文=神高尚 写真=Getty Images

スモールラインナップ全盛の中での新たな挑戦

ジミー・バトラーとの再契約を結べなかったシクサーズの動きは早く、トバイアス・ハリスとマイク・スコットを残留させると、さらにアル・ホーフォードを獲得し、大黒柱のジョエル・エンビードと合わせ、チームのサラリー総額の大部分をビッグマンを費やすことになりました。スモールラインナップ全盛の中でシクサーズが採用した『ビッグマン革命』がどのような結果をもたらすのかは新シーズンの大きな注目点です。

この2年間、シクサーズのエースはエンビードですが、戦術的な中心にいたのはベン・シモンズで、トランジションオフェンスにおいて絶大なる存在感を示していました。高いパス能力を持つシモンズのプレーに合わせるように、シクサーズはシュート能力が高く走力のある選手を揃える『チーム全体の連動性』のスタイルで50勝するチームへと成長しましたが、この戦い方は細かな対策を施されるプレーオフで苦戦することとなり、バトラーのような重要な局面において個人技で得点するクローザーを求めた流れがありました。

ラプターズをあと一歩まで追い詰めたものの敗退し、バトラーは移籍を選ぶことに。ここでシクサーズが選ぶ道は再びトランジションを増やすのか、それとも違うクローザーを探すのかのどちらかだと思われましたが、選んだのは『ビッグマン革命』という、どんな結果を生み出すのか予想するのが難しい未知の選択肢でした。

まず期待されるのはディフェンスの強化です。ヒートから加わったジョシュ・リチャードソンはリーグ最高レベルのペリメーターディフェンスを持ち、パワーフォワード並みのサイズがあるシモンズとのガードコンビは超強力。簡単にアウトサイドシュートを打たせないだけでなく、ハイプレッシャーでボールを奪う攻撃的なディフェンスができます。インサイドに侵入されても3人のビッグマンが待ち構えており、機動力を持ち合わせたヘルプディフェンスはイージーシュートを許さないでしょう。

またこれまではシクサーズ対策としてピンポイントでエンビードを狙い、3ポイントシュートの得意なビッグマンを使ってアウトサイドへ誘い出しておき、シクサーズのストロングポイントであるゴール下のリムプロテクターを消してくる戦い方です。これをやらるとインサイドのローテーションが苦しかったのですが、ビッグマンを揃えたことでスムーズな連携でカバーするディフェンスシステムを構築できそうです。

オフェンス面ではビッグマンが並ぶもののシュートの上手い選手が多く、アウトサイドシュートに不安はありません。そして常にどこかしらでミスマッチが発生し、ポストアップの有効性が高まるので、インサイドアウトを巧みに使うことが期待されます。シクサーズはもともとリーグで2番目にポストアップからの得点が多いチームで、合わせのパターンも複数用意されており、ミスマッチが増えることは得意の武器をさらに磨きがかかることになりそうです。

ビッグマンといっても、高いシュート力とアウトサイドまで守れるディフェンス力を持った選手が多く、これまで以上に安定した形を構築してきそうです。しかし、不安視されるのはシモンズのプレーパターンが合うのかどうかという点。走力があるビッグマンといってもトランジションの連続で本領を発揮するタイプではないだけに、シモンズが得意パターンを繰り出すことは減ってしまうでしょう。ハーフコートオフェンスが増えるとシュート力のないシモンズにはマークが寄らず、インサイドを固められることも多いため、せっかくのビッグマンたちがプレーするスペースが狭くなってしまう懸念も出てきます。

また、チームとしてターンオーバーが多いことも不安材料で、ゲームメークするのがシモンズくらいの構成は、自分たちのリズムが乱された時にミスが増えます。これまではそんな時にバトラーが個人技で仕掛けていましたが、誰にどんなプレーをさせるのか読めないチーム構成でもあります。それでも総じてシモンズには大きな成長が求められるのは間違いありません。

3ポイントシュートとトランジションオフェンス全盛の時代において、その方法論が一般化されるとともに、得点力については差が生まれにくくなってきました。そんな中でシクサーズが選んだ『ビッグマン革命』はディフェンスでの優位性から自分たちのペースに持ち込む狙いがありそうです。優秀な選手を揃えたとはいえ。ほとんど見かけないラインナップだけに、どのような結果を生み出すのか楽しみでもあり、成功すれば新しい流れとして追随するチームも出てくるかもしれません。