エルポソ・ムルシア/清水和也インタビュー 前編 6月中に発表されたサッカー日本代表MF久保建英のレアル・マドリード移…
エルポソ・ムルシア/清水和也インタビュー 前編
6月中に発表されたサッカー日本代表MF久保建英のレアル・マドリード移籍は、世界的にも大々的に報じられた。レアル・マドリードは、スペインが誇る世界に名を轟かす名門クラブであり、かつて最大のライバルクラブの下部組織で育った18歳のタレントの加入は、今後も引き続き報じ続けられるだろう。

スペインフットサルの3大クラブの一つ、エルポソ・ムルシアに所属する清水和也
スペインには、そのレアル・マドリードが所属する「リーガ・エスパニョーラ」という世界有数のサッカーリーグがあるが、フットサルのスペインリーグ「リーガ・ナシオナル・デ・フットボール・サラ(LNFS)」は、突出したレベルを誇る世界最高峰のリーグである。そして、リーガ・エスパニョーラにレアル・マドリード、バルセロナ、アトレチコ・マドリードと3強があるように、LNFSも3大クラブがある。
ひとつはインテル・モビスタ。世界最高の選手と呼ばれ、かつて日本の名古屋オーシャンズでもプレーしたポルトガル代表、リカルジーニョが現在所属している。もうひとつは、サッカーのバルセロナのフットサル部門であるバルセロナ・ラッサ。そして、レギュラーシーズンの順位が過去に一度も4位以下に落ちたことのない名門、エルポソ・ムルシアである。
ブラジル人を筆頭に世界中から各国代表クラスの名手が集うLNFSのなかでも、この3つのクラブのレベルは突出している。そして、そのなかのひとつであるエルポソ・ムルシアのBチームに、昨シーズンからひとりの日本代表選手が名を連ねているのだ。それが日本のフットサル界を変える存在として期待されている清水和也だ。現在、オフで帰国している清水にスペインのフットサルについて話をしてもらった。
「バルセロナのような例外もありますが、スペインでフットサルクラブを保有しているのは、サッカーチームがリーガ・エスパニョーラの上位リーグに参戦していない町が多いんです。その町が、『おらが町のチーム』としてフットサルチームを手厚くバックアップしています。スペインでは、ホーム&アウェーの文化があることを誰もがわかっていますね。ホームチームをバックアップする熱量が、すごく強いんです。たとえば僕のチームのユニフォームは赤なのですが、ホームの試合になるとアリーナが真っ赤になって、アウェーのチームはやりづらいだろうなと思いますし、プレーしていてもホームアドバンテージを感じます」
現在、日本のフットサル全国リーグであるFリーグは集客に苦しんでいる。6月末に行なわれたバサジィ大分とエスポラーダ北海道の試合は、平日に中立地で開催されたこともあり、観衆はわずか166人。だが、LNFSはすべての試合がホーム&アウェーで行なわれていて、どの会場も安定して観客を集めることができている。その理由について清水は「フットサルの認知度」の違いを挙げた。
スペインではバスケットボールや自転車競技など、さまざまなスポーツが盛んだが、なかでもサッカーとフットサルの人気は突出しているという。フットサルの試合が開催されるアリーナでは、試合以外のエンターテインメントは特別に行なわれない。それでも会場には老若男女が集まり、地元のチームに声援を送るという。スペインに行った直後には「なんでこんなに来るの?」と疑問に思ったという清水の言葉を借りれば、「フットサルを見ることが生活の一部になっている」のだ。
「試合のチケットの値段は5ユーロから10ユーロ(約700円から1400円)。その値段は、対戦相手や試合の重要性によって変わってきます。たとえばバルセロナ・ラッサやインテル・モビスタとの大一番は10ユーロ、逆に下位チームとの注目が集まりにくい試合では5ユーロとか。また、順位が決定するなど特別な意味を持った試合になると、価格が上がったりしますね」
