FC東京にとっては、お尻に火がついたという表現がピタリとはまる敗戦だった。FC東京はなにより終わり方が悪かった。0-3とされてもなお、川崎フロンターレに何度か決定的なチャンスを作られた。0-5になっていても不思議ではない、完敗というよ…

 FC東京にとっては、お尻に火がついたという表現がピタリとはまる敗戦だった。FC東京はなにより終わり方が悪かった。0-3とされてもなお、川崎フロンターレに何度か決定的なチャンスを作られた。0-5になっていても不思議ではない、完敗というより大敗だった。

 第18節を終了して、2位横浜F・マリノスに勝ち点6の差をつけていたFC東京。しかし今節を経て、その差は3に縮んだ。3位川崎(勝ち点4差)、4位鹿島アントラーズ(勝ち点5差)の両実力派チームは、消化試合が1試合少ないため、後続は、現状の勝ち点以上に接近の度を深めている。

 さらにFC東京は、ホームの味の素スタジアムがラグビーW杯の会場として使用されるため、8月下旬から8試合連続でアウェー戦が続く。それまでに2位以下との差をどこまで広げておくことができるか。Jリーグの優勝の行方を占う当面の焦点はこれになる。そうした意味でも、この川崎戦は注目されたカードだった。

 スタメン表をパッと見て心配になったのは川崎の方だった。中盤で大将役を務める大島僚太が欠場。昨季の年間最優秀選手、家長昭博もスタメンから外れていた。一方、ホームで迎え撃つFC東京はほぼベストメンバーだ。



FC東京戦で先制ゴールを奪った小林悠(川崎フロンターレ)

 試合が動いたのは前半20分。大島に代わり出場した下田北斗が蹴った左CKを、小林悠がヘディングで叩いた先制ゴールだ。その5分前にも、川崎は右CKからジェジエウがクロスバー直撃のヘディングシュートを放っていた。FC東京の劣勢は、この一撃でいっそう鮮明になった。

 小林に奪われたゴールは自軍サポーター席の目の前。ホーム「味スタ」のスタンドはほぼ満員。6月15日に行なわれたヴィッセル神戸戦を上回る、今季最多の観客で埋まっていた。

 そうしたなか、FC東京は例によって受けて立った。王者らしい戦い方と言えばそれまでだが、前半の前半で先制点を奪われてしまうと話は変わってくる。前に打って出て行かないと格好がつかなくなる。というわけで、反撃を試みようと重心を前に掛けようとした。慣れないサッカーで川崎に対抗しようとした。

 だが、川崎のプレッシングはいつにも増して厳しく、FC東京はその出鼻をくじかれる形になった。通常との違いは、家長に代わり、右のサイドハーフ(SH)として先発起用された阿部浩之に見て取れた。

 家長は半分、フリーポジションのように動く。逆サイドまで進出することさえしばしばある。その時、攻守が入れ替われば、右SHのポジションは空いている。相手の左サイドバック(SB)にプレスはかかりにくい。それは「奪われることを想定しながら攻めていない」という状態を意味するが、阿部が出場すると、そうした危うさは一気に解消された。華には欠けるが、チームは締まって見えた。

 マイボール時の中盤の展開についても似たようなことが言えた。川崎は通常なら大島がゲームをコントロールする。すべてが大島経由で始まるといっても過言ではないが、代役として出場した下田のプレーはもっとシンプルで、川崎の展開はいつにも増して素早かった。

 プレスの掛かりも鋭ければ、展開も早い。FC東京の焦りを伴う反撃は、その餌食になった。

 後半8分に奪われた2点目では、FC東京の左SH、ナ・サンホが捕まった。スローインのボールを胸で受けたものの、圧力を掛けられ奪われると、ボールは下田の足もとに収まった。大島の代役はここで即、左足で縦にくさびのパスを鋭く入れた。ボールを受けた小林悠と中村憲剛がパス交換をすると、FC東京の守備は脆くも崩れ、最後は齋藤学が中央で詰めて追加点とした。

 川崎は6月1日の浦和レッズ戦以降、両SBに左利きを2人(左・登里亨平、右・車屋紳太郎)置いている。右SBに左利きを置くのは、世にも希な作戦だとは以前にも述べたが、この試合では、彼ら2人の左右を入れ替えて臨んだ。FC東京の右SH東慶悟には車屋を、左SHナ・サンホには登里を対峙させた。東が中盤的であるのに対し、ナ・サンホは典型的なサイドアタッカーだ。登里は車屋に代わり、その縦への攻撃にフタをする役割を課せられた。

 172cmのナに、168cmの登里を充てるこの作戦が的中したことも、川崎の勝因として挙げたくなる。久保建英がチームを去って以来、その代役として活躍してきた韓国代表の22歳は、登里のマークを嫌ったのだろう。内で構えることが多く、逆に川崎にサイドを制せられてしまったのだ。つまり、FC東京の実際の布陣は、従来の中盤フラット型4-4-2というより、限りなく4-2-2-2に近い布陣になった。これでパスをつなぎながら前進しようとすれば、奪われる位置は真ん中付近になる。まさにプレスの餌食になりやすい布陣なのだ。

 ちなみに、筆者は前節FC東京対ガンバ大阪戦後の原稿で、ナ・サンホを左利きと記述している。ともすると左利きに見えるが、実際は右利きが正解で、ここで訂正させて頂く。しかし、その左利きのように見えるウイングプレーに、右SB登里、及び右SH阿部は幻惑されなかった。2人の縦関係の連係がそれを見事に封じたことは事実だった。

 真ん中に押しやられることになったナ・サンホの姿は、川崎のプレスが効率よく掛かっている証と言えた。

 川崎の3点目のゴールはその阿部が奪った。齋藤がGKとの1対1を外したそのこぼれを、FC東京のCB森重真人から奪い、チャンスを構築して自ら決めるという、この日の川崎のサッカーを象徴するような一撃だった。

 その阿部にラストパスを送ったのは下田であり、このチャンスのそもそもの発端は齋藤のシュートだった。普段はいずれも脇役たちである。そこにFC東京との違いを見る気がした。

 ディエゴ・オリヴェイラ、永井謙佑をはじめ、登場する人物はいつも同じ。FC東京の泣きどころは、先発メンバーをそらで言えそうな点にある。つまり、層が薄い。選択肢が限られているのだ。ベンチに控えるメンバーを川崎あるいは鹿島と比較すると、大きな差が見て取れる。

 シーズン終盤に向けて、これが一番の不安材料だ。ディエゴ・オリヴェイラ、永井のどちらかがケガなどでスタメンを外れれば、10の戦力は一気に7〜8まで低下する。

 次週の清水エスパルス戦はアウェーだが、再来週からはホーム戦が3試合続く。そしてその後は前述のようにアウェー8連戦を迎える。その前までに2位以下との差をどれほど広げておくことができるか。FC東京は新たな選択肢をもう2つ、3つ見出せないと、危なそうだ。シーズン後半に向け、上位争いは混戦必至と見る。