈着な動きのなかで、ピンチやチャンスといった試合を左右する場面で力を発揮することができる。バランスはいいし、本当にレベルの高い選手です。ベンチに置いておくわけにはいかないですよ」

 守備もさることながら、足も速く、バッテリーとの駆け引きも長けているため、盗塁成功率はほぼ100パーセント。バッティングも長打こそ少ないが、どんな球種でも打ち返せる対応力を備えている。

 対戦した相手チームの監督たちは「すばらしい内野手。神奈川県ナンバーワン」と異口同音に評価する。

 目標とする選手について、上田は次のように語る。

「好きなプレーヤーはイチロー選手。あのバットコントロールのすごさに憧れています。目標はソフトバンクの今宮健太選手。球際の強さと強肩を見習いたいです」

 7月18日に行なわれる神奈川大会の3回戦でともに勝利すれば、次戦で両校が対戦する。神奈川屈指の”小兵対決”は見られるのか。その行方にも注目したい。