清水の所属するエルポソ・ムルシアのトップチームは、2018-19シーズンのLNFSでは、レギュラーシーズンの上位8チームが進出できるプレーオフを勝ち上がり決勝に進出。バルセロナ・ラッサに敗れて惜しくも準優勝となった。エルポソのサテライトチームであるエルポソB(2部リーグに所属)で主にプレーしていた清水だが、プレーオフ進出決定後の2試合ではトップチームの一員としてLNFSの舞台でもプレーした。この両チーム間では、どの程度の実力差があるのか。

清水の昨シーズンは2部リーグで17得点。1部の試合にも出場した
photo by Zama Kenji
「現役のブラジル代表FPピト(2019-20シーズンはインテル・モビスタへ移籍)やスペイン代表FPミゲリンら、エルポソのトップチームには世界的なスター選手が集っています。それに対してエルポソBは、22歳の僕がチーム最年長で、他の選手たちは世界各国、またスペイン各地から集められた将来有望の選手たちです。もともとエルポソは下部組織の育成力に定評があり、昨季はU-18から下のカテゴリーすべてがスペインの全国大会を制したんですよ」
清水はエルポソBでエースストライカーとして活躍し、シーズン16得点を記録した。エルポソBの試合の見どころのひとつとして、清水vs他クラブのフィクソ(DF)という構図ができており、スペイン国内でも知られる存在になってきた。それでも、1部リーグの試合に出た時は、まだまだ差を感じたという。
「スペインのフィクソ(DF)は、基本的にボールを(自分の足元に)収めさせてくれます。2部のレベルでは、そこから反転してシュートまで持ち込むことができたのですが、1部のフィクソを背負った時は、反転できないことが多かったですね。ボールを収めた後、どんどん選択肢を消されて後ろに戻すしかなくなるんです。でも、ボールを返すとフィクソにとっては怖くない。1部のフィクソを相手に、どうやったら違いを出せるかは、もうちょっと経験を積まないと厳しいなと感じました」
※フットサルのポジション GKはゴレイロ、FP(フィールドプレーヤー)は、DF=フィクソ、MF=アラ、FW=ピヴォ。
ちなみに、エルポソBの選手たちは大学生の選手もいるという。彼らはクラブから家と食事が与えられ、月に数万円の収入に加え、大学の学費も全額クラブに負担してもらっているそうだ。フットサルで結果を残せれば、他クラブからより高い給料で引き抜かれていき、芽が出なければ、そのまま社会人になるという流れができている。
「選手はみんな頑張りたいと思いますし、環境的にはフットサルに集中できます。練習はちゃんとできますし、メディカルも日本ほど充実はしていませんが、無料で受けられます。クラブの環境がしっかりしている強みがありますね」
サッカーでも元日本代表MF本田圭佑はオランダ2部リーグのVVVフェンロで結果を残し、CSKAモスクワ(ロシア)やミラン(イタリア)といったビッグクラブへとステップアップしていった。エルポソBの清水より若い選手たちも、すでに3選手が2019-20シーズンの開幕を前に他クラブへステップアップしたという。清水自身にもオファーがあったというが、さまざまなことを考慮した末に残留を決意。新シーズンもエルポソBで戦うことを決断した。
「年齢的にも、エルポソBで絶対的な存在にならないといけないと感じています。年間のゴール数で言えば、30点は取らないといけない。昨シーズンは1試合目で2点取れましたが、そこからはズルズルとノーゴールの試合が続き、ようやく後半戦になって良い状態で戦えました。今年は環境にも慣れましたし、最初から”目標は30点”という基準を持って戦えたらいいと思います。1シーズン戦うことで、スペインでも名前を広げることはできたので、2年目、3年目はどう流れをつくるか非常に重要な1年になると思っています」
かつては多くの日本人フットサル選手が、レベルアップする場を求めて欧州へと渡っていった。現在、国内には全国リーグであるFリーグができ、そうした選手は稀になってきている。清水が世界最高峰のLNFSで戦える実力を身につけることができた時、日本フットサル界にまた新たな風が吹くことになるかもしれない。