全国高等学校野球選手権大会南北海道大会が15日に開幕する。球児たちの夢舞台、夏の甲子園切符をかけて今年も全16チームが熱…
全国高等学校野球選手権大会南北海道大会が15日に開幕する。球児たちの夢舞台、夏の甲子園切符をかけて今年も全16チームが熱い戦いを繰り広げる。その中で10年ぶりに全道大会に出場するのが北海道胆振管内むかわ町にある、鵡川高校。
彼らはこの夏、ある特別な思いを持って臨んでいる。
あの日を忘れることは、決してないだろう。
2018年9月6日3時7分に発生した北海道胆振東部地震。震度6強の地震がむかわ町をおそった。250人以上の怪我人が出る大きな被害に見舞われる中、むかわ高校野球部も同様に被害を受けた。

選手たちが住んでいる寮は数十センチ横にずれ、水道管が破裂した。ガラスが割れ部屋の棚も倒れた。
一瞬何が起こったのか、夢なのが現実なのか・・無我夢中で鬼海(きかい)将一監督(35)は寮にいる選手を1Fに集めた。

点呼を取り、選手全員が無事であることを確認して初めて少し安堵した。幸いにも怪我をした選手は1人もいなかった。それだけが救いだった。しかし、夜が空け徐々に町の被害状況が明るみに出るにつれ、一瞬の安堵はまた恐怖へと変わっていった。
普段練習をしている野球部のグラウンドも変わり果てた姿に。防球ネットが倒れ、至る所で地割れが起きていた。
当然練習などできるはずもなく全寮制の野球部は全員、一時帰宅を余儀なくされた。
9日後には新チームのスタートとなる秋季北海道大会室蘭支部予選の初戦を控えていた。

鬼海監督は野球部の監督であると共にむかわ町の職員を務めていて、地震発生直後から避難所で被災者の対応に追われていた。
「何とか町の人たちのためになりたい」睡眠時間もままならない中、町民を不安にさせないよう気丈にふるまっていた。
その一方で、ある葛藤と戦っていた。
「この状況で自分達は野球をしても良いのだろうか」
むかわ町の隣、厚真町では多数の死者が出ている。自宅が被害に合い避難所暮らしを余儀なくされている町民がたくさんいる。

それでも出場するという決断をした。
鵡川高校野球部は全寮制、遠くは函館七飯町から来ている選手もいる。野球をするためにこの町にやってきた選手達に何とか野球をやらせてあげたい。そして何よりも選手たちが1日でも早く練習ができるようにグラウンドを使用できるよう尽力してくれた町の人たちのために感謝の気持ちを持って戦ってほしい。そうメッセージを込めた。
迎えた室蘭支部の予選。
苫小牧工業と対戦した鵡川高校は6-2で敗れた。どんなに点差が開いても最後まで諦めない全力プレーに客席からは惜しみない拍手が送られていた。
試合に敗れたその日、チームの主将 内海陸選手は監督にある相談をした。
「ぼくたちに何かできることはありませんか」
選手たちが自ら、復興のためにボランティア活動をしたいと志願したのだ。その翌日からチーム全員で避難所の掃除を始めた。近隣農家のビニールハウスの修復作業や撤去作業も行った。冬には除雪ボランティアをするなど継続的に活動した。

鵡川高校野球部員は毎日「野球ノート」をつけていて、監督に提出をしている。被災した直後の野球ノートにはこう記されていた。
「むかわ町民を甲子園に連れて行きたい」
自分たちが被災したにも関わらず、町の人のために何ができるのか、必死に考えていた。
その言葉を見た時の鬼海監督の表情はとても嬉しそうだった。

今でも彼らは仮設の寮に住んでいる。以前住んでいた寮は取り壊しをすることが決まった。
決してまだ生活が完全に戻ったとは言えない中、10年ぶりに掴んだ南北海道大会の出場権。
甲子園をかけての戦いが、いよいよスタートする。
彼らは試合中、心のどこかでむかわ町民を思いながら戦うだろう。その姿は必ずむかわ町の希望の光となる。
鵡川高校の初戦は15日、東海大札幌と札幌円山球場で対戦する。

写真提供:鵡川高校野球